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日系企業の海外展開が加速する一方、不正会計で倒産も。性善説が通用しない海外経営で日本が勝つには

本記事は、株式会社マルチブック 代表取締役CEO 渡部学氏の寄稿記事です。アフターコロナを迎えた日系企業が海外経営で勝つ方法について解説していただきます。

なぜ海外展開?

現在の日本の経済は成熟期に入り、人口減少が始まる中で市場の継続的な縮小が予想されています。これに伴い、多くの日系企業が海外市場への進出を進めています。

海外展開の主な目的は、これまでのコストダウンを求める製造業中心に行われてきた生産拠点の海外進出から、新たな市場開拓・潜在顧客の獲得、リスク分散、グローバルブランドの確立などにシフトしています。そのため海外市場での競争力強化や、M&Aを通じた業界再編なども目的となってきています。

日系企業は、世界的な競争力を持つものの、グローバル展開においては遅れをとっているとされています。しかし、近年、アフターコロナの日本経済は成長が著しいアジアを中心に海外市場での展開を加速させています。

海外子会社の不正会計でグローバル展開が失敗に終わる企業も

海外展開においてはこれまでとは違ったリスクが付きまといます。特に経営管理においては海外子会社の不正会計が問題となることがあり、これによりグローバル展開が失敗するケースを報道でよく耳にします。

不正会計とは、企業が財務諸表上で虚偽の情報を公表することで、実際よりも業績がよく見えるように操作することです。

意図の有無により不適切会計として表現されることがありますが、いずれの場合においても不正が発覚すれば、企業は信用を失い、その立て直しに追われます。最悪の場合は倒産につながることもあります。

記憶に新しいのは、日本の大手メーカーが、内部通報により不正会計が発覚し、その後大幅な損失を計上し、経営危機に陥った事例です。大企業でも海外子会社の不正会計への対応は難しいものがあり、グローバル展開に伴い管理しなくてはいけないリスクとして認識する必要があります。

そんな中、近年、開示資料の信頼性確保や企業のガバナンス強化の取り組みを求める声が浸透し、不適切会計の開示企業数が増加し続けています。

その背景として、上層部からの数値目標達成のプレッシャー、承認事務の機能不全といった着服や不正を行いやすい脆弱なガバナンス、監査基準の厳格化、経済のグローバル化、トップ主導の風通しの悪い体制などが挙げられています。

また、東京商工リサーチが2023年1月に公開した2022年全上場企業『不適切な会計・経理の開示企業』調査によると、不適切会計の発生当事者別では、親会社が23社だったのに対し、子会社・関係会社が30社という結果に。

2021年は、複雑な決算処理に対応できないといった理由で海外子会社や関係会社での不適切会計の開示に追い込まれた企業が目立っていましたが、2022年は国内連結子会社などでの不適切会計が増えました。いずれもが子会社における“管理”が不十分であることが言えます。

不正会計の防止には「すぐバレる」環境づくりがカギ

不正会計の防止には、徹底した内部統制の整備や監査人の独立性の確保が必要です。また、不正を行った場合、「すぐにバレる」と「バレるのでやっても無駄」という環境づくりが重要です。

このためには、従業員の教育・啓発やホットラインの設置、内部通報制度の整備などが求められます。

従業員が不正行為を目撃した場合に、匿名で報告できる内部通報制度を整備することで、不正の早期発見につながります。実に不正の多くがこの内部通報がきっかけで明らかになっています。

会計システムなどの整備ができてないのは論外として、特に内部監査などが閲覧可能な状況をつくれていないシステムでは不十分です。

さらに、今後、経理・財務部門の人手不足が深刻化していくと、高度な会計処理が要求される会社では、意図しないヒューマンエラーなどによる不適切会計が増加してしまう可能性が考えられます。

どの会社においても“対岸の火事”とは考えず、あらかじめ防止策を講じておくことが必要でしょう。

内部統制は「業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセス」とされ、職務分掌や業務の効率化によって確立されていきます。

ただ、内部統制を確立するだけでは、不適切な会計処理の完全な防止にはつながりません。従業員同士が共謀した場合や経営者主導の場合などは、内部統制の効果が発揮されにくくなるためです。

このような原因による不適切会計を防ぐために、トップ主導体制や決裁権を一人に集中させる体制をつくるのではなく、承認事項には複数の人を介入させるなどして、社内間で取引業務を定期的に照合できる環境を整えておきましょう。

また、不適切会計が発覚するきっかけが会社内部、すなわち内部通報者によって明らかになった場合にも、解雇などの不利益な扱いにならないように保護する対策が必要です。

ちなみに、不適切会計が発覚した場合、上場企業であれば、上場廃止や特設注意市場銘柄への移管などの措置がとられることがあります。刑事責任としては、違反者個人には懲役や罰金、会社には億単位の罰金が科せられる場合があります。また、株主からは代表訴訟を提起され、役員などが損害賠償を請求されることもあります。

従業員一人ひとりの意識改革や、内部通報システムの確立などは、抑止力として大いに機能すると言われています。不適切な会計処理が会社に与えるダメージや個人責任を問われる可能性などの認識を社員一人ひとりに持ってもらうために、定期的に研修などを行うのもいいでしょう。

不適切会計は、会社の存亡に関わる大きな問題に発展しかねないリスクの一つです。不正を看過しない体制や従業員一人ひとりのプロ意識を醸成することで、最悪の状態になる前にリスクを回避できるはずです。

アフターコロナを迎え、日系企業にとって海外展開は一層重要に

新型コロナウイルスの影響で、グローバルビジネスは大きなダメージを受けています。しかし、アフターコロナを見据えると、日系企業にとって海外展開は一層重要になるでしょう。

海外市場での新規事業開発や、グローバル人材の確保、生産拠点の多角化によるリスク分散、地政学的リスクの低減などが期待されます。

例えば、日本の自動車メーカーがアジアを中心とした海外市場での展開を進め、生産拠点の多角化や新規事業の展開などに取り組むケースや、日本の製薬メーカーが欧州市場での販売強化や、M&Aを通じた事業拡大に取り組むケースなどが挙げられます。

以上が、日系企業の海外展開と不正会計についての考察です。海外展開にはリスクが伴いますが、適切な内部統制の整備や不正防止策を講じることで、グローバル展開の成功につながるでしょう。

これらは多くの欧米企業においてはすでに取り組まれている事柄です。今後も、日系企業はこうした不正への対応を周回遅れにならないように意識した上で、グローバル市場での競争力を高めていくことが求められます。

<著者プロフィール>

渡部学
株式会社マルチブック
代表取締役CEO

半導体商社株式会社マクニカにて経理・コーポレートIT等の責任者を経て、海外の買収先のPMIに従事、その後アジアパシフィックのコントローラーを担う。帰国後は独シーメンス社他のCFOとしてグローバル企業のリーダー職に従事。2019年、株式会社マルチブックにCFOとして参画しM&Aによる資金調達をリード。2021年CEO就任。20年以上のファイナンス分野での経験から、買収企業の制度/システム統合、グローバル資本再編による税務、クロスボーダーのオペレーションを得意とする。

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