コロナ禍を経てオンラインとオフラインの垣根を越えた購買行動が広がっています。このオムニチャネル化の動きに中小事業者も対応を迫られていますが、両方に対応しないといけない取り組みは容易ではありません。
このような課題の現状に対して、ネットショップ開設サービスなどを展開するSTORES 株式会社の倉岡寛氏にご寄稿いただきました。
オンラインで購入することがあたり前に
経済産業省のデータによると、2021年時点で日本の物販系分野のBtoCのEC化率は約8%と、コロナ禍を機にオンラインでの購買行動が加速しました。
筆者がChief of Staffを務めるSTORES 株式会社のネットショップ開設サービス「STORES」を見ても、これまでネットショップを持たない事業者が利用開始するケースが急増し、特に食品関連のネットショップ開設が相次ぎました。その結果「STORES」を通して生まれた流通額は、2018年から2021年にかけて約5.5倍に伸長しました。
しかし、他国のEC化率と比べると、まだまだ日本は低い水準にあり、今後もEC化率は伸びていく余地があると言えます。
急速に進む、“オムニチャネル化”
2020年4月の緊急事態宣言発令から約2年半が経過し、今ではオンラインでの購買行動の定着とともに、「実店舗回帰」も進んでいます。
STORESが提供する実店舗のキャッシュレス決済サービス「STORES 決済」を見ても、店舗での経済活動が停滞していた2020年4月から6月の3ヶ月間、流通額の成長が56%にとどまっていたのに対して、2022年4月から6月は145%と大幅に伸びていることからも明らかです。(いずれも2019年4月から6月比)
実店舗回帰とともに、オンラインとオフラインの垣根を越えた購買行動も広がっています。例えば、オンライン上で実店舗の在庫を調べてから実店舗に行ってものを買う「ウェブルーミング」や、実店舗で価格や性能を確認し、実際の購入はオンラインでおこなう「ショールーミング」そして「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」や「モバイルオーダー」などがあります。
STORESが2022年5月におこなった独自の消費者向けインターネット調査でも、「衣類」を購入するシーンにおいて、「店舗に行った際に、ネット上で商品を検索・比較する」「店舗で購入し、自宅へ発送する」など、オンラインとオフラインを行き来する行動が増えていることが分かりました。
これは大手企業に限らず中小事業者にも言えることであり、オムニチャネル化が急速に進んだことが背景にあります。
「オムニチャネル化」の裏にある中小事業者の課題
「オムニチャネル化」が加速する中、店舗を運営する事業者はどんな課題を抱えているのでしょうか。それは販売チャネルごとに「在庫情報」「売上情報」「顧客情報」がバラバラに存在し、データが分断され「経営に必要な情報」の管理が煩雑になっているという課題です。
実際にどのように管理が煩雑になっているか、ある小売事業者の事例を紹介します。都内にある、かな料紙専門店の「こきん」さんは、実店舗とネットショップで商品を販売してますが、商品の「在庫管理」という課題に直面していました。
実店舗では1,000点以上の商品を取り扱い、その中から一部の商品はネットショップにも掲載しているため、実店舗で売れるたびにネットショップで「売り切れ登録」をする必要がありました。この在庫調整には、1日あたり1時間半ほどかかることもあったそうです。
担当者によると「忙しい時は在庫の調整を忘れてしまい、ネットショップに掲載している商品の在庫が店頭になく、別の商品で対応したり、返金したりすることもあった」といいます。
同様に、都内で実店舗とネットショップを運営するトレイルランニング専門店 「Trippers 」さんからも、「1日の終わりに、実店舗で売れた商品をネットショップの在庫から手動で差し引いていた。しっかりと確認したつもりでも、ズレが生じてしまう。ネットショップで売れても、手元に在庫がないときは、メーカーに問い合わせるという手間もかかり、顧客を待たせてしまい迷惑をかけてしまった」という声もありました。
そして大分県で、実店舗とネットショップの他、イベント出店もおこなう、子供服と雑貨のお店「 bon but」 さんも、販路が増え、一気に商品の在庫管理が煩雑化したといいます。
「実店舗やイベントで商品が売れたら、商品数を手書きで記録し、後からネットショップの登録在庫数から差し引く作業をしていた。イベント出店の際は多いときで70着近くが売れるため、ネットショップとの在庫調整に3〜4時間かかっていた」といいます。
