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「組織内の評価は低いけど自律度高い人材」をどう生かす? マーケティング戦略から考える組織活性化

「離職が次々と発生し、みんな心身共に疲弊している」
「職場の雰囲気が良くなく、どことなくギスギスとしている」

大なり小なり、上記の課題に多くの経営者が悩んでいることかと思います。

これらの組織課題はいくら施策を打っても解決できず、手詰まりになってしまっている組織も多く、そのようなケースこそ、組織活性にはマーケティング視点が欠かすことができない株式会社ITSUDATSUの取締役副社長の張ヨンヒ氏はいいます。

今回は、「人間の本質(Human Nature)」をビジネスに活かす組織戦略家集団である株式会社ITSUDATSUの取締役副社長の張ヨンヒ氏に「マーケティング戦略から考える組織活性化」についての考察をご寄稿いただきました。

マーケティング戦略を組織活性化に応用する

私は長らくマーケティング業界に携わってきました。その中で、マーケティング戦略と組織戦略は非常に共通点が多いことに気がつきました。

マーケティングとは、「お客様の心を理解し、商品やプロダクトを購入いただくことで、自社の売上をあげる活動」のことを指します。

組織戦略とは、「社員の心を理解し、やりがいをもって主体的に組織貢献を促すことで、組織活性につなげる活動」のことを指します。

つまり、マーケティングが「社外」であるのに対して、組織戦略は「社内」であり、対象が違うだけで考える視点や着眼点の共通点が実は多いのです。

アメリカの経営学者 フィリップ・コトラー氏の提唱した、マーケティングの代表的なフレームワークの1つである「STPマーケティング」という考え方があります。

・セグメンテーション(Segmentation):提供する商品・サービスの市場(=顧客)を細分化する
・ターゲティング(Targeting):商品・サービスのターゲットを定める
・ポジショニング(Positioning):自社の立ち位置を明確にする

この一連のマーケティング戦略のフローを組織戦略に当てはめて考えてみると、実は組織課題が多い企業ほど「STP」の考え方が抜け落ちていることが多いのです。

STPを組織戦略に当てはめてみて考えますと、

S:どの人材層を対象とするのか?
T:その中から特に最重要な人材は誰なのか?
P:その最重要な人材をどこに配置するのか?

になります。

しかし、このような考え方を提唱していますと、「私は社員全員を大事にしたいから、誰かを特別扱いすることはできない」という声をいただくことがあります。

もちろん、社員全員を平等に大事にしたいという考えをもつのは当然のことと思います。まして、社員の心や意見を大事にしたいと思う経営者であれば、なおさらそのような意見が出るのも当然でしょう。

しかし、これまで弊社は数百の組織活性化やコンサルティングの現場で「全員を救うための組織施策は誰一人として救うことができない」という現実を目の当たりにしてきました。

仮に従業員が100人いたとしたら、100人を同時に平等に活性化するのではなく、100人の中で組織活性の要となる人材のたった数%を明確に設定し、経営資源を集中投資する。

そして、その要となる人材が成長することで、周囲の人材が影響され、活性化されていく……という道筋が最短の組織活性化戦略でした。

大事なのは、感情論として「社員を大事にしたい」ということとは別に、組織を活性化させる要となる人材を選定及び発掘すること。そして、他の人材とは人材育成の優先順位を明確に線引きし、その要となる人材の育成と定着に注力することです。

これが結果的に、社員全員の個人の活性にもつながり、社員を大事にすることと同義になると捉えています。

人材ポートフォリオとセグメンテーション

ここからは具体的に社内のどの人材層にどのようなターゲット戦略を応用できるかについて、詳細を深掘りしていきます。

まずは4象限での人材のポートフォリオをご紹介します。ここでは縦軸を「パフォーマンスの度合い」、横軸を「自律の度合い」と考えます。パフォーマンスの度合いは、わかりやすく数字として定量的な結果を創出しているかどうかです。

一方、自律の度合いは精神的なもので、「自分の生き方そのものに対しての覚悟の度合い」のようなものと捉えていただければと思います。

以下、自律の度合いを4パターンに整理したものです。

①パフォーマンス高い×自律度高い:経営人材・幹部人材候補層
②パフォーマンス低い×自律度高い:ハイポテンシャル層
③パフォーマンス高い×自律度低い:旧・優秀層
④パフォーマンス低い×自律度低い:依存定着層

①経営人材・幹部人材候補層は、すでに組織のリーダー的ポジションに就き、牽引している人材です。パフォーマンスが高く、かつ精神的な自律度合いも高く、主体的に仕事を進め、他者を巻き込みシナジーを起こすことができる企業には欠かせない存在です。

