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元レゲエMC、現グラフィックデザイナーの足元は“日本限定カラー”の目新しいニューバランスでした

【スニーカーとヒト。 Vol.3】

港区南青山で働くグラフィックデザイナー…なんて意識の高そうな字面に、「一体どんな人物が現れるのか?」 とこちらも身構えていたが、出迎えてくれたのはメガネをかけた温厚&誠実そうな男性。彼こそが今回の主役、富永真朗さん。現在は千葉県千葉市在住ということなので、休日ではなく平日に彼の職場を訪れ、ランチ休憩中に取材を受けてもらったのだ。

聞けば、今年のクリスマスで39歳の誕生日を迎える富永さん。デザイナーという仕事柄、ほぼオフィスでのパソコン作業がメイン。ゆえにスーツ姿ではなくカジュアルなビズスタイルが基本だという。その言葉を裏付けるのが、彼の足元に履かれていたNew Balance(ニューバランス)の「CM1700 “JAPAN LIMITED” NJ」である。

■パパが足元で語る仕事の姿勢。“スニーカーとスキルは磨くもの”

【お気に入りの1足】
New Balance
「CM1700 “JAPAN LIMITED” NJ」

▲グラフィックデザイナー・富永真朗さん(38歳)

「そもそもグラフィックデザインを始めたキッカケが、18歳のときに中学時代の友人に教えてもらったレゲエミュージックでした」。こうしてカリブ海生まれのレベルミュージックにハマった彼は、友人と共にレゲエサウンドクルー、ゴールデンチャイムを結成(現在は活動休止中)。そこでMC(いわゆるDJに当たるセレクターのかける音楽に合わせて、観客を煽ったり楽曲を盛り上げる役割)を担当し、地元・千葉を中心に精力的に活動。この頃、後の進路へと繋がる“ある決心”をする。

「自分らが主催するイベントのフライヤーを制作する際に思ったんです。1mm単位のコダワリを人に伝えてやってもらうのは難しい…だったら、グラフィックデザインを学んで自分で作れば良いって」。とはいえ、当時は自分のPCすら持っておらず、せっかくの決心も先送りに。

その後、レゲエをしながらグラフティアートにも興味が生まれ、コラージュと組み合わせたアナログ的手法で自身の作品制作をはじめた。そんな折に意識改革が起きたのは翌年。「2歳上の兄に誘われて参加した専門学校主催のトークショウで、裏原宿ムーブメントの中心にいた人気グラフィックデザイナー、スケートシング氏の講演に感動! 引越しのバイトでお金を貯めてiMacを購入しました」。ここから彼のグラフィックデザイン人生が始まるかと思いきや、買ったiMacはデスクの小粋なインテリアに…。かくして本格的に始動したのは、2010年に千葉のデザイン会社でバイトを始めてから。「そこではグラフィックデザインの技術を磨きながら、主にパチンコ屋のチラシをデザインしていました。で、1年間勤めたのちに辞めて、友人からの紹介で新たに門を叩いたのが、今の務め先です」

彼が務める「ネクストワン」は、ノベルティ、プレミアムグッズの企画・制作をする会社だ。同社のグラフィックデザイナーとなって今年で11年目。その間にもプライベートでは結婚し、家を建てて、子供も授かり2児の父となったが、仕事に対する姿勢は変わってないと語る。「ウチは0から100まですべて自社で出来るのが強み。そのうえで、自分の役割として、クライアントのニーズに100%応えながら、いかに相手の想像以上のモノを+ αで提案できるか。それとスピード感。通常では難しい迅速なレスポンスもそうですが、常にカスタマーファーストであるようにしています」。

クリエイティブへのモチベーションも然り。こちらは変わっていない…はずもなく、常日頃から広告や雑誌のレイアウト、アパレルのトレンドなどをチェックし、時代に合わせて自身のセンスをアップデートし続けているという。「僕は“神は細部に宿る”という言葉を信じているので、細かい部分まで妥協することなく、されど作業時間は短縮するなど仕事の最適化を目指しています。なのでスキルとセンスも多分、進化し続けている…と信じています(笑)」。

デスク横でそんな話をしている最中にも、作業中のPCからは、もはや彼の血肉となっているレゲエ、ヒップホップ、ソウル、R&Bが流れ続けている。「ここ一番の踏ん張りどころでは必ず、ラッパーZORNの『My life』を聴いて自分自身を奮起させています」。耳から入る音の波がインスピレーションを刺激し、新たなアイデアを生み出す。彼にとって音楽は、クリエイティブになくてはならない存在なのだ。では、ここでプーロー(=Pull up。レゲエの現場で今プレイされている曲を一度止めて、最初からかけ直すこと)して、本連載の主題である“お気に入りの1足”について触れていこう。