また「イベント出店中は、売れた商品をその都度ネットショップの在庫から減らす時間が取れず、一時的にネットショップを非公開にする必要があった。在庫調整の作業ができないときは、3日ほどネットショップを非公開にしたままということもあった」と話し、その分売り逃しが生じていたそうです。
このような課題を解決すべく、STORESでは2021年6月にネットショップと一体になったPOSレジ「STORES レジ」の提供を開始しました。
実際に利用事業者からは「在庫調整の時間と手間が削減できた」「在庫連携でズレがなくなり、課題が8割改善した」「イベント時もネットショップをオープンにしたまま出店できるようになった」などの声が多数ありました。
もちろん、別々のサービスであっても、それぞれのデータをCSVファイルでダウンロードし、データを連携すれば一元管理できるケースも考えられます。しかし、ここで強調したいのは「UXが統一されていることが重要」という点です。
「2つの別々のサービスを連携する」という作業は、デジタルに慣れていない方からすると、手間がかかる面倒なものであり、慣れるのにも時間が必要です。
だからこそ、少人数であらゆる業務をおこなう中小事業者にとっては、「別々のサービスを連携できる」ではなく、「最初からUXが統一されている」ことに大きな意味があります。
そして、ネットショップとPOSレジの商品データベースも統一されていれば、実店舗とネットショップの垣根を越えたオムニチャネル化にも、スムーズに対応可能でしょう。
消費者の行動変容をデータで捉え、経営戦略に活かす
今、消費者側の行動が猛烈なスピードで変化しています。中小事業者はその変化をキャッチアップし、自らも変化し続けることが求められ、ハードな局面を迎えています。
一方で、10年前に比べて、カジュアルに新規事業を始めたり、テストしたりできるようになりました。その「カジュアルさ」の中心にあるのが、デジタルだと考えます。デジタルの力によって、今まで1しかできなかったことが、いきなり10までできる。これを使わない手はないと思います。
しかし、デジタルツールを駆使し、経営戦略に活かせるデータ分析ができる、いわゆる「デジタル人材」と呼ばれる人はまだまだ少ないのが現状です。ましてや、少人数で運営する中小事業者であれば、そういった人材を雇用することすら難しいでしょう。
だからこそ、デジタル活用のチャンスを逃さないために私たちは、提供する複数のサービスを通して、中小事業者が経営戦略で必要なデータにさくっとアクセスでき、それを元に戦略を練ることができる、「新しい事業機会につながる」ような仕組みを、構築しています。
例えば、管理画面上で「オンラインとオフラインで、どういうお客さまが買っているのか」を可視化し、それを見やすい形でプレゼンテーションする。
そうすることで、事業者は目の前にいる顧客に対して「いつもネットショップで買ってくれてありがとうございます。今日は実店舗にもきてくれたんですね」というような会話ができたり、データを元にイメージを膨らませ、新しいビジネスアイデアも湧いてきたり…そんな状態を生み出せるのが私たちのサービスの強みです。
中小事業者やスタートアップの強みは、機動力だと考えます。スピーディに独自のサービスを磨き、ファンに届けて、喜んでもらう。その強みを活かせれば、たとえ大規模店舗が近くにあっても、独自の価値を提供し、お客様に喜んでいただくことができるはずです。
中小事業者が自らのコアな価値にこだわり続けられる、そんなデジタルツールを提供し、「経営支援」につながるシステムになること。これを私たちは今後強化し、目指していきます。
<著者プロフィール>
倉岡寛
STORES 株式会社
Chief of Staff / VP of Strategic Initiatives2007年Googleに入社し国内の検索プロダクトマネージャーを担当したのち、2011年グリー株式会社に入社。米国支社の立ち上げや、プラットフォーム事業責任者などを歴任。2013年クービック株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。2020年クービック株式会社のグループ化に伴い、VP of Productに就任。
- Original:https://techable.jp/archives/192780
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:Techable編集部