サイトアイコン IT NEWS

ミルスペック準拠「Apple Watch Ultra」を試して感じた良い点、気になった点

Appleが9月23日に発売した「Apple Watch Ultra」は、Apple Watchシリーズ初となる本格的なアウトドア向きモデル。従来機にはなかった特徴をいくつも備えています。

本稿では、同モデルを日常やワークアウト用途で使ってみたので、同機の概要をおさらいしつつ、インプレッションについてお届けします。

 

■Apple Watch Ultraとは

Appleは2022年9月のAppleイベントにて、Apple Watch新モデルとして 「Series 8」「SE(第2世代)」「Ultra」という3モデルを発表しました。なかでも、本稿で取り上げる「Apple Watch Ultra」は、シリーズで初めてアウトドア向けの仕様を意識したモデルです。

▲Apple Watch Ultraはシリーズで初めてアウトドアユースを強く想定したモデルだ

同機のオンラインのApple Storeでの販売価格は、12万4800円(税込、以下同)。「Apple Watch SE(第2世代)」が3万7800円~、「Apple Watch Series 8」が5万9800円~で購入できると思うと、高価な選択肢であることは間違いありません。

ただし、実はGarmin(ガーミン)に代表されるようなアウトドア向けスマートウォッチ市場の競合製品を見渡してみると、12万円越えの製品も意外と多く、このジャンルとしては「相場」であるという印象を受けます。

ちなみに、Apple Watch Ultraには、安価な「GPSモデル」が用意されておらず、対応の通信プランを契約すれば単体でモバイル通信も行える「GPS+Cellularモデル」しか選択できないことも、他の2台とは異なるポイントです。

 

■アウトドア向きの仕様

Apple Watch Ultraのデザインは、他のApple Watchとは異なっています。ケースサイズは49mmと大きく、素材にはチタニウムを採用。ディスプレイは少し飛び出ており、エッジ部分は鋭くなっています。

▲ケースサイズは49mm

Digital Crown(デジタルクラウン)やサイドボタンは少しベースが飛び出るような形状になっていて、反対側の側面にはグローブを装着して使用することを想定して「アクションボタン」と呼ばれるもうひとつの物理ボタンも搭載されました。

▲右側面のDigital Crownとサイドボタンはやや基盤が出っ張った

▲反対側面にはアクションボタンが配置された

一応、補足しておくと、従来のApple Watchシリーズでも、アウトドア用途に使えないわけではありませんでした。例えば、「オープンウォーター」と表現する用途。すなわち、サーフィンやトライアスロンなどで海を泳ぐ際にも、Apple Watchは使えました。また、スキーの滑走記録を残すためのアプリなども、サードパーティではありますが、既に展開されてきました。

しかし、Apple Watch Ultraは、通常のApple Watchでは対応できない、より過酷な条件下でも使えるように設計されています。米国国防総省が定める物資調達基準「MIL-STD 810H」(いわゆるミルスペック)に準拠する耐久性を備えていて、動作可能温度は通常のApple Watchが0℃~35℃であるのに対し、Apple Watch Ultraは-20℃~55℃まで対応します。

例えば、ウィンタースポーツや、登山、冬の気温が氷点下になる寒冷地では、従来モデルよりも安定した挙動が期待できるでしょう。

また耐水性能については、他のApple Watchが「50m」であり、泳ぐ際に使えるとされているのに対し、Apple Watch Ultraでは「100m」という表記になり、ダイビングアクセサリの技術標準機核である「EN13319」にも準拠。具体的には、水深40mまでのレクリエーションダイビングに使えるとされています。

ちなみに、水温センサー搭載の水深計も搭載しており、水深1m以上潜ると「水深」アプリが自動で起動する仕組みになっています(水深アプリの詳細についてはこちらを参照)。

ほかにも、画面輝度が最大2000ニトに向上し、直射日光下でも文字盤を視認しやすくなり、L1+L5の高精度2周波GPSに対応し位置測位を正確に行いやすくもなっています。さらに非常時用のサイレンを鳴らせること、通常モードでのバッテリー持ちが他モデルの18時間にくらべApple Watch Ultraでは最大36時間まで強化されていること、などもアウトドアユースを追求したからこその特徴です。

 

