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地方企業こそ「自律人材」を発掘すべき。社員が「受け身」になってしまう本当の理由とは?

昨今多くの地方の中小企業では、経営者の高齢化により後継者不足が一段と深刻な状況となっています。我が国の中小企業の割合が99.7%を超える中、地方経済にとって、後継者難にある中小企業の事業存続は喫緊の課題だと言えます。

そこで今回は、「人間の本質(Human Nature)」をビジネスに活かす組織戦略家集団である株式会社ITSUDATSUの代表取締役・黒澤伶氏に、地方の中小企業を取り巻く後継者不足の現状や原因、解決策についてご寄稿いただきました。

「地方企業における後継者不足の解消こそ“人材の選択と集中”が必要」についての考察を解説していただくので、後継者不足に悩む経営者はもちろん、今後事業承継の予定がある経営者にとっても参考になる内容になっています。

地方企業における後継者不足の現状

近年、後継者問題に悩まされている中小企業が数多く存在しています。

日本に存在する会社のうち、99%以上が中小企業です。帝国データバンクの資料の「全国・後継者不在企業動向調査(2021年)」によると、国内企業のうち「およそ3分の2(61.5%)」の会社が後継者不在の状態にあるそうです。

さらに中小企業の経営者の高齢化問題も同時に年を追う毎に進み、地方への人材不足も相まって、事業承継がうまく進まずに廃業や清算を余儀なくされる中小企業が増加しているのが現状です。

なぜ多くの地方中小企業が後継者問題に直面するのでしょうか。その背景にはどのような課題があるのか考察してみたいと思います。

私は最も大きな原因は「生産性の向上」だと捉えています。経済産業省の調査によると、労働生産性は米国と比較し、製造業は高い生産性を上げている一方、GDPや就業者の7割近くを占めている地域経済を支えるサービス産業の生産性は約1/2という結果も出ています。

生産性の向上に必要なのは「経営人材」

それでは、生産性を向上するためには何が必要なのでしょうか。私は、「経営人材」だと考えています。

生産性向上をするためには、これまでの既存事業とは一線を画すようなインキュベーションが必要となります。もしくは、既存事業の枠組みの中でも、事業プロセス・オペレーションの刷新や改革が必要となります。

いわば、過去の延長線上にはない、これまでの会社の枠組みを逸脱した新たな事業や発想などが求められます。

そのためには、これまでの社内に存在しない、知見や経験、発想が大事になり、そのために経営人材が求められていますが、この「経営人材」が圧倒的に足りていないのが地方企業において顕著になっているかと思います。

当然、上記のことはよく理解し、新規事業など新しい事業モデルや事業プロセス・オペレーションの改革に取り組みながらも、やはり結局は経営者が孤軍奮闘してしまうのがリアルな実情かと思います。

だからこそ、経営幹部人材の地方企業へ還流する流れを、国も民間も真剣に考え、アプローチしています。

しかしながら、私は上記の経営幹部人材を地方に就労させる動きもありながら、地方の中小企業にはもっと根深い問題が潜んでいるのではないかと考えています。

本当に社内に経営人材がいないのか

地方の中小企業の根深い問題、それは「社内にいる“かも”しれない、潜在的な経営人材を見逃してしまっているのではないか?」ということです。

経営人材の必要性を説くと、必ずと言っていいほど下記のような声を聞きます。それは「うちの組織には経営人材がいないんです」という声です。

しかし、私の経験上はどのような組織でも、潜在的な経営人材は必ず3%前後の割合で存在します。

中小企業であろうが、零細企業であろうが、老舗企業であろうが、どんな組織にも最低でも一人は会社のことを真剣に考え、さらには自分の人生も真剣に考え、その組織に属すこと自体を喜びとし、難題にもめげずに、今の会社の状態を変えようと本気で信じている人はいます。

しかし、我が社にはいないのだと決めつけ、「見つけようとしないこと」が一番の問題です。存在しないのではなく、見えてこないのが、地方中小企業の生産性低下の大きな根深い問題だと私は考えています。

潜在的な経営人材を見つけられない原因

それでは、なぜ潜在的な経営人材が見えてこないのか?そこには地方中小企業に多い組織風土が起因していると考えます。

地方中小企業に多い組織風土として「社長孤軍奮闘体制」が挙げられます。経営人材がいないから孤軍奮闘体制になってしまっている、とも取れますが、私の考えは「孤軍奮闘体制になっているから経営人材が成長してこない」と逆説的ですが、そのように考えています。

