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ウエディング業界はなぜ変われないままなのか

ウエディング業界は人口・婚姻組数の減少によって今岐路に立たされています。結婚式相談サービスである「トキハナ」の展開をはじめ、ブライダル業界の課題に取り組む株式会社リクシィ(REXIT)の取締役である山口淳司氏にウエディング業界が抱える構造的課題についてご寄稿いただきました。

結婚式業界を取り巻く環境

まずは、結婚式業界を取り巻く環境について解説します。

事業者主導の構造

日本ではもともと結婚式を挙げることが「当たり前」であり、結婚式場マーケットが確たるものとして存在してきました。

また、かつては結婚式を挙げるターゲットとなる婚姻組数が人口増加とともに増えていたため、ウエディング産業はマーケティングに注力せずとも溢れる顕在ユーザーに結婚式を提供するだけで事業を成長させられたわけです。

こうして多くの企業が結婚式ビジネスに参入してきましたが、人口・婚姻組数が減少し始めると、結婚式場は供給過多の状態に陥りました。

この供給過多の状況に加えて、結婚式が特殊なビジネスだと言われる所以でもある「サービスの利用(結婚式の実施)が一生に一度」という点が過度な競争に拍車をかけていきました。

過度な集客競争・営業競争

どの領域でも同様であるように、新規顧客を獲得することは極めて重要な課題です。とくにウエディング領域においては、1組あたりの売上・利益が多いため、多くの企業は、いかに集客するか、いかに営業するかに腐心し始めます。

それ自体は自然な流れと言えます。しかし、ウエディング業界において注目すべきなのは、そこで提供するサービスの質や顧客満足度が軽視されていったということです。

実際の結婚式の内容とはおよそかけ離れた安価な見積りを、あたかもその金額で実施ができるかのようにプロモーションしてお得に見せたり、顧客の購買納得度が高まらないなかで、顧客を獲得するために式場見学時に当日契約を迫る即決営業が横行したりしました。

事業者とユーザーの間の情報の非対称性

また、結婚式場を探す多くのユーザーは結婚式を挙げたことがありません。だからこそ、事業者が提供する情報を鵜呑みにするしかないのです。これも大きな問題です。

結婚式場がプレゼンする内容(「どんなチャペルで、どんな会場なのか」といったハード情報)で判断するしかないわけです。

このような過度な集客競争・営業競争、事業者とユーザーの間の情報の非対称性により、「契約時に聞いていた内容・見積りとかけ離れている」「即決を迫られ契約してしまったが、後悔している」という声が数多く上がってきました。消費者センターに駆け込む事態にまで発展するケースも少なくありません。

ユーザーは体験価値を重視するように

このような事業者主導の構造は大きく変わらず、今日に至っています。一方で、人口・婚姻組数の減少はもとより、結婚・結婚式に対する価値観は大きく変化し、多様化しています。

SNSの発達によって、結婚に関する情報を経験者から容易に得られるようになりました。また、世の中がモノ消費からコト消費、イミ消費へと変化しているように、結婚式においても場所(ハード)から、料理・サービス、接客・プランニングといった体験(ソフト)への変化が起きています。

結果として、レガシーなビジネスモデル(=事業者主導)を前提とする企業と、消費者主導で顧客と向き合う企業で明暗が分かれています。

顧客志向の企業は、結婚式場選びの段階で重視されがちなハード面だけでなく、結婚式当日の満足度に直結するソフトに重きを置いており、また式場選びの営業段階と結婚式当日とのかい離が少ないことから、体験(ソフト)の価値が見出されるようになったことで、顧客志向の企業、結婚式場が評価され、選ばれるようになっているのです。

多様化する価値観に合わせた結婚式や結婚式場を提供することは今後のウエディング業界に求められていると言えます。

組織戦略の弊害

ここまで事業戦略観点でのレガシーに言及しましたが、組織戦略においても至るところでレガシーさが目につきます。今回は業務面の細かな点は割愛し、本質的な部分のみ書いています。

属人的な営業・プランニング

営業や接客スタッフの介在価値の高い(=優秀な営業とそうでない営業で成果に差が出やすい)BtoC領域においては多く散見される事象ですが、ウエディング領域も多分に漏れず属人的な営業によって成り立っているケースがほとんどです。