冒頭で述べたように、毎日、千葉から南青山のオフィスへと通っている富永さん。「場所柄、街を行き交う人々も大概オシャレなんですよ。なので“ある程度”は自分も、身だしなみに気を使わないとなって。ちょっと気合いを入れた格好をしてきたときなんて、向こうから歩いてきた人とすれ違いざまにお互いを頭の上からツマ先まで舐め回すように、チェックし合うなんてこともありますし(笑)」。そう笑いながら話す彼の足元をフト見れば、本気ランナーはもちろんシティボーイからオジイちゃんまで、老若男女に愛される“N”の文字が。

足元に“N”といえば、2021年に創業115周年を迎えた、アメリカ東海岸生まれの老舗ブランド。皆様ご存じのニューバランスである。定番や名作と呼ばれるモデルが多数存在するなか、彼がセレクトしたのは「CM1700 ”JAPAN LIMITED” NJ」。調べてみると、2000年に発売された日本限定カラーの復刻版とのこと。

「以前は、ニューバランスに全然興味がありませんでした。それが自分自身のファッションが、ストリート系から大人っぽくベーシックなものに変わってきたタイミングもあって、なんかイイかもなぁと思うようになってきて」。気になったら即実行に移すバイブス先行型の富永さん。20年前なら、すぐにでも履きたくて探しまくったが、歳月は人を成長させる。じっくりフリマアプリで探して、新品同然のユーズド品を発見。アンダー1万円で購入した(ちなみに定価は1万7600円)。

同ブランドのフリークの間では、USAメイドやUKメイドのモデルを尊ぶ声も多いが、本モデルは近年注目を集めているアジアンメイド。生産工場を変えることでコストダウンし、ハイパフォーマンスでありながら手に取りやすい価格を実現させた功績は大きく、彼もまたその恩恵に預かったひとりというわけだ。

アッパーはブランドを象徴するカラーであるグレーを基調としながら、細部に煌びやかなゴールドの刺繍やデュブレが上品なアクセントを添える。シュータンに大きく刻まれた“1700”の文字が、なんとも誇らしげ。「品が良いというか、全体的にシックじゃないですか。ウェアもロゴものや派手なデザインのモノを避けるようになってきたし、この大人っぽい配色とデザインは、どんな格好にも合わせやすくて気に入っています」

さらに、衝撃吸収性と反発弾性を兼備した機能素材Abzorb(アブゾーブ)や衝撃吸収性と安定性に優れたEncap(エンキャップ)構造、持続性に長けたC-Cap)シーキャップ)を組み合わせたソールユニットが、片道1時間20分の通勤を優しくサポートしてくれる。「やっぱりランニングシューズだからか、柔らかいだけではなく反発力もあって疲れにくいんですよね。あとライニング部分の肌触りがすごく良くて、かつフィットするのも僕好み。実際に履いたことで、みんながハマってしまう気持ちが分かりました(笑)」

最近はまた新たなモデルも購入したそう。ニューバランスの魅力については、「足元が品良く見えるし、何より履き心地も良さも手伝って、安心感がある」と話す。

それにしてもキレイに履かれているので、普段のメンテナンスについて尋ねると、前オーナーがガッツリと防水スプレー済みだったとか。汚れにくいのも忙しい務め人には加点ポイントだ。「朝の出勤後と夜の帰宅後に、アッパーやソールを拭いたり、ちゃんと手入れをするようにしています。常にスキルとスニーカーは磨いておかなきゃですからね」。見た目は年相応のものに変われども、ストリートの精神は彼の中にしっかり根付いている。

また、職場の同僚にもニューバランス好きな先輩がいるそうで、情報交換したりコミュニケーションツールとしても機能しているとか。「そういえばサイズ選びも変わりました。昔は大きめをあえて履いていましたが、今はジャストが基本。平日は家から会社までの往復、週末は子供と公園で遊んだり、車の運転をしたりと、パパには動きやすさが重要ですからね」。

*  *  *

最近は、2人の子供も小学生に成長し、休日は映画を1人で観に行ったり、漫画をレンタルして読んだりと、徐々に自分の趣味を楽しむ時間が持てるようになってきた。先日も、仲間とマイティークラウン主催の野外イベントで、久々に爆音を浴びて楽しんできたばかり。不惑の齢を目前に控えた今、家族と仕事に誠実に向き合い戦い続ける彼の足元に、ゴンフィンガー(GUN FINGER)を贈って締めとする。POW!! POW!!

>> スニーカーとヒト。

<取材・文/TOMMY

TOMMY|メンズファッション誌を中心に、ファッションやアイドル、ホビーなどの記事を執筆するライター/編集者。プライベートでは漫画、アニメ、特撮、オカルト、ストリート&駄カルチャー全般を愛する。Twitter

 

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