社長はものすごいパワフル、そしてカリスマ性がある。だからこそ、社員はみんな社長を多少の怖さを感じながらも尊敬している。

だからこそ、トップダウンで、戦略を決め、さらに実行し、仕事は標準化され、分業、細分化も行われ、生産体制を安定し最大化をすることが大事とされてきたのかもしれません。

しかし、その体制こそ、社長しか物事を決められなくなり、孤軍奮闘状態になり、社員がアルバイト化してしまい、受け身な状態になってしまう要因であることはよくあります。

社員が「受け身」になってしまう理由

心理学でよく言われる「学習性無力感」というものがあります。

学習性無力感がどうやって起きるのかを表す有名な実験があります。水槽の中に魚を一匹入れ、餌を与えずに放置します。魚を空腹状態にし、水槽の上部にガラス板の仕切りを作り、ガラス板の向こう側に餌をおきます。

魚は空腹状態なので、餌を食べようと勢いよく飛び上がるも、ガラス板が障害となり食べられません。突進しては、ぶつかり、突進しては、ぶつかり・・・を続けると、動かなくなり、無気力状態になってしまうのです。

次に、ガラス板を取り外して、いつでも餌を食べられる状態にしました。しかし、一度無気力になってしまうともう餌を取ろうとはしなくなったというものです。

これは人間にも同じことが当てはまります。挑戦やチャレンジを行い、たとえば会社や社長に提案をしようと試みても、それが認められず、進展しないと悟った時にそれ以上何もしなくなることも多いです。

自分の行動が結果を伴わないことを何度も経験していくうちに、やがて何をしても無意味だと思うようになっていき、たとえ結果を変えられるような場面でも自分から行動を起こさない状態のことをいいます。

この実験で最も大切なことは、この魚のように、ガラス板がなくなり、自由な状態となったとしても、一度学習性無力感になってしまうと餌を食べなくなってしまうことです。

私は、地方に限らず多くの組織の社員がこのような状態になってしまっているのではないか、という仮説を持っています。特に、社長トップダウン型組織が多い(そうせざるをえない)地方企業に多いのではないかと考えています。

先の魚の実験と、組織の最も大きな違いは、ガラス板が「見えるか見えないか」というのも非常に大事な視点です。

組織におけるこの「ガラス板」はなんとなくの「暗黙知」や「固定観念」であることが多いのです。さらに恐いのは、昨今のように人材の流動性が上がっている中で、勤続年数が長ければ長い社員ほど、この暗黙知に浸かっていることが気づかず、気づいた時には学習性無力感になってしまったというケースも非常に多いことです。

社長は「もっと社員に主体性を持ってほしい」「もっと私に会社を改革する提案をしてほしい」と望みますが、一度有能な社員でも学習性無力感になってしまった場合、社員の自律を高める経営の実現は難易度高いものとなります。

経営人材不足解消に向けた、戦略的人事とは

それでは、このような状態で、何が「経営人材」の不足を解決する糸口となるのでしょうか。

私は大きく2つの方向性があると考えます。

①社外から経営人材の採用を行う

実は先述した魚の実験で、一度学習性無力感になってしまった魚が餌を再び食べようとする唯一の方法がありました。

それは、同じ水槽の中に「元気な魚」をいれることだったのです。

元気な魚は、ガラス板にぶつかった経験がないので、当然ながら餌を食べようとします。それを見た無気力になってしまった魚も、「もしかしたら、自分でも食べられるのでは」と思い、餌を少しずつ食べました。そうすると、「なんだ、大丈夫だったか」と気づいて、進んで餌を食べようとします。

まさに、この原理が組織にも当てはまるのではないかと思うのです。

組織の暗黙知に浸かっていない、新たな視点と新たな発想を持った経営人材がこの組織に長年染み付いた風土を改革への一投石になるのではないでしょうか。

この外部から登用した経営人材が自ら先頭に立ち、改革を推進することで、周りの社員も「このようにすれば、この会社だってどんどん前に進むのだ」と感じるはずです。

まさに、このようなチェンジリーダーこそ、地方の中小企業にこそ必要な人材です。

②社内から経営人材のポテンシャルがある人材を発掘する

もう1つの視点は、「本当に社内にチェンジリーダーとなれる人はいないのだろうか」という視点です。

私は、このチェンジリーダーになれる人は、管理職とは限らないと考えています。役職は立場、雇用体系一切関係なく、「誰でも」なれる可能性はあります。

しかもこのような人は、いわゆる「優秀」な人であるとも限りません。一般的な優秀な人は、組織の暗黙知を身に着け、ミスや失敗がないようにオペレーションを回しているという人も多いです。このような人は、組織の変化を阻害する可能性もあります。