②ハイポテンシャル層は、まだ①の人材ほどの活躍は見られないものの、正しい育成とマネジメントによって2年〜3年で確実に頭角を現す人材層です。

③旧・優秀層は、従来の人事評価の枠組みで「優秀」とされてきた人材層です。すでに高い成果を出していることが多い一方で、組織への依存度が高く、組織内でのキャリアを積みあげることに固執し、自己保身的行動を取る傾向にあります。

④依存定着層は、いわゆる組織に依存したぶら下がりをしている人材層になります。何か問題点を見つけても見て見ぬ振りをしたり、成果に対して本気度が低かったりと、全く仕事をしないわけではありませんが、言われたことのみをしている人材になります。

この4つの人材層の切り分け方をご紹介しましたが、組織の要人材として明確に経営資源を投下すべき、育成の優先度も高いターゲットを絞るべき人材層は「①の経営人材・幹部人材候補層」と「②のハイポテンシャル層」の2つです。

さらに、組織へのレバレッジという観点で大きな機会損失にも、大きなベネフィットにもなりえるのが「②ハイポテンシャル層」になります。

ハイポテンシャル層はパフォーマンスが「現時点で」低いかもしれませんが、今後数年で大きく化ける可能性があるからです。

パフォーマンスが低い理由はいくつか考えられます。例えば「適切な上司の下に配属されていない」「上司のマネジメント指針がずれている」「部署や業務自体が適材配置されていない」など、ちょっとしたボタンのかけ間違いである可能性が高いでしょう。

一方、自律度は高いので、当然ながら内発的モチベーションが高く、自らの価値観や考えにもとづいた目的意識をもって、責任ある行動を取る傾向にあります。だからこそ、経営陣のちょっとしたリソースと努力で最大限の成長をする見込みがあるのです。

ハイポテンシャル層のターゲット・ポジショニング戦略とは

ここからはさらに大きく化ける成長を遂げる可能性がある「②ハイポテンシャル層」にターゲットを絞り、どのようなアプローチが可能なのか、具体的に考察してみます。

ハイポテンシャル層は現状、パフォーマンスを十分に発揮できておらず、人事評価やMBO(目標管理)でも目立つことがないので、組織内に埋もれている可能性が大いにあります。

特に大手企業では、社内のエリートコースに入ったり、会社のメイン事業のエースになったりすると、組織社内の文脈に従わざるをえません。

しかし、ハイポテンシャル層はパフォーマンスが高いわけではないので、組織の中心から距離を取り、組織内の文脈とギャップが大きくなり、孤立している可能性もあります。そのため、見つけようとしないと、また意識しないと見つからないケースが多いでしょう。

このハイポテンシャル層にこそ、個別の育成戦略を実施すべきなのです。それでは、ハイポテンシャル層へのアプローチ方法を2つご紹介します。

①部長以上の役職者が直接関わる

育成やマネジメントの関わり方は大きく3つに分けられます。

・可能な限り、直接関わって育成やマネジメントをした方が良い場合
・大まかな指示を出し、誰かを介して育成やマネジメントをした方が良い場合
・後回しにした方が良い場合

この3つのケースの中で、ハイポテンシャル層には可能な限り、直接関わって育成に関与することをおすすめします。なぜなら、直接関わることで暗に「期待している」ことをその人材はもちろん社内にも認知することができるからです。

②社内プロジェクト等にてタフアサインメントする

何度も言うように、ハイポテンシャル層は内発的なエネルギーが高いことが多い傾向にあります。しかし、問題なのが「そのエネルギーをどこで発揮するか」という点です。

多くの場合、社内で埋もれてしまっているハイポテンシャル層ほど、組織内の文脈や暗黙知とのギャップが大きくなり、意識的にも無意識的にも社内では仲間を見つけられず、孤立していることがしばしばあります。

だからこそ、社外へ越境し承認欲求を満たす傾向にあり、さらに最悪の場合、離職にまで至ることも実は多いのです。その際、ハイポテンシャル層ほど離職する際に「私はこの会社にいてもキャリアの先が見えない」と口々に仰います。

私はこれほどもったいないことはないと思っています。

だからこそ、これからその組織に必要不可欠な人材となる可能性が高いハイポテンシャル層には社内での横断型プロジェクトなどを活用して、「良質な経験」を戦略的かつ意図的に与えなければなりません。

大手広告代理店の事例

組織の課題は「適切な人に適切な仕事の質と量が配分されない」ことによる不必要なコミュニケーション、不必要な戦い、不必要な縛り、不必要な自由、不必要なマネジメントが発生することから生まれます。