結婚式は購入するタイミングが一度きりで、無形商材でありながら、個人が購入する商品の中でも上位に入る高額商材です。それを3時間程度の接客で契約できるウエディングプランナーのスキルは非常に高いと言えます。

一方で、経営へのインパクトが大きいからこそ、優秀なプランナーを置き換えるような手法へのチャレンジがなされずに、属人的な営業に依存した構造が未だ続いています。

女性が活躍する市場でありながら、女性が活躍し続けにくい組織構造

ウエディングプランナーという仕事は、労働集約型で、婚礼実施がある土日の労働時間が長く、体力的にも精神的にも非常にハードです。一生の仕事として続けられるかというと、それを叶えられる企業は多くはないのが現状です。

また結婚や出産というライフステージの変化によって、プランナーを続けられず、やむなく卒業された方も多くいらっしゃいます。

経営的にも、顧客満足的にも、性別問わず優秀なウエディングプランナーが長く活躍し続けられる環境は必須であるにもかかわらず、それに応えられていないというのが現状です。

最近では子育てをしながらプランナーを続ける人も増えていますが、まだまだ少なく、根本的な原因として、属人的な業務体制が挙げられます。

接客・プランニング以外のプランナー本人でなくともできる業務をシステム化するだけでも大幅に業務量は改善されるはずですが、他産業と比べるとそのような効率化は遥かに遅れています。

部分的にシステム化されていても、本質的なDX(デジタルトランスフォーメーション)にはほとんど至ってないのです。

閉鎖的な採用環境

DXが推進されない理由はさまざまですが、その要因の一つに、ウエディング企業の業界外からの採用力が挙げられると考えています。

以前より下火とは言え、新卒市場ではウエディングプランナーは人気の職種ですが、中途採用市場では、「労働集約型のレガシーな環境で、経済条件も決して良くない」という印象が強く、母集団を十分に形成できていません。

業界外からの採用状況を改善しないまま、新卒採用と業界内の人材のみで完結し続けた結果、業界外との採用環境のかい離が大きくなり、ガラパゴス化しているのが現状です。

特殊な業界だという免罪符のもとに、レガシーな組織環境を当たり前として、変化を拒み、業界外を断絶し続けてきたことが、レガシーから脱却できない原因そのものになっています。

DXの推進

一方で、介在価値が高い産業であるからこそ、DXの余地(=成果の幅)が大きいと言えます。仕組みや自動化など、部分的にシステムやテクノロジーに置き換えることで、ウエディングプランナーは介在価値の高い領域にリソースを割くことができるようになります。

また企業は、ウエディングプランナーの負荷を軽減することで、ライフステージの変化に合わせた働き方を提供できるようにもなります。

実際にDXを実現している企業では、接客や打合せにシステムを導入し、接客以外の業務は役割分担したりアウトソースしたりすることで、ウエディングプランナーの生産性を改善しました。こうした企業は、全体のパフォーマンスが高く、業界内外からの採用力も高まり、好循環へと転換しています。

当社もDX支援に関わらせていただくことがありますが、手前味噌ながら、成否の鍵はブライダルとテクノロジーの知見を両方持ち合わせていることで、現場、人を理解したうえで、どこで介在価値を最大化させ、どこを省力化できるのか、事業・組織の両面を鑑みたうえで解決策を提示し、実行の伴走までできるかどうかだと捉えています。

これまで手つかずだった部分が多いからこそ、変化のインパクトは大きく、まだまだ成長の余地のある産業であると言えます。

まとめ

ウエディング業界は、なぜレガシーを抱えたままなのかーー。

その最たる理由は、過去の成功体験から脱却できていないからで、成功体験に縛られたままの企業とそうでない企業との間にはすでに差が生まれています。これまで消費者主導であり続けた企業がようやく評価されるようになってきたのです。

過去が歪であり、いまがあるべき姿になっていると言えるかもしれません。

<著者プロフィール>

山口淳司
株式会社リクシィ(REXIT)取締役

立命館大学法学部卒業後、レイス株式会社に入社し、人材事業に携わる。2011年株式会社エスクリ入社後、新規事業部門の立上げを小俣と共に行う。M&A/事業譲渡案件など全20屋号の営業統括を行い、MVPを受賞。株式会社リクシィの創業メンバーとして参画。取締役に就任。

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