近年の日本では人口減少・高齢化により国内市場が縮小しており、多くの企業が官民連携事業へと進出しています。
その中で活用されているのが、省庁や自治体民間企業による独自のマッチングプラットフォームです。しかし、中には官民マッチングプラットフォームを活用しても成果が得られない企業もあるようです。
今回は、一般社団法人官民共創未来コンソーシアム 代表理事の小田理恵子氏に、官民マッチングプラットフォームで成果が出せない理由についてご寄稿いただきました。
官民連携事業への期待の受け皿としてのマッチングプラットフォーム
日本では人口減少・高齢化により国内市場が縮小しており、活路を見出したいグローバル市場でも振るわず日本企業の苦戦が続いています。
このような背景から、地域課題を解決するソリューションが新たな事業の柱となるのではないかとの期待から多くの企業が官民連携事業へと進出しました。
「我が社の事業は頭打ちである。このままでは企業の存続も危ぶまれる。だから新たな事業を創出しなければならない。地域課題を解決するソリューション開発に活路があると考える。そのためにまず地域課題を知る自治体と連携・協働したい」という企業からの相談が私の元にも多く届いています。
こうした官民連携への期待を受けて、官民連携マッチングプラットフォームが次々と立ち上がりました。
官民・公民マッチングプラットフォームの例
官民・公民マッチングプラットフォームは、自治体や地域が持つ社会課題と企業のソリューションを繋ぐことでイノベーションを創出することを目的としています。
その発想は多くの企業や自治体に受け入れられ、省庁や自治体民間企業などが次々と独自のマッチングプラットフォームを立ち上げました。以下に代表的なものをいくつか紹介します。
①地方創生SDGs官民連携プラットフォーム
内閣府が設置した官民連携プラットフォーム。「SDGsの国内実施を促進しより一層の地方創生に繋げることを目的に、広範なステークホルダーとのパートナーシップを深める場」として設置されています。
省庁や自治体、企業や団体など6901団体(※2022年12月時点)が加入しており、加入者数はおそらく日本最大です。
②スマートシティ官民連携プラットフォーム
2019年に内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省が設置した官民連携プラットフォームです。「スマートシティの取組を官民連携で加速する」ことを目的としています。
その後2021年に設立されたデジタル庁も参画し、スマートシティ、デジタル技術等に軸足を置いているのが特徴です。現在は641団体が参加しています(※2022年8月時点:スマートシティ官民連携プラットフォーム 会員一覧)。
③CO+CREATION KOBE
自治体独自のプラットフォームは年々増加している中、2021年に兵庫県神戸市が立ち上げた公民連携プラットフォームです。
神戸市は2013年に産学連携ラボを設立して官民連携を積極的に推進してきた老舗自治体のひとつであり、ノウハウや経験が豊富です。(※2022年11月時点)
そのほかにも、官公庁や自治体、民間企業などが主体となって設立したマッチングプラットフォームは多数あります。
それぞれに目的や対象となる事業や地域が異なりますが、自治体の課題と民間企業のソリューションが官民双方から参照できるようにしたり、研究会やワーキンググループを実施し協働を推進したりするなどの基本となる部分ほぼ同じです。
「自社の技術やソリューションを活かして地域の課題解決を行いたいが、どの自治体と繋がったらよいか分からない」という企業はこうしたマッチングプラットフォームに参加してみるのも一案です。
マッチングプラットフォームで成果が出せない民間企業
しかし、こうしたマッチングプラットフォームを使いこなせないでいる企業も多く存在します。
実際に「マッチングプラットフォームに参加してみたものの期待するような成果が出ない」という相談はよくあります。
筆者はこうした企業の相談や助言を行うこともあるのですが、こうした企業は下記のいずれかに当てはまります。
- 自治体に過度な期待を抱いており、地域課題=事業シーズの洗い出しを自治体任せにしている
- 自治体のことを知らないために、コミュニケーションや交渉が上手くいかず協働まで進まない
- 初期段階から求める事業規模を課題に見積もっている
①自治体に過度な期待を抱いている
まず自治体に過度な期待を抱いているケース。私が相談助言を行う中で「自治体が何とかしてくれる」「自治体は地域課題を知っている」と考える企業が非常に多いことに驚きました。
これは大きな誤解でして、自治体が地域の課題を全て知っているわけではありません。ほとんど知らないと言っても過言ではないでしょう。
「あなたの地域の課題は何ですか?」と問うと、多くの自治体職員は「人口減少です」「少子高齢化です」と答えます。しかし、これは現状であって課題ではありません。
課題は“現状と目指すべき姿のギャップを解決するための方策”のことです。自治体は決まった政策を実行することや、他都市の事例を模倣することは得意ですが課題を探すのは不得意です。
自治体が知っているのは、地域の現状とそれに対する公共の取り組み事例です。地域課題は自治体や地域の人材と一緒に模索する必要があります。
②自治体を理解せず、協働そのものが上手くいかない
自治体のことを理解せず、協働そのものが上手くいかないケースもあります。
例えば、自治体の予算策定における年間スケジュールを知っていないと次年度以降の動きが取れません。予算が決まってしまった秋以降に来年度事業の働きかけをしても、時すでに遅しです。
また毎年4月には自治体職員の人事異動があります。このタイミングで多くの職員が異動になるので、そのことを織り込んだうえで協働を進めることが必要です。
実際、私は過去に「3月からある自治体と官民連携事業を始めたが、一ヶ月も経たずに担当がいなくなってしまった」という相談を受けたことがあります。
自治体の動きを見ていると「彼らは本当に社会課題を解決する気があるのか?」と感じることはあるでしょうが、現状を嘆く前に彼らがどういう目的でどういう組織でどのようなスケジュールで動いているのかを知ることは大切です。
少なくとも組織と年間スケジュールは押さえておく必要はあります。
③初期段階から大きな事業規模を求める
そして最後に事業規模です。基本的に、地域の課題から事業シーズ(事業を推進するうえで必要となる技術、ノウハウ、アイデア、人材、設備など)は多数生まれます。
しかし、それらの中で大企業を満足させられるほどの事業規模が見込めるものは極わずかです。
こうした過度な期待や誤解をひとつずつ紐解いていく必要があります。
しかし「自治体は地域の課題を知らないので、みなさんと自治体が一緒に課題を見つける必要がある」と言葉で伝えても、すぐに納得する企業は少ないのが現状です。
自治体との連携を経験し、その難しさを肌で感じ、自分の中での腹落ち=納得があって初めて「そうだったのか」と理解する人がほとんどです。
マッチングプラットフォームを使いこなすにも、こうした気づきと経験があってこそ。初期段階は官民連携、官民共創の経験者に伴走してもらい自社の人材育成とノウハウ・経験値の獲得から始めるのが、成功への近道だと思います。
<著者プロフィール>
小田理恵子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム 代表理事大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。電力会社、総合商社、ハウスメーカーなど幅広い業界を支援。
自治体の行政改革プロジェクトを契機に、地方自治体の抱える根深い課題を知ったことをきっかけに地方議員となることを決意し、2011年より川崎市議会議員を2期8年務める。民間時代の経験を活かし、行財政制度改革分野での改革に注力。
地域のコミュニティと協働しての新制度実現や、他都市の地方議員と連携した自治体を超えた行政のオープンデータ化、オープンイノベーションを推進し国への政策提言、制度改正へ繋げるなど、共創による社会課題解決を得意とする。
現在は官と民両方の人材育成や事業開発(政策実現)の伴走支援・アドバイザーとして活躍。
- Original:https://techable.jp/archives/186988
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:はるか礒部