Web3を活用したまちづくりや社会実験が注目を集めています。
実際にNFTの売上でウォータータンクや教室を現地に建設した実績がある、ウガンダ共和国カルング村のまちおこし「Savanna Kidz NFT」はWeb3型クラウドファンディング「Open Town」を活用したプロジェクトです。
現在では、カルング村以外にもインドネシアのロンボク島や埼玉県・横瀬町を舞台にプロジェクトを同時に推進する株式会社奇兵隊のCEO、阿部遼介さんにWeb3技術が拓く国際協力と地方創生ついて、実際のプロジェクト事例とあわせて解説していただきます。
本記事は前編として「Savanna Kidz NFT」を事例に国際協力をテーマにご寄稿いただきました。
Web3の定義と、Web3技術がもたらす新しい可能性
Web3という言葉には2つの定義があります。
Web3は、ビッグテック(巨大IT企業)に支配されない自由なインターネットを取り戻そうという思想を指す言葉であると同時に、ブロックチェーンを用いて作られたコンテンツやサービスの総称を指す言葉でもあります。
本記事では、後者の定義で話を進めていきます。
Web3は、ブロックチェーン技術を活用した次世代インターネットのコンセプトです。企業や国家がデータを管理するWeb2とは異なり、Web3ではデータや資産を個人が自分で管理することや、プラットフォーム間で相互運用することが可能です。
スマートコントラクトという取引や契約を自動化するプログラムによって、ブロックチェーン上で発行される暗号資産を作ったり、NFTと呼ばれるデジタルアートやコレクタブルなどの希少性を持つアイテムを独自性のある資産として取引したりできる技術が生まれています。
これらの技術を活用することで、私たちにとって身近な、たとえば学校のクラブ活動、町のフリーペーパー、NGOの活動といった個人の熱意や無償の貢献に支えられてきた多くのアクションを、持続的なものにできる可能性があります。
具体的には「ブロックチェーン上で発行される暗号資産(トークン)」が、コミュニティの参加者に広く分散されることで、NGOにボランティアとして参加してきた人や、オープンソースのソフトウェアに貢献してきたエンジニアが経済的な恩恵を受けられるようになります。
また、トークンに「プロジェクトの意思決定権」の性質を持たせられるため、NGO参加者が意思決定に参加することができます。これはパワフルで熱意のある創業者がいなくなると活動が縮小、もしくはストップしてしまうといったNGOで起こりがちな問題の解決につながります。
プログラムで管理されるデジタル通貨ビットコイン
Web3の代表的な技術から生まれたデジタル通貨、ビットコインは収益性のない、まさに参加者の熱意のみで運営されるプロジェクトでした。
2010年5月22日に行われた最初の取引は、1万ビットコインでピザ2枚を購入できる程度のものだったといいます。当時は誰も、ビットコインが現在のように高価な資産性を持つとは思っていなかったのです。
しかし、「プログラムで管理されるデジタル通貨」というコンセプトに惹かれたエンジニアが集まり、活動をしていくうちに、ビットコイン自体が経済的な価値を持ち、その結果コミュニティが持続的に拡大していきました。
ビットコインに係るさまざまな企業が生まれ、今では独自の“生態系”を確立するレベルにまで達しました。かつてピザ2枚の価値しかなかった1万ビットコインですが、2023年4月時点で300億円以上に相当します。
Web3型のクラウドファンディングを通した国際協力プロジェクト
Web3技術によって継続が難しい取り組みを持続化させる試みとして、Web3技術が国際協力プロジェクトに活用されたアフリカでの事例をご紹介します。
ウガンダ共和国の南西部に位置する農村、カルング村では、Web3型クラウドファンディング「Open Town」の実施によって住民主体のまちづくりを実現。清潔な飲料水を確保するための雨水貯水タンクと、安全で集中しやすい学習環境を整えるためのコンクリート製の教室、そして衛生的なトイレを建設することができました。 Web3型クラウドファンディング「Open Town」とは、株式会社奇兵隊が提供する、世界各国のまちづくりのために資金と応援者を持続的に集める仕組みです。カルング村で実施したOpen Townプロジェクト「Savanna Kidz NFT」では、カルング村のまちづくりのための資金と応援者を、村に住む子どもたちをモチーフにした独自のNFTアート「Savanna Kidz NFT」の販売によって集めました。
Savanna Kidz NFTプロジェクトで継続的な資金集めと住民主体のまちづくりを実現するにあたっては、次のようなインセンティブ設計を行いました。<Savanna Kidz NFTプロジェクトのインセンティブ設計>
1.Savanna Kidz NFTを購入すると、1体につき、54.00000$OPENTOWN(※1)を受け取ることができる