■梱包とデザイン、装着感

Apple Watchシリーズを既に使ったことがある方はご存知かと思いますが、他モデルの製品パッケージは縦長の紙箱でした。しかし、Apple Watch Ultraの梱包は、より幅の広い長方形です。開封するとアウトドアを想像させる写真が広がり、Ultraだけの「特別感」が演出されています。

▲Apple Watch Ultraのパッケージ

▲開封すると山の写真が広がる

▲本体と充電ケーブル

▲Apple Watch Ultra同梱の充電ケーブル。ケーブル部が編み込み素材になっている

装着してみると、49mmケースの文字盤はかなり大きく感じます。そのため、表示される情報は見やすく、キーボード入力なども行いやすい印象です。

▲大きなディスプレイではキーボード入力も容易だ

一方、ケース素材がチタニウムなので、ケース重量が61.3gもあり、ややずっしりと感じます。例えば、Apple Watch SEの40mmケース・GPSモデルは26.4gなので、それと比べると約2.3倍。長距離走で使うには、装着時の存在感が少し強いかもしれません。

▲Apple Watch Ultraの裏面には「ねじ」がある

検証時のバンドは「トレイルループ」を使いました。このトレイルループは、スポーツループバンドと同様、バックルに相当する部分が面ファスナーになっています。ただし、少しタグが飛び出しており、グローブを装着したままでも着脱が行いやすくなっている点が異なります。

▲トレイルループバンド

▲トレイルループバンドには、メンファスナー式のバックル部分にタグがある

このタグがあるため、厚手のグローブを装着した状態でも扱いやすいのですが、反面素手で扱う場合には通常のスポーツループバンドの方が着脱しやすい印象です。また、普段スポーツループバンドを使っている筆者としては、少々肌触りが硬く感じます。Apple Watchシリーズでは、バンドを簡単に交換できるので、日常用には別途バンドを調達した方が快適かもしれません。

 

■日常使いで気になったポイント

筐体デザインについては、気になる部分が3つありました。1つ目はディスプレイのエッジが結構鋭いこと。これは長袖を着たときにも、文字盤が隠れにくいというメリットを生む特徴ではあります。

一方、勢いよく腕を動かしたときに、人やモノにエッジがぶつかる可能性はやや心配です。他のApple Watchではディスプレイにエッジがないので、家族で川の字で寝るようなご家庭でも睡眠の測定などにも安心して使えるのですが、Apple Watch Ultraではちょっと躊躇します。

▲Apple Watch Ultraはディスプレイが飛び出ているので、袖で画面が隠れづらいのは良い

▲ただし、その分エッジが鋭い。怪我や事故を予防するために腕を振り回したりする可能性がある場面では注意が必要だ

2つ目は、Digital Crown(デジタルクラウン)を回すときに、リューズの一部が肌に当たる場合があること。もちろん、装着位置や押す強さによっても変わるのですが、ふとした操作で肌にグリグリとリューズの溝が当たるのは、少々気になりました。

▲Digital Crownの新デザインは格好良いのだが、回すときに肌に触れることがあったのは気になった

3つ目は、アクションボタンを間違って押してしまう場合があること。これは慣れの問題でもありますが、リューズやサイドボタンを押下したいときに、アクションボタンが反対側にあるので、間違って操作してしまうことがありました。

アクションボタンにはショートカット機能を割り当てられるのがメリットですが、誤動作のたびに機能を取り消すのは少々ストレスに感じました。コーナーを押さえるようにすればいいのですが、慣れるまで少しかかりそうです。

▲アクションボタンでのショートカット操作は、ある程度カスタマイズ可能なので、ワークアウトの開始操作やウェイポイントの登録操作など、頻繁に使いたい機能を配置しておいたり、コンプリケーション(文字盤に配置できるアプリショートカット)に収まりきらない機能を配置しておけば便利。ただし、従来モデルに慣れていると、ボタン配置に慣れないうちは誤操作しやすいかも

 

■バッテリー持ちについて

今回の検証期間では登山やダイビングを試せなかったので、1時間の「屋外ウォーキング」(常時表示オン、モバイル通信はなし)で、バッテリーが何パーセント減るのか検証してみました。

▲Apple Watch Ultraで屋外ワークアウト。輝度の高くなったディスプレイは視認性もバッチリ

ワークアウト開始時に89%あったバッテリー残量は、1時間で81%まで減りました。つまり、GPSを有効にした屋外ワークアウト1時間で8%のバッテリーが減ったことになります。

