【The ORIGIN of the CAMP GEAR】
世にあるたくさんのキャンプ道具の中でも、誰もが知っている“ど定番”なキャンプギアたち。多くのギアが溢れる今だからこそ、改めて定番アイテムの魅力をご紹介する“the Origin”企画。第2弾は時代を作ったコンパクトチェア「チェアワン」です。
■圧倒的エポックメイキング。コンパクトチェアの祖ヘリノックス「チェアワン」
「40年近くキャンプを楽しんでいますが、道具の進化はすごいですね。初めて見るブランドでしたから、最初は正直胡散臭いなと思ったものですが、アウトドアショップで試してみたら衝撃的ですぐに購入してしまいました。こんなに小さいのにしっかり座れるなんて、本当にびっくりしたんですよ」
1990年までの第一次キャンプブーム以前から、キャンプをこよなく愛しているNさんはこう語る。
「チェアワン」は韓国のアウトドアブランド「ヘリノックス」の代表的なギアのひとつ。実は韓国では日本よりも早い2010年前後からキャンプブームに。そのため、日本よりも一足先に多くのギアが生まれており、ヘリノックス「チェアワン」もそんなブームに生まれたアウトドア用コンパクトチェアです。
ちなみにヘリノックス、“あの” DAC社が生み出したブランドです。DAC社は世界的にも有数の合金加工に優れた企業で、テントポールやシャフトメーカーとして信頼が厚く、登山系テントの多くに同社製のテントポールが使用されています。特に海外ブランドの登山系テントには必ずと言っていいほど採用されているのです。
そんな世界的に信頼の厚いDAC社が世に送り出したヘリノックスのアウトドアチェア「チェアワン」。最もフォロー商品が多い定番キャンプギアと言っても過言ではない、その定番たる所以を改めて紐解いていきましょう。
■アウトドアチェアの常識を変えた!超コンパクト&超軽量なのに快適な座り心地
ヘリノックス登場以前は、<アウトドアチェア=BBQでよく使う、広げるだけの長物のチェア>のイメージで、小型で快適なコンパクトチェアは多くありませんでした。
あったとしても、個人輸入の小規模通販サイトでたまに見かける程度。当時はそういった通販サイトを探し出すのも一苦労。今のようにSNSも盛んではなく、キャンプに詳しいWebサイトも数少ない、情報収集が大変な時代でした。そんなわけで快適でコンパクトなチェアは一般的ではなかったのです。
だから「チェアワン」が上陸したときは、「そんなに小さくて軽いの!?」という驚きと「いやいや、言ってもそんな細いポールですぐ壊れるんでしょ?」「小さくて軽くて…はいいけど、座り心地は大したことないでしょ?」という疑いも含んだ感情が渦巻いた覚えがあります。
登山から始まり、ウォーターアクティビティ、サイクリングなど、あらゆる外遊びにまつわる製品を自社で企画、開発、販売を行うモンベル。チェアワンの正規輸入代理店でもある同社の広報 長井さんによると「当時の他社モデルと違っていた点は、吊り下げ式というシンプルでユニークな構造により、今までにない<軽量・コンパクト性>と<快適な座り心地>を両立した革新的な商品だったんです」とのこと。
「加えて、フレキシブルなジョイント部分によって凸凹のある地形でも接地性が良く安定する、ショックコードで簡単に確実に組立てられる、などアウトドアシーンでで使用することを前提とした機能を備えていました」
構成パーツは少なく、ショックコードで繋がったポールをフレームとして、座面を取り付けるだけの簡単構造。収納時は折りたたまれたポールが複雑に見えますが、初めての人でも触っているうちになんとなく理解できるくらい、組み立てが容易です。
しかもアウトドア用チェアなのに1kgを切る軽さや、一般的なキャンプチェアと同等以上の座り心地も相まって、あっという間にキャンプのスタンダードギアになったわけです。その人気に追随して、チェアワンのフレーム構造は今日のキャンプ用チェアの定番になり、数多くのフォロー商品が世に生まれています。
そんなチェアワンのストロングポイントを細かくご紹介していきましょう。
■とにかくコンパクトに収納できて軽量
ヘリノックス「チェアワン」の一番の魅力は、何と言ってもその収納性の高さと軽さ。
チェアワン以前のアウトドアシーンでは、【アウトドアチェア=座り心地は良いけど、かさばる&重い】が当たり前でした。そんなアウトドアチェア界に彗星のごとく現れたチェアワン。初めてアウトドアショップで現物に触れた時の感動たるや。本当にすごかった。