2.Savanna Kidzに限らないOpen Townプロジェクト(※2)のNFTを7~8個を購入し、それによって得られる$OPENTOWNトークンを半年以上ステーキングすることで、全てのOpen Townで報酬を受け取ることができるフリーパスNFTを獲得できる
3.Savanna Kidz NFTプロジェクトの公式Discordオンラインコミュニティにて、まちづくりに関する提案や議論へ参加でき、$OPENTOWNトークンを使った投票に参加することができる
4.カルング村を訪れた際に、無料で宿泊したり村のお祭りに参加したりできる
※1 Savanna Kidz NFTプロジェクトにおけるまちづくりの方向性や開発運用に関する決定に影響を及ぼすことができる投票機能を備えた仮想通貨です。
※2 Open Townプロジェクトは世界中で展開しています。Savanna Kidz NFTプロジェクトの他に、インドネシアのロンボク島で実施している「Lombok Kidz NFT」、埼玉県の横瀬町で実施している「Open Town Yokoze」があります。
現地住民とNFTを購入した支援者の交流にDiscordを活用
住民主体のまちづくりを実現するために、Savanna Kidz NFTプロジェクトではカルング村の現地住民とNFT購入者、そして運営側の奇兵隊とが直接コミュニケーションを取ることができるオンラインコミュニティをDiscord上で作成しました。現地住民とNFT購入者はそのオンラインコミュニティ上で、日常的な会話を楽しみ、運営やプロジェクトの内容に関するアイディア出しを行い、Snapshotという分散型投票システムを使用して、実行に移すプロジェクトを決める投票を行いました。
その結果、日本円にして約500万円以上の資金が集まり、現地住民とNFT購入者による投票を経て、2022年5月には45世帯の村人が綺麗な水にアクセスできる15基の雨水貯水タンク、同年10月にはコンクリート製の教室2部屋とトイレなどの建設が実現しました。
さらに、これらのまちづくり施策では、工事の作業員としてカルング村の住民も採用し、村に新たな雇用を生み出すきっかけにもなりました。
国際協力の課題をスマートコントラクトの導入で解決
現行の国際協力分野における課題を鑑みて、Web3技術を取り入れることが重要だと私は考えています。
たとえば、従来の中央集権型の国際協力では、以下のような課題が存在します。
1.資金の使途やプロジェクトの進捗状況が不透明な場合が多い
2.寄付を集める運営者や仲介者が不正行為を行ったり、システムがハッキングされたりするリスクがある
3.手続きの複雑さや時間がかかる
4.資金調達方法で、書類の準備や審査、契約手続きなど、煩雑なプロセスが必要となり、効率性に欠ける
これらに対し、スマートコントラクトを活用すると効果的に対処することができます。
スマートコントラクトはブロックチェーン技術をベースにしており、取引履歴や資金の使途が分散型の台帳に記録されることから、透明性や信頼性を高めることができるのです。
たとえば…
1.スマートコントラクトの導入により、資金の寄付者や受益者がいつでも情報にアクセスでき、資金の用途やプロジェクトの進捗に関する透明性を保てる
2.スマートコントラクトを導入すると取引が自動的に実行されるため、運営者や仲介者が不要となり、情報操作や不正行為のリスクが低減され、信用性が高まる
3.スマートコントラクトは分散されたネットワークによって構築されたシステムなので、個別の機関に問題が生じた場合でも、システム全体が危険にさらされるリスクが低い
このように、国際協力分野にスマートコントラクトを導入することで、よりスムーズに支援を行うことができます。
一方で、現状のWeb3の業界では詐欺や不正な行為が横行しており、技術自体もまだまだ黎明期であるため、非常に使いづらいものになっています。
業界全体での健全化や適切な法規制、技術に関しても多くの人に使いやすいシステム、UXの改善が必要なことはいうまでもありません。
しかし、このような新しい技術が登場した際に毛嫌いすることなく、いかに活用できるか考え、実際に使ってみるといった姿勢は非常に重要なことだと考えます。
後編では、Web3技術を活用した地域活性化の可能性についてご紹介します。
<著者プロフィール>
阿部遼介(あべりょうすけ)
株式会社奇兵隊CEO1982年生まれ。
2007年国際基督教大学卒業後、アクセンチュア株式会社入社。
アクセンチュアでは3年間にわたり、金融機関、官公庁、化学メーカー、新聞社などの顧客に対して、新規事業立ち上げ支援、業務改革、BPO 立ち上げ支援など複数のプロジェクトに従事。2011 年株式会社奇兵隊の代表取締役に就任。
奇兵隊の代表取締役として、会社全体の事業戦略の策定、資金調達、採用及びサービスのマーケティング全般を管掌。奇兵隊の従業員の出身国は10カ国以上にもわたり、多国籍メンバーで構成されたチームを率いる。
- Original:https://techable.jp/archives/203395
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:山田真由子