▲屋外ウォーキングスタート時のバッテリー残量(左)と約1時間後のバッテリー残量(右)

もし、バッテリーの消費速度が一定だと仮定すると、バッテリー残量が100%の状態から12時間のワークアウトを実施すると4%まで減ることになります。Apple Watch Ultraでは、「GPSを使用した屋外ワークアウト」で最大12時間利用できるとされていますので、看板に偽りなしと判断して良さそうです。

1km12分くらいのペースで42.195km歩いた場合でも、8時間半弱なので、どれだけ遅くてもフルマラソンは余裕で記録できますね(ちなみに、Series 8だとGPSを使用した屋外ワークアウトで最大7時間しか持たないので、フルマラソンの距離を歩いた場合は、途中で電池が切れる可能性が高い)。

watchOS 9で追加された「バックトレース」(GPS情報を使ってユーザーが移動した経路を表示する機能)を有効にした状態でも、屋外ウォーキングを試してみましたが、こちらも約1時間で77%から69%へ変化。減り幅は8%で変わりませんでした。どうせ屋外ワークアウトを使うならば、バックトレース機能は気兼ねなく使えそうです。

▲watchOS 9のコンパスアプリで使える「バックトレース」機能は、通ってきた経路を記録でき、現在地からスタート地点までの方向を確認したり、通ってきた道を辿って戻ることにも使える。分岐点などがある場合には、「ウェイポイント」と呼ばれる特定の緯度経度の地点として登録しておくと距離感がつかみやすい

▲バックトレースをオンにした状態での屋外ウォーキング開始時のバッテリー残量(左)と約1時間後のバッテリー残量(右)

とはいえ、例えば初心者が富士山に登る場合、登りで8時間、下りで5時間前後かかると言われます。往復で13時間+山小屋での宿泊時間+移動時間を想定すると、ワークアウトをずっとオンにしていると少し心許ないですね。全行程をワークアウトで記録したい場合には、少なくとも宿泊時の充電は必須かと思います。

ただし、「低電力モード」を使用し、心拍数とGPSの測定頻度を減らしたワークアウト設定を有効にすれば、15時間のワークアウト測定を含めても最大60時間の使用が可能になるとされています。同機能が提供されれば、数値的に富士登山の往復も余裕ですね。

一応補足しておくと、通常モード(モバイル通信なし)でApple Watch Ultraを使用した場合、仕様上は36時間とされていますが、体感的に丸2日強は持ちました。通常のApple Watchだと大体1日半程度なので、スタミナはさすがというところです。

*  *  *

Ultra独自のデザインに関しては、アウトドアユースに特化したポイントが多くなっています。日常使いだと、人によっては使い勝手に影響することも出てくるかもしれないので、できれば実店舗で形状や装着感を確かめてから購入することをお勧めします。

筆者としては、ライフログやヘルスケアだけを目的に買うのであれば、やはり「Series 8」の方が向いていると思います。

▲Apple Watch Ultra用の「ウェイファインダー」文字盤では、Digital Crownを回すことで夜間の視認に適した赤い表示に切り替えられる

▲Apple Watch Ultraはアウトドアユースに全振りした製品として魅力。従来モデルのバッテリー持ちや氷点下での挙動などに不満があった人には、検討の価値は多いにあるだろう

一方、屋外ワークアウトのバッテリー持ちについては、Ultraにかなりメリットがあります。ハイキングで一度使ったら手放せなくなりそうです。

アウトドア向き製品といっても、本格的な登山やカジュアルダイビング、ハードなエンデュアランススポーツなどが唯一の対象というわけではありません。むしろ週末にちょっとしたアウトドアを楽しみたい人こそ、一度検討してみると面白い機種だと思いますよ。

>> Apple「Apple Watch Ultra」

 

<取材・文/井上 晃

井上 晃|スマートフォンやタブレットを軸に、最新ガジェットやITサービスについて取材。Webメディアや雑誌に、速報、レビュー、コラムなどを寄稿する。Twitter

 

 

 

【関連記事】

◆Apple Watchの所有感がより満たされる、高級チタンを使った贅沢なバンドです
◆えっこのゴリゴリなミリタリーウォッチが「Apple Watch」なの?
◆土屋鞄のレザーバンドでApple Watchを大人な1本に

モバイルバージョンを終了