不動産・建設業界では、いまだに折込チラシをばらまいていたり、FAXや紙でのやりとりが当たり前化していたりするなど、アナログな業務が行われているといいます。
そんな「アナログな業界」と呼ばれる不動産・建設業界のDX化を推進する鍵となるのが“不動産テック”です。
今回は、株式会社リブ・コンサルティングの住宅・不動産テックチーム マネージャーである篠原健太氏に「不動産テックの推進に必要なこと」「不動産テックのこれから」についてご寄稿いただきました。
はじめに
国内で140兆円弱もの市場規模を誇る不動産・建設業界。現在、資材価格の高騰や職人不足、空き家問題など日本のマクロトレンドに直面している変革期にある業界である。
そのような中で生産性向上が必須の中、現状は折込チラシにFAXと超アナログ。この現状を変えるべく、2018年には「不動産テック協会」が立ち上がったり、さまざまなテックベンチャーが設立されたりするなど、いくつかのプレイヤーが動きを見せている。
こうした機運の中、2025年度の市場規模は2020年度と比べ約2倍の1兆2461億円に拡大すると予測されており、不動産テックバブルが起きている。
そんな不動産テック業界のこれまでとこれからを不動産テックスペシャリストが解説していく。
不動産業界は日本で最大のアナログマーケット
国内の市場規模が140兆円弱の不動産・建設業界。資材価格の高騰や職人不足、MaaS連携による新しい地価のあり方やカーボンニュートラル対応、電子契約対応、ローカルSDGsやストック流通活性化(空き家問題)など、業界規模が大きいだけにさまざまなマクロトレンドに直面している変革期の業界であるといえる。
とはいえ、実態はそういったマクロトレンドに対応するリソースが各社に存在することはなく、地方分散型の業界のため1社あたりの影響力や規模は小さい。
人手が十分に確保できないため、短期的な売上・利益の確保のために日夜奔走しているのが実態だといえる「とてつもなくアナログな業界」なのである。
例えば、不動産・建設業界ではいまだに折込チラシをばらまいていたり、FAXや紙でのやりとりが当たり前になっていたりするなど、アナログな業務が行われている。私はこの業界に関わる中で「国内でもトップクラスに労働生産性が低い業界といわれる理由はこういうことか」と実感している。
国は補助金の創設などさまざまな形で動いてはいるが、なかなか全体に浸透していかないのが実態である。それを救う大きな可能性を秘めているのが、テクノロジーを活用して業界課題を解決する「不動産テック」である。
不動産テックこそが不動産業界を押し上げる鍵
本記事の筆者である私は株式会社リブ・コンサルティングにてマネージャーとして、2021年に不動産テック業界に特化したコンサルティングチームを立ち上げた。
そもそもリブ・コンサルティング自体が不動産・建設業界に特化したコンサルティング部門があり、国内でも最大級の業界特化型コンサルティング機能を有している。
先ほど、この不動産業界をとてつもなくアナログな業界と述べたが、10年以上この業界に携わっている我々としては、この現状をなんとかしないといけないと考えている。とはいえ、我々が数万と存在する業界個社をコンサルティングしているだけでは、なかなかレバレッジが効いてこない。そこで「それならば、さまざまな業界変革を狙うプレイヤーを巻き込んで進めていこう」と考えた。
変革を狙うプレイヤーとして顕著なのは、テックソリューションを持ったプレイヤーである。
不動産・建設テックといわれるカテゴリでは日々参入が続き、ここ5年間で急激にプレイヤーの数は伸び、ファンドからの注目も集まっている。この波をさざ波で終わらせるのではなく、業界を変える大きな波に変えていくことが僕らのできることなのではないだろうか。
そんなことを考えながら、私は毎日のようにそのようなテック系プレイヤーと情報交換をしている。
ただ、非常に素晴らしいソリューションを持っていても、この業界ならではの独特な商習慣や性格、アナログさに苦戦して効率的に攻めきれていないのも不動産テックにおける事実である。
特に未経験でこの業界に参入しようとすると平気で1~2年、事業スピードが止まってしまう。
私としてはこの波を大きくするために「10年以上蓄積してきた業界特有のナレッジやネットワークを活用して、ほかの業界であれば笑ってしまうような失敗談や成功手法を共有して、最短ルートで全体として業界を変えにいくこと」を目的として、組織の立ち上げに至った。
不動産テックの推進に必要なこととは?
