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普及の立役者「Luup」が考える電動キックボードのメリットとモビリティの未来像

【「電動キックボード」の現在地③】

改正道交法の施行により、特定小型原動機付自転車(特定小型原付)という新たなカテゴリーが誕生し、注目を集めている電動キックボード。日本の交通社会においては、新しい乗り物ではあるものの、東京などの都市部ではだいぶ見慣れた存在となってきています。その立役者といえるのは、電動キックボードなどのシェアリングサービスを手掛ける「Luup(ループ)」でしょう。

2020年から実証実験として電動キックボードのシェアリング事業を続けてきた同社には、多くのデータやノウハウが蓄積されていて、その一部は今回の改正道交法にも活かされています。電動キックボードはどのような使い方が向いていて、どんなところに注意すべきなのか? 同社の広報担当である松本実沙音さんに聞いてみました。

 

■実証実験を重ねてデータをフィードバック

電動キックボードが人々の話題に上るようになったのは2019年頃から。同年に開催された東京モーターショーでは試乗スペースが設けられ、筆者も会場間の移動の足として利用したことをおぼえています。そして2020年の10月には公道での実証実験が始まり、2021年4月からはシェアリングサービスとしての実証実験。2023年の7月には新しいカテゴリーとしてスタートしたので、こうした乗り物の認可としては異例のスピード感のように思えます。

▲私有地・公有地での実証実験の様子(2019年撮影)

ただ、松本さんは「私たちとしては、2019年から実証実験を開始し、公道でのシェアリングサービス開始まで約2年をかけており、段階を踏んだ実証実験をしてきたと考えています」と話します。

「2019年から私有地や公有地などクローズドスペースで試乗してもらう実証実験を半年で30カ所以上重ね、データを集めました。続いて、経産省の『規制のサンドボックス制度』を活用して、大学のキャンパス内での実証実験。そして、2020年からは新事業特例制度の認定を受け、公道での実証実験を行ってきました」

▲規制のサンドボックス制度での実証実験

東京でのシェアリングサービスが始まった当初は50台だった電動キックボードは、2023年6月末の時点では電動アシスト自転車も含めて1万台を超え、シェアリングサービスの利用に必要なアプリのダウンロード数は100万を超えているとのこと。シェアリングサービスの提供エリアは東京、大阪、横浜、京都などの大都市圏を中心に、神戸や名古屋、宇都宮にも広がっています。

▲公道での実証実験開始当初は原付一種の枠組みだった

公道での実証実験も、2020年10月〜2021年3月までは原付一種の枠組みで行われていて、走行スピードの上限は20km/hでした。

2021年4月からは小型特殊自動車として位置付けられた実証実験が開始し、速度の上限は15km/hに。ヘルメットの着用は任意となり、自転車レーンの走行も可能となるなど、現在のかたちに近いものとなっていきました。

▲2021年4月からは小型特殊自動車の枠組みに

こうした実証実験で得られたデータやユーザーの声は、今回の法改正にも反映されています。

例えば特定小型原付のナンバーが、幅の狭い新しい形状となったのは、原動機付自転車のナンバーが横幅が広く、電動キックボードの車幅と合っていなかったから。走行速度も15km/hと20km/hを試したが、利用者アンケートに「車道を走る場合、クルマとの速度差が大きいと怖い」という声が多数寄せられたことも、最高速度が20km/hに変更された背景としてあるのかもしれません。また小型特殊自動車の枠組みでは二段階右折が禁止とされていましたが、改正法では二段階右折することとなっています。

 

■電動キックボードのメリットと注意点

Luupでは、電動アシスト自転車のシェアリングサービスも展開していて、電動キックボードというかたちにこだわっているわけではないといいますが、小型で電動、1人乗りのモビリティとしては現状唯一の存在です。どういう部分がメリットで、逆にどんな点に注意すべきなのでしょうか。

「立ったままの姿勢で乗れるので、スカートでも乗れますし、スーツ姿で運転してもシワになることがない。服装を問わず乗れるのはメリットだと思います。自転車と比較すると乗り方の習得が簡単なのも利点ですね。初めて乗る場合はクルマの通らない小道で練習することを進めていますが、乗り方を習得するまでにかかった時間は10分程度という声が多いです」(松本さん)

シェアリングサービスの利用状況を見ると、10〜15分程度の利用が多く、距離にすると1〜2kmくらいがボリュームゾーンとのこと。公共交通機関を降りてから目的地までの、文字通り“ラストワンマイル”での利用が多いようです。また、片道だけのワンウェイ利用が多いのはシェアリングサービスならではの特徴といえそうです。

用途としては通勤や通学で使うユーザーが多いそうなのですが、これはエリアによって差があるようで、京都や横浜エリアでは観光での利用者も多いようです。

そして走行時に注意すべきポイントとして、走るべきとされている車道の左側に駐車車両が多いことが挙がりました。

「ユーザーの声でも、違法駐車が多くて危ないというものが多くありました。法改正で生まれた特例特定小型原付であれば、そういった場合に一部の歩道に入れるようになったことはメリットでしょう。もちろん、走れる歩道は限られますし、歩道に入るのはやむを得ない場合のみ、あくまで車道の危険の回避手段として考えています」(松本さん)

 

■マイクロモビリティと電動キックボードの未来はどうなる?

2023年4月、フランス・パリで電動キックボードのシェアリングサービスの存廃を問う住民投票が行われ、有効投票の90%近くが廃止を求めたことで、市長はシェアリングサービスを辞めることを表明。電動キックボードを巡る状況は、決して順風満帆とはいえないように見えますが、Luupでは未来像をどのように描いているのでしょうか。

「パリでの住民投票は有権者の1割未満の投票率だったと聞いています。また、現地でのシェアリングサービスはポートレスの乗り捨てができるタイプだったため、街中のいたるところに車両が放置され、景観を損ねるというのが反対派の声だったようです。日本ではポート以外には返却できないシステムですし、パリでもシェアリングサービスは廃止されても個人所有は認められています。パリでの事例から学ぶことは多いですが、日本とパリでは状況が異なる点もあると考えています」(松本さん)

また、前述のようにLuupでは決して電動キックボードという形にこだわっているわけではありません。 誰もが快適に暮らせる短距離移動インフラを提供することをミッションとしているため、電動アシスト自転車なども提供していますし、ほかのモビリティのかたちも検討しています。

「徒歩で移動できる距離には限界がありますし、高齢化の進む日本では足腰が弱って移動に困る人たちが今後ますます増えると予想されます。そうした人たちも、地域のあちこちにマイクロモビリティがあれば移動することができる。ただ、足腰が弱い人たちには電動キックボードや電動アシスト自転車のような2輪のモビリティは向かないという面もありますので、3輪や4輪、移動時に座ることができるモビリティの導入を目指しています」(松本さん)

電動にこだわるのは、操作が簡単なことに加え、CO2の排出も抑えられるため環境負荷も低く、IOTによる将来的な安全制御の搭載ができるためだとか。まだ、精度の問題で実現できていませんが、GPSを利用して車道を走っているか歩道を走っているかを判断し、自動的に走行モードを切り替える機能なども将来的な安全制御として考えられるとのこと。

そして新たなユニバーサルモビリティが提供できるようになれば、電動キックボードの事業は終了しても構わないと考えているといいます。都市の移動のあり方に一石を投じたLuupが、今後どんな展開をしていくのか、楽しみです。

>> Luup

>> [特集]「電動キックボード」の現在地

<取材・文/増谷茂樹 画像提供/Luup>

増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。

 

 

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