そのため、このハイポテンシャル層には、適切な背伸びした良質な経験を配分することが大事になります。

先述した「①部長以上の役職者が直接関わる」についてイメージをよりもっていただくために、弊社にて組織戦略のコンサルティングにて関わった企業様の事例をご紹介します。

今回事例として挙げさせていただくのは、大手広告代理店の執行役員事業本部長Oさん(仮名)からの組織マネジメントに関するご相談です。このOさん率いる事業部は総勢120名ほどの組織体であり、部長1名、マネージャークラス3名、他一般メンバーという構成でした。

120名をOさん一人で統括しなければならない状態で、抜擢文化を創り、意欲ある若手が次々と当該事業部から輩出していきたいという想いでのご相談でした。

そこで、弊社は当該事業部の120名全員の自律度合いと個性を分析させていただき、下記のような人材のポートフォリオを作成することに。

Oさんのリーダーシップの個性と相性が良いという観点と現在の自律度合いの観点から、

・Oさんが可能な限り直接関わって育成・マネジメントをした方が良い人材を優先度A
・大まかな指示を出し、誰かを介入して育成・マネジメントした方が良い人材を優先度B
・後回しにした方が良い人材を優先度C

と割り振りました。

そこで判明したのが、普段コミュニケーションをとっている頻度が高いマネージャークラス3名が全員優先度C、一方で普段コミュニケーションの頻度が限られるメンバークラスに優先度Aの人材が5名もいたことです。

この分析の後、Oさんは早速優先度Aの人材に対して、高頻度で1on1を実施し、Oさん直下のプロジェクトにも抜擢し、可能な限り直接コミュニケーションを取るように意識してくださいました。結果、5名いるうちの4名が頭角を現し、昇進もしくはハイパフォーマーへとなることが実現できました。

さらに、この4名が周囲のメンバークラスへも成長を促進し、当該事業部単体でスピンアウト(独立)の可能性をホールディングス本社から提案いただく“名門事業部”へと成長できたといいます。

このように、実質役職がある人の優先度が低くなることは多々あります。

マネジメントでは基本的に、ダブルスタンダードにならないよう、複数等級下の人材とコミュニケーションを取ることを極力避けるようにと言われています。しかし、そのことで意欲あるハイポテンシャルな若手人材が埋もれてしまっているというケースは枚挙にいとまがありません。

明日から実践できるマーケティング的組織活性化とは

以上のように、組織を活性化させるためには、マーケティング的考えを取り入れていただくと、よりヒントが掴みやすいかと思います。

最後に、皆様の企業でも明日から実践できるマーケティング 的組織活性化のためのアクションをいくつかご紹介したいと思います。

①社内の人材ポートフォリオを策定してみる

まずは、「パフォーマンスの度合い×自律度合い」にて社員を4象限に区分してみましょう。「自律度合い」と言う新しい視点が入ることで、これまで思いもよらなかった人材へ着目することができるかもしれませんし、これまでハイパフォーマーだった人材にも懸念が出てくるかもしれません。

②「ハイポテンシャル層」から育成戦略を考案してみる

自律度合いが高く、しかし目立ったパフォーマンスがまだないハイポテンシャル層は、最もレバレッジが効く層です。ここにターゲットを絞り込み、個別で育成戦略を考えてみます。

「〇〇さんがもっと活躍する可能性が高いプロジェクトは何だろうか?」
「〇〇さんと直接関わった方が良いのか、それとも誰かを介して関わった方が良いのか?」

という視点をもちながら考えてみましょう。

③組織活性化に「ターゲット戦略」の考え方を経営幹部に定着させる

最後に非常に大事なことですが、組織活性化のためには、ターゲット戦略が欠かすことができません。「みんなを救う施策は結果誰も救われない」という事実と向き合うことが必要です。

現在はHR Techツールの流行に伴い、組織活性化の施策が打ちやすくなりましたが、全社員を対象とした施策を手段として行うことが多いような気がしています。

こうしたTechツールは活用しつつも「ターゲットを絞った個人活性化の末に組織活性化がある」という考えのもと、本質的な組織活性化に取り組まれる企業が増えることを願っております。

<著者プロフィール>

張ヨンヒ(JANG YOUNHEE)
株式会社ITSUDATSU
取締役副社長

学生時代に起業し、事業売却。2008年に故郷の韓国より来日し、外資Eコマース企業のマーケティングスペシャリストとして、マーケティング戦略やプロモーションの全般に従事。その後、広告代理店企業のデジタル戦略事業部長、D2C企業のCMO兼事業責任者として、マーケティング戦略を含む事業全体の戦略や組織体制構築を経験。2022年4月現職に就任。

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