収納サイズが幅35×奥行き10×高さ12cmと非常にコンパクトで、2Lペットボトルと変わらないサイズ感。車載はもちろん、徒歩キャンプでのバックパックへの収納も容易。重量は収納袋込みで960gと、とにかく持ち運びに優れています。さすがに登山などに持っていくには他の選択肢も入ってきますが、キャンプであれば間違いなく大活躍。
十数年前にファミリーキャンプを卒業し、もっぱらソロキャンプを楽しむようになったKさんは、
「良いお値段なので数ヶ月迷いましたが、チェアワンは私にとって買って大満足なアイテム。キャンプでは、キャンプ飯や焚き火を妥協なく楽しみたいので、ヴィンテージのガソリン2バーナーやファニチャー類、アイアンの焚き火台を必ず持っていきます。こういうギアはサイズ感があるので、チェアまで大きいと、小型車だと積載に一苦労だったんです。チェアワンは積載の隙間に忍ばせて持ち運ぶことができるので、車載パズルが一気に楽になりましたね。ファミリーキャンプのときにあったらどんなによかったことか…(笑)」
と話します。
軽自動車やコンパクトカーでキャンプを楽しむ人も少なくない今のキャンプシーンにおいて、小さく収納できるキャンプギアはそれだけで正義。
良い道具な反面、価格もそれなりにするので全員分揃えるのは難しいかもしれませんが、1脚でも2脚でも「チェアワン」に切り替えるだけで、どうしても荷物が多くなりがちなファミリーキャンプの積載も助けてくれます。
チェアワンスタイルのチェアがたくさん出回っている今でこそ当たり前に感じますが、その当たり前を作った元祖がこの「チェアワン」なのです。
■これまでにない独自のフレーム構造で瞬時に組み立て可能
パーツは本体ポールと座面のたった2つだけ。ポール内部にショックコードが通されており、すべてのポールと樹脂パーツが連結されています。樹脂パーツを少し振るだけで、ポール同士が大体組み合うので、あとは樹脂パーツに差し込むだけでチェアのフレームが完成。これがとにかく画期的でした。
カシャンカシャンと勝手に組み上がるので、ギミック厨としても非常にアツい。思わず声が出てしまうほど驚いたし、今でもキャンプ未経験者に見せると歓声が上がるほど。
フレームを組んだら、あとは座面裏の4隅のポケットにポールの先端を差し込むだけで完成。慣れれば数分もかからずに組み上げられるので、バックパックでキャンプする際には一番最初に設営して荷物置きにするのがいつものパターン。
なお、座面上側2箇所を先に取り付けたのち、下側2箇所を差し込むのが公式の設営手順。個人的には<下側→上側→下側→上側>の順番だと変に力を入れずにスムーズに設営できる(気がする)。
もちろん、設営の容易さや速さは、袋から出して開くだけの従来のアウトドアチェアに分があります。これからお気に入りのチェアを探すという人は、自分のキャンプスタイルや積載力と天秤にかけて選択するのがいいですね。
そして収納袋は、両端を脚側のポールに引っ掛けてから座面を取り付けることで、簡易ポケットとして使用可能。ガストーチや革手袋などでキャンプ中にごちゃごちゃになりがちなパンツのポケットもスッキリします。
「オートキャンプ場でキャンプだけを楽しむときには、ファニチャー類をしっかり持ち込むので、ポケットの出番はあまりありませんが、旅をしながらキャンプをするときには地味に便利ですね。バックパックひとつにすべてのギアを収めるのでテーブルも小さいですから、地面に直置きしたくない小物類はフレームに吊るした収納袋にしまってます」というのは、連休のたびにキャンプ場をベースにバックパックひとつで各地の名所を巡っているというAさん。
■過酷な環境下でも使用されるDAC社製ポールで耐久性も抜群
最初に少し触れましたが、ヘリノックスは合金加工のリーディングカンパニーであるDAC社のブランドです。「チェアワン」も言わずもがな、DAC社のオリジナル合金製ポール「TH72M」を採用しています。DAC社のポールはとにかく耐久性と軽量性に優れており、海外の登山用テントに必ずといっても採用されているほどのもの。最近は日本でも採用するテントメーカーが増えてきています。
チェアの重量はフレーム部分がそのほとんどですから、「チェアワン」の本体重量が1kg切る秘訣はこの「TH72M」にあるわけです。
「いやいや軽いのはいいけど、そんな細くて軽いポール、すぐ折れちゃうんじゃないの?」なんてことを発売当初に思っていましたが、杞憂でした。
気になる耐久性については、ポール同士の差し込みが甘く、ポールのジョイント部分やポールの樹脂パーツに差し込む部分が割れてしまったなんて話を稀に聞くこともありますが、キャンプでの通常使用でポールが折れたなどの故障はあまり聞きません。
