【「電動キックボード」の現在地④】
改正道交法の施行で、2023年7月から公道を走れるようになった特定小型原動機付自転車(特定小型原付)の電動キックボード。6km/h以下では歩道を走ることが許されるなど、新たに定められた法規もありますが、実際に街中を走ったらどうなのか? 都心部を走り回ってみて、気付いたことや注意点などをまとめてみました。
■有楽町駅前→虎ノ門→六本木
ルートは、有楽町駅を出発し代々木公園に向かう約8km。電動キックボードで移動するには、やや長いかなという道のりですが、大きめの幹線道路から細めの路地までさまざまなタイプの道を走ることで、気がつくこともありそうです。また、長時間乗ったときにどのくらい疲れるのかも気になるところ。乗ったのはYADEAの新モデル「KS6 PRO」です。
有楽町の交通会館前を出発。シェアリングサービスなどで電動キックボードに乗ったことがある人はご存知でしょうが、停まった状態でアクセルのレバーを操作しても発進できません。
軽く地面を蹴って、電動キックボードが動き出したところでアクセルを操作すると、電気の力で進みはじめます。間違えてレバーを操作してしまった際に急発進しないための配慮です。
ひとまず幹線道路に出て、法で定められた通りに車道の左側を走ります。近年は自転車のナビライン表示も進んできているので、それに沿って走るとわかりやすい。
日比谷通りに出て霞が関方面に進みますが、この辺りは路駐のクルマも少ないので、走りやすい。クルマの流れは速めですが、電動キックボードも20km/hで走れるので、速度差はそれほど大きくなく、思ったほど怖さは感じませんでした。
せっかくなので歩道も走ってみることに。YADEA「KS6 PRO」は“特例”特定小型原付に適合しているので、「普通自転車等及び歩行者等専用」の標識が設置されている歩道を走行できます。
歩道を走行するにあたっては、走行モードを6km/h以上出ないものに切り替えなければなりません。切り替え操作は一度停止する必要があるので、車道で一度停まってモードを切り替え、電動キックボードを押して歩道に入りました。
歩道を6km/hで走ってみると、車道を走る速度と比べてかなりゆっくり。移動速度としては遅いうえに、歩行者に道を譲りながら走る必要があるので、積極的に走りたいとは思えませんでした。路駐のクルマが多すぎたりして、緊急的に通行させてもらうというくらいに考えておいた方がいいでしょう。
また、歩道に入る際や、逆に歩道から車道に出る際は、きちんと停止して周囲を確認したほうがいい。クルマを運転している人なら、歩道からいきなり車道に出てくる自転車やバイクの危なさは理解できると思いますが、電動キックボードも同様です。
そして電動キックボードのシェアリングサービスを利用したことがある人は、「交差点の二段階右折は禁止」と記憶しているかもしれませんが、今回の法改正で、特定小型原付は片側2車線以上の道路では二段階右折が義務付けられました。交差点で右折する場合、車道の左端を直進し、道を渡ったところで停止。