リーズナブルで高品質、という印象が強いアルゼンチン産のワイン。デイリーに楽しまれている方も多いのでは?
一方で、クラシカルで濃く、重たいという味わいのイメージから敬遠される方がいらっしゃるかもしれません。
ソムリエとしてだけでなく、ワインプロモーターとして世界中のワインを扱われる別府岳則さんに、日本初のノンアルコール専門商社である株式会社アルト・アルコ代表取締役の安藤裕さんが伺った、最新のアルゼンチンワイン情報をご紹介いたします!
アルゼンチンの食のイメージは?
今回はアルゼンチン出張から帰りたてのソムリエ別府岳則さんに、「アルゼンチンワインの今」をお聞きしました。
アルゼンチンという国に、どんなイメージをもたれているかは人それぞれかもしれませんが、少し料理やワインの勉強した方なら、なんとなく「パワフル」「重い」「濃い」といった印象をもっていらっしゃるかもしれません。
しかし、別府さんが語る言葉は、意外にもわたしたちの固定観念を覆すものでした。
意外にもあっさり、アルゼンチンビーフ
スペイン語で「焼く」という意味をもつアサードという言葉が、そのまま料理名となっています。料理としては、肉の塊を炭火でじっくり焼いて塩で食べるというシンプルなもの。これにマルベックを合わせて楽しむのがアルゼンチン流です。
アルゼンチンビーフの特徴は、脂身が少なく、あっさりと食べられること。飼料に穀物が一切与えられず、広い牧草地で牧草のみを食べながら、牛がのびのび育つためだそうです。
アルゼンチンとワインの関係
国家政策として州ごとに注力する農産物が決められ、その際にワイン産地となったのがメンドーサ州でした。
メンドーサ州はアルゼンチン中部に位置し、アンデス山脈を挟んでチリと国境が面しています。アンデス山脈側に近づくにつれ、徐々に標高が高くなっていきますが、平野部も広がっています。年間降水量が300ml未満という非常に乾燥したエリアです。
14万ヘクタール(=1400㎢)と広大な栽培面積を誇り、かつての国家政策の影響とも相まって、今日でもアルゼンチンで生産されるワインの7割以上がメンドーサ州産です。
また、乾燥エリアでのブドウ栽培には灌漑(かんがい)設備が欠かせません。昔ながらの灌漑設備は、平坦な土地を必要とするため、必然的にブドウ産地は平野部に集中することとなります。
アルゼンチンワインとマルベック
ワインを勉強したことのある人であれば、マルベックというぶどうの品種を聞いたことがあるかもしれません。
マルベックはフランスで栽培されており、古くはワイン銘醸地として名高いボルドーの主要品種であったという歴史があります。
アルゼンチンにマルベックがもたらされたのは、1853年の4月17日と言われており、当時の移民によってもち込まれました。ちなみに4月17日は現代でも『マルベック・ワールド・デー』としてワインファンに祝われています。
しかし、長らくアルゼンチンではマルベックという品種が注目されることはありませんでした。
マルベックに耳目が集まったのは、1980年代に入りイタリアの有名ワイン醸造家がアルゼンチンにおけるイタリア系ブドウ品種の栽培、発展の可能性を調査したときでした。
醸造家が可能性を見出したのは、当初の目的であったイタリア系品種ではなく、意外にもマルベック品種。以降、徐々にアルゼンチンにおけるマルベックの存在感が高まっていきます。
さらに2000年代に入って、アルゼンチン通貨であるペソが暴落すると、アメリカ市場でアルゼンチンマルベックが人気を博し、アルゼンチンワインを代表する品種として、マルベックの地位が築かれていきました。
アンデスを登るワイナリーと変わりゆくマルベック
世界的に見てもワインの味わいは近年、より軽やかでエレガントなものへと人気が移り変わってきていると言われますが、単なる味わいのトレンドだけでなく、もう一つ重要なポイントがあるそうです。
曰く、
「ワイナリーがアンデス山脈を登っている」
とのこと。
これまでメンドーサ州でのワイン造りは平野部が中心で、高地エリアには広がっていなかったことにヒントがあるようです。
「近年はより優れたブドウ畑を求めて、アンデス山脈の高地で栽培を行うワイナリーが増えています。そして、その多くが世界的に注目・評価されています。そのうち日本に輸入されるのは、数少ないのですが、アルトス・ラス・オルミガスというワイナリーのものは、ある意味最も現代的なアルゼンチンワインの一つかもしれません」
アルトス・ラス・オルミガスは、イタリア系移民によって1995年に創業したワイナリー。標高1000mを超える場所に畑をもち、まだマルベック種が注目を集めていなかった時代にマルベックのみでワイナリーを起ち上げています。(現在ではマルベック以外の品種も栽培しているそうです)
アメリカ市場向けに「濃くて重い」ワイン造りが主流だった時代にも、「酸とエレガンス」を感じさせるワイン造りを行っていました。
もちろん変わらずの「濃くて重い」ワイン造りを続けているワイナリーもありますが、スワロフスキーグループが所有するワイナリーで、アルゼンチン国内での人気が高いボデガ・ノートンでも軽やかなワイン造りが行われており、同国内のニーズも徐々に変わりつつあるようです。
これから暑くなっていく季節、「重い赤ワインは……」とアルゼンチンワインを敬遠していた方も、久しぶりにアルゼンチンワインにチャレンジされてみてはいかがでしょう?
<著者プロフィール>
安藤裕
株式会社アルト・アルコ代表取締役大学在学時に渡仏、以降ワインの業界で経験を積み、2018年同社起業。
著書に『ノンアルコールドリンクの発想と組み立て』(誠文堂新光社)。
- Original:https://techable.jp/archives/201984
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:佐田優佳