今までの一般的な「仕事ができる」という概念でこのチェンジリーダーを発掘しようとしても難しいのが現状です。まさに、人材登用の新たなパラダイムシフトが今求められているように感じます。

そこで、私から1つ紹介したいのは、「自律」という観点です。

・自分の願い・想いを自分で理解している
・自らの意志に基づいて行動に移している
・必要なだけその行動を継続させている
・自らの望む結果(成果・現実)を周囲との相互作用を通して創り出すことができる

上記をクリアした自律性の高い人材は意識的に、もしくは無意識的に自らの願いやビジョンを持っており、内発的エネルギーが非常に高いことが多いのです。

内発的エネルギーが高いということは「心にゆとりのある人」と捉えることもできますが、この「心のゆとり」が「覚悟」に直結します。

「自社の成長やミッションを果たすことに覚悟を決めている人のする仕事」と「自分の意思が定まらず、与えられた業務のみをやろうとする人の仕事」とでは、成果が大きく変わるものです。

このような人材こそ、もしかしたら、新入社員の中にもいるかもしれないし、これまでスポットライトがなかなか当たらなかった人かもしれません。

しかし、この「意外性」が組織に大きな変化をもたらすことも同時に多くあることです。これまで、「ただの変わった人」「組織不適応」などと思っていた人材が実は変革の主役になる事例はこれまで多くありました。

したがって、まずは「見つけよう」とする姿勢こそが大事なのではないでしょうか。

経営人材のポテンシャルがある自律人材を発掘する3つの視点

今回は、10万人の活躍データ(最優先育成人材発掘・抜擢サービス“KANAME”による回答データ)から要人材として活躍可能性が高い、自律人材を見極める3つのポイントをご紹介します。

①未知の領域にも挑戦しようとしている

自律性の高い人材は、自分が過去体験したことがないことでも果敢に挑戦しようとします。

たとえば、上司からハードルの高い業務の依頼がきても進んで挑戦しようとしますし、自分の専門外の知識でも好奇心を持って知ろうとする傾向があります。

②結果だけではなくプロセスも楽しもうとしている

自律性の高い人材は、結果が出るから楽しいのではなく、結果が出る前のプロセスを楽しむ傾向があります。企業はゴーイング・コンサーンなので、売上や利益を求めるのが当然ですが、従業員がノルマという結果に押し潰されてしまうことも多々あります。

しかし、自律性の高い人材は、結果を出すまでの試行錯誤の連続を楽しむことが多いです。

③周りを巻き込む楽しさを知っている

自律性の高い人材は自らのマインドに余裕(余白)があるからこそ、周囲にも目を配ることができ、連携・協働する力があります。

そのため、自己完結型の仕事の進め方をするのではなく、周りを巻き込んで大きな仕事をしようとする傾向があります。たとえば、チームでの成果を自分のことのように喜べたり、意図的に他の部署や他のチームにも関心を寄せたりします。以上、地方の中小企業の後継者不足といった観点から、地方こそ経営人材を内部外部両者の視点で採用と発掘の重要性について考察しました。後継者不足が地方経済に深刻なダメージを及ぼすと指摘されていますが、まさに早急な対応が求められていることと思います。

私は、地方企業は首都圏の企業と比べて、「人材育成」に真剣に考えている経営者が多いと感じています。本記事が、地方企業の皆様の組織活性の何かしらのヒントとなりましたら幸いです。

<著者プロフィール>

黒澤伶
株式会社ITSUDATSU
代表取締役

早稲田大学人間科学部卒。デル株式会社(現:デル・テクノロジーズ株式会社)、株式会社ビズリーチ(現:ビジョナル株式会社)、コーチングファーム取締役を経て、株式会社ITSUDATSUを創業。「ITSUDATSU(非直線的な現象)を再現性の高い世の中にする」という大義の下、要人材を起点とした独自の組織活性方法で累計300以上のプロジェクトを推進。現在、複数社の取締役CHRO(非常勤)を歴任。

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