上記に記載した通り、我々はコンサルティング会社として長年「住宅・不動産業界特化」で地域の工務店や不動産企業に対して経営から現場まで深く関わってきた。
一方で、「業界全体のDX化」を実現していくためには、各住宅不動産事業者様のDX支援だけでは不十分で、そこの変革を進められていく業界周辺テック企業の事業グロース支援も同時に必要だと考えている。
サービス提供側からすると、業界の解像度が低く、攻略の仕方が分からない。業界企業側からするとよく分からず、新しいものを導入するパワーがない。
このような深いところでのお互いのミスマッチを根本から変えていかない限り、巨大な業界の状況を変えることは難しい。我々としてはそのどちらの立場にも共感をしつつ、ハブとして入ることを目的にエコシステムの構築を進めている。
具体的には、以下の3点の機能を拡大させている。
①業界ナレッジを活用し可能性を秘めたソリューションの事業グロースを伴走する
②ネットワークを活用して業界に向けてそのソリューションの必要性を発信する
③ソリューションを導入した業界企業への現場コンサルティングにより落とし込み(導入したソリューションを現場の方が実務で活用し成果が出せる状態)を行う
②ついては、業界の経営層が集まる国内トップクラスのイベントを実施するなど業界全体への発信を強化している。③はもともと不動産業界に10年以上携わってきた弊社の得意分野である。
取り組みを始めてまだ1年ほどだが、このようなお互いのリソースを補填し合うようなエコシステムにより、業界にとって必要なソリューションが短期間ながらも大幅に業界内に広まっていく実績が積み上がってきている。
不動産テックのこれから
矢野経済研究所によると、2020年度の不動産テックの国内市場規模は前年度比8.6%増の6110億円となった。2025年度の市場規模は、2020年度と比べ約2倍の1兆2461億円に拡大すると予測されている。
不動産テック市場に参入するプレイヤーは、基本的に3種類に分けられる。
1つ目は業界特化で展開を進めているプレイヤーである。最近では住宅・不動産企業が自社で開発したシステムを同業他社に横展開している事例が多数見られる。
2つ目は、ある程度リテラシーが高い業界や都市部エリアを開拓し尽くして、この巨大なアナログ業界(不動産・建設業界)を本格的に攻略していく業界横断型のプレイヤーだ。上場したベンチャーが該当することが多い。
最後の3つ目は大手の新規事業として参入してくるプレイヤーである。市場規模の大きさゆえに目をつけやすいため、母体の業種にかかわらず参入を進めている。
今までは不動産テックにおける各カテゴリにおいて競合は少なく、いいアイディアを早く具現化し市場にリーチできればビジネスとして拡大しやすかった。
しかし、最近はマーケティング領域やセールスの領域を中心に参入が激しく、各カテゴリ内でもシェア奪取の戦争が始まってきている。
とはいえ、まだまだホワイトスペースが多い。しっかりと業界プレイヤーのインサイトニーズを深めて事業をつくり上げていけば大きく伸びていく可能性は大きいだろう。
4年後には市場規模1兆円超、AI活用で急速に広まる本領域にビジネスチャンスを見出す企業も多く存在するだろう。不動産×テクノロジーでのコラボレーションを目指す企業様に本記事が参考になれば幸いである。<筆者プロフィール>
篠原健太
株式会社リブ・コンサルティング
住宅・不動産インダストリーグループ マーケット攻略チーム マネージャー住宅・不動産業界を中心に業種・エリア・規模問わず、さまざまな企業へのコンサルティングを実施。マーケティングに強みを持ち、ITツールを活用した業績改善経験も豊富。住宅・不動産業界周辺プレイヤーに対する業界開拓支援も実施。クライアントネットワークや外部アライアンスなども活用し、アナログ業界のDXの促進に広く従事している。
- Original:https://techable.jp/archives/186585
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:はるか礒部