【PRODUCT HISTORY #001】
「ThinkPad(シンクパッド)」といえば、多くのビジネスパーソンを支えてきたノートPCのブランドです。1992年に登場した同シリーズは、2022年には30周年を迎え、今もなお市場に先進的な新機種を続々と投入しています。
今回はそんなThinkPadシリーズを振り返ろうと、レノボ・ジャパンに取材を実施。製品企画部の大谷部長と元嶋マネージャーに、ThinkPadシリーズの歴史のポイントを教わってきました。
【1992年】シリーズの原点となる「700c」
ThinkPadシリーズ最初の機種は、1992年に発売された「ThinkPad 700c」。現在のThinkPadシリーズはレノボの製品として展開されていますが、当時はIBMが生産しているノートPCでした。ノートPC自体は1980年代半ばから登場していたなかで、IBMはやや後発として参入した形に。同機は、10.4インチのTFTカラー液晶を搭載していたのが特徴でした。
この頃のThinkPadシリーズでは、「松花堂弁当」を参考にしたといういわゆる“ランチボックス型”のデザインが採用されています。現代のノートPCと比べるとずいぶんと厚みがありますね。
「私もコンセプトが決まった現場にいたわけではありませんが、真っ黒でシンプルな箱の蓋を開けると、中には色鮮やかな食材が綺麗に仕切られているところから着想を得たとは聞いてます。当時のPCは比較的簡単に内部も開けられましたので、モジュールに分かれた部品も近しいイメージだったかもしれませんね」(大谷氏)
一方、艶消しの黒い筐体や、キーボード中央にある赤いトラックポイントなど、現在のThinkPadでもお馴染みの特徴のいくつかは、この時点ですでにあったことも分かります。
「ちなみに1993年には、乾電池6本で駆動する『ThinkPad 220』という製品が発売されていたり、キヤノンと共同開発したプリンター付きのノートPC『ThinkPad 550BJ』が発表されたりと、いろいろな可能性を探る挑戦がありました」(大谷氏)
【1995年】バタフライキーボードのギミックを追加した「701c」
1995年に発売された「ThinkPad 701c」では、2つに分かれて収納していたキーボードが、ノートPCを開いたときに繋がってフルサイズになる「バタフライキーボード」というギミックが採用されました。
最近もフォルダブルタイプのノートPCを展開しているなど、チャレンジングなモデルも目立つThinkPadシリーズですが、その遺伝子はこの頃から続いていることがよく分かります。
「ThinkPadシリーズのコンセプトのひとつには、“オフィスからいかに仕事を解放するか”という視点がありましたので、当時の開発でも生産性の視点は重要でした。デスクトップPCが主流だった当時は、キーピッチが広くストロークの深いキーボードに慣れていて、ノートPCを買ってもやっぱり使えないと感じられてしまったら困ります。打ちやすいキーボード、タイプミスをしづらいキーボードを意識した開発は、いまのThinkPadシリーズにも受け継がれていますよ」(大谷氏)
【1997年】薄型化を意識した「560」
【1999年】バッテリー強化を図った「240」
90年代後半には、より薄く、使い勝手のよいノートPCを作ることが目指されました。
1997年発売の「ThinkPad 560」では、筐体を薄くしつつも、キーボードの操作感や質感を損なわないような工夫が施されたと言います。これには、タイプライターメーカーでもあったIBMのこだわりが込められていたとのこと。
また、1999年発売の「ThinkPad 240」では、当時最先端の超低電圧プロセッサを採用することでバッテリー駆動時間が伸ばされていきました。
【2000年】「X」シリーズがフルサイズキーボード搭載で登場
2000年には、現在でもフラグシップで使われている「X」シリーズが登場。その最初のモデルは「ThinkPad X20」でした。
同機は、フルサイズキーボードを初めて搭載したモデルであり、本体下部に装着して拡張性をUPする「ウルトラベース」が使えるようになったことも特徴的でした。
このウルトラベースは後継モデルでも採用されていきます。例えば2006年に登場する「ThinkPad X60」などでも、ウルトラベースで機能を拡張していく路線が強化されていきました。
「この頃からラインナップが多様化した一方で、損なわれつつあったデザインや操作感の統一性のような部分が見直されたこともポイントですね。ThinkPadの父と呼ばれる内藤は、よく“第二世代”という表現を使いました」(大谷氏)
【2001年】タブレットPC黎明期における新しいインターフェースへの挑戦
2001年には「ThinkPad TransNote」という、ペンでの手書き機能を備えたノートPCが発売されました。今でこそ違和感なく感じるインターフェースですが、当時は非常に野心的な一台だったと言えます。
市場背景をおさらいしておくと、この頃はPDAと呼ばれるモバイル端末の全盛期。スマートフォンが一般に普及(2010〜2015年頃)するより前で、まだApple社のiPad(2010年発売)なども登場していません。このようなペン入力対応のWindows搭載のPCを指して「タブレットPC」という呼び方が使われていた時代です。
「ThinkPad TransNoteは、キーボードが取り外せる構造ではなく、システム手帳のような独特の形状をしていました。マウスポインタ以外の手書きという新しいインターフェースを取り入れようとした挑戦的な一台でした」(元嶋氏)
また、無線LAN接続に対応した機器が登場したのもこの頃でした。
「ノートPC史に関係するところで外せないテーマの一つが通信の発展だと思います。無線LANに対応した機器でいうと、2001年に登場した『ThinkPad s30』などが節目だったと言えるでしょう」(元嶋氏)
【2005年】画面の180度回転に対応した「X41 Tablet」
ThinkPad TransNoteの系譜が発展したところでは、2005年にXシリーズとして登場した「ThinkPad X41 Tablet」が見逃せません。同モデルでは、ヒンジの一箇所を支点にして、画面を180度回転させることで、専用ペンで書き込みも行えるタブレットになるという画期的な機構が採用されました。現在の2in1モデルの先駆けとも言えるモデルですね。
当時各メーカーがタブレットPCのあり方を模索するなかで、ThinkPad X41 TabletはThinkPadらしさを維持しつつ、洗練されたタブレットPCとして成立した印象的な存在だったと言えます。
「ThinkPad X41 Tabletは、キーボード入力でどこでも使えるというコンセプトや、ThinkPadらしい堅牢さを維持しつつ、手書き入力が行えるタブレットとしての特徴も兼ね備えた端末でした。この系譜は、後のYogaシリーズに引き継がれていきます」(元嶋氏)
ちなみに、レノボがIBMのPC事業を買収すると発表したのが2004年、買収を完了したのが2005年でした。この「ThinkPad X41 Tablet」は、レノボ・ジャパンの発足後に、初めて日本市場へ投入されたThinkPadでもありました。
【2007年】日本初のモバイル通信対応ノートPC「X61」
2007年発売された「ThinkPad X61s」では、CDMA 1X WINに対応し、auの通信網でデータ通信を利用できるWWANモデルを選択できました。
「実は、ノートPCとして日本国内の携帯キャリアの通信モジュールを初めて組み込んだのはThinkPadなんです。2007年に発売したThinkPad X61sは、キャリアさんと協力してモバイル通信を利用できるようにしたモデルでした。現在では、ThinkPadの多くの機種がモバイル通信対応モデルを選べるようになっています」(元嶋氏)
【2008年】「X300」を経て「X1 Carbon」へ
2008年には、カーボン繊維での筐体製作を謳った「ThinkPad X300」が登場します。厚さ2cm以下、重さ1.5kg以下に押さえるという目標を掲げて作られた同モデルのデザインは、昨今のノートPCと比べても、すでに違和感はさほどありません(ちなみに、このX300以降、ThinkPadシリーズからはIBMのロゴがなくなりました)。
「実は、カーボン繊維自体はThinkPad X300以前から、もっといえばThinkPadシリーズの黎明期から使われていました。また、薄型化や傾向しやすいデザインなどが意識されるようになった源流をたどると、2005年に出たZシリーズ(現行のZシリーズとは別物)に遡ります」(元嶋氏)
このThinkPad X300の系譜で正統進化を遂げていったのが、2016年発売の「ThinkPad X1 Carbon」です。同シリーズは現在も展開されており、ナンバリング「Gen 10」まで進んでいます。
なお、この頃には「Yoga」シリーズや「Tablet」シリーズなどのバリエーションも増えていきました。
■最近のモデルでThinkPad史に名を刻むであろう製品は?
レノボ・ジャパンが公式サイトにThinkPadの歴史として公開しているのは、上記のX1 Carbonまでです。とは言え、2016年からすでに6年も経過していますし、ここ数年のエポックメイキングな機種も見逃すわけにはいきません。2022年には5Gのミリ派対応モデルなども登場するなど、興味深い特徴を持つ新機種は尽きません。
そこでここ数年の機種において、重要な機種を挙げるとしたらどれか、尋ねてみました。元嶋氏が挙げたのは「ThinkPad X1 Fold」でした。
「ThinkPad X1 Foldは、パソコン史の中でも重要な存在になってくれることを願っています。コンセプト自体は2in1から受け継がれるものですが、やはり曲がるディスプレイを搭載したのは重要。ノートPCの大画面化は重要な一方、大きすぎるとウケないというジレンマもあるなかで、その課題をテクノロジーで解決できた製品だと考えています」(元嶋氏)
■現在のThinkPadシリーズのラインナップ
ThinkPadとしては現在、非常に多岐にわたるバリエーションが展開されています。
一方、各製品名にあるアルファベットから、何を狙いにした製品かがわかるので、新機種を検討する際には、以下のようなシリーズごとのコンセプトをチェックすることが欠かせません。
「X1」:フラッグシップシリーズ
「T」:大画面かつ高性能なビジネスノート
「X」:携行性も重視したモバイルノート
「L」:メインストリームのモバイルノート
「E」:オンラインストアで展開。スモールビジネスの据え置きニーズなどを想定
「P」:モバイルワークステーションとして高性能の持ち運びを追求
「Z」:Z世代を中心に新規顧客を開拓するシリーズ
なお、そのほかにも、AMDのチップを搭載する「A」シリーズや、ChromeOSを搭載した「C」シリーズ、2in1型の「Yoga」シリーズも展開されています。
■ThinkPadらしさとは何か
最後に、ThinkPadらしさとは何か。インタビュイーの2名に語っていただきました。
「多くの人にThinkPadらしさとして認識してもらえている特徴は、おそらくトラックポイントやキーボードでしょう。一方で、それらの源流には、ブレないコンセプトが隠れています。製品としてお客様を支えることを愚直に追求してきたことがシリーズの魅力だと考えています」(元嶋氏)
「ThinkPadシリーズに統一した“佇まい”があって、エンジニアもこだわりを持って開発していることを感じます。中には、全部黒い筐体について面白みがないと感じる人もいるかもしれませんが、そこがブランドの築いてきた安心感や信頼につながる部分だと思います。一方、次の30年を見据えて新しいThinkPad Zシリーズを調整している過渡期でもあります。これまでThinkPadを使ってこなかった方々にも手に取ってもらうための挑戦というのは、続けていかなければいけないと感じています」(大谷氏)
>> ThinkPad
<文/井上 晃>
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/489782/
- Source:&GP
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