「せっかくのおしゃれチェアなので、キャンプ以外でも自宅で毎日座っています。購入して4〜5年使い込んだら流石に樹脂周りのポールがぱっくり割れちゃいましたが、モンベルに連絡して折れたポールだけ購入し、自分で修理しましたよ。引き続き今でも毎日使っています」(前出Kさん)
Kさんのようにポールなどのパーツが破損してしまった場合でも、モンベルのしっかりとした修理対応で心配ご無用。
「当社ではヘリノックスに限らず、購入いただいたアイテムを長く愛用いただけるようアフターサービスを充実させており、長年の修理で培ってきたノウハウを生かしてサービスを行っています。ヘリノックスについてもシート、ケース、フレームの交換・修理に対応できるようにしています(※)」(モンベル 長井さん)
※アフターサービスの対応はモンベルが輸入販売したものに限ります
なお、注意点としては焚き火周辺で使う場合。脚は頑丈ですが、軽量なため風に吹かれると倒れやすいので風の強い日には気をつけて。
「チェアワンに座って焚き火を楽しんでいるとき、ふと立ち上がって作業をしていると風で倒れて焚き火にダイブしていた」なんて話も聞きます。安全の観点からも、火の回りの使用では十分注意しましょう。
■座り心地も申し分無い
それまでのコンパクトなチェアは、釣り人や登山者が使う3脚型の簡易的なものや、フレームレスな座椅子タイプなど、座り心地よりもコンパクト&軽さ特化型なギアが主流でした。
しかし「チェアワン」はコンパクトで軽量なのに、座り心地もしっかり両立したわけです。
「独自構造のジョイント部分が柔軟に回転する仕組みで、4つの脚が路面状態に併せて柔軟にフィットする設計になっています。ですので、凸凹が気になるフィールドでも非常に安定して座ることができます。座面の高さは、長時間座っていても疲れにくく、かつ収納性を損なわない絶妙なバランスで設計されています。他にもシートの背面にメッシュ素材を採用することで、通気性を確保。より快適にご使用いただけます」(モンベル 長井さん)
背もたれが少し後傾気味なので、個人的には2泊以上のキャンプで調理などもガッツリ楽しみながら過ごす場合は、従来のフォールディングチェアに分があると感じます。ですがそれでも、これまでご紹介した通り、他の要素とのかみ合わせが抜群なので、それほど問題ではありません。ただ、つらい腰痛持ちの人には他の折りたたみチェアの方がおすすめでしょうか。
前述のコンパクト&軽さ特化型のチェアには「チェアワン」よりも収納性や軽量性が高いギアもあります。ですが、そこに座り心地の視点が入って、コンパクトチェアの選択肢が増えた。オートキャンプ以外の徒歩やバイクなどのキャンプスタイルの確立に間違いなく一役買っていると言っても過言ではなく、これがチェアワンの最大の功績ではないでしょうか。
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「強度・質感・デザイン性など、使い心地や耐久性を高める素材やパーツ形状へのこだわりがチェアワンの強み。また砂地や石の多い場所でも使いやすくするためのグランドシートやボールフィート、寒い環境でも快適に過ごすためのシートウォーマーなど、使い方を拡げる充実した専用オプションのラインアップも魅力のひとつです」(モンベル 長井さん)
チェアワンが日本のキャンプシーンの定番アイテムになり、はや十数年。今ではロッキング機能を追加するパーツや、自宅でも安心して使用できるパーツなど、オプションも充実しています。さらに軽量モデルの「チェアゼロ」や地べたスタイルにピッタリの「グラウンドチェア」などバリエーションアイテムが生まれるほど、キャンプフリークに愛されているヘリノックス。
おしゃれなルックスからキャンプだけでなく自宅で使用されるユーザーも多いチェアワンですが、まさに現在のコンパクトで軽量なチェアのスタンダードを作った、エポックメイキング的チェアと言えます。
コンパクトで軽量なだけでなく、座り心地も良い高耐久なチェアを探している方はぜひ一度その原点に触れてみてください。そして、すでにお使いのキャンパーさんはあらためて、その機能性と素晴らしさを愛でてみてください。
>> ヘリノックス
>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR
<取材・文/山口健壱>
山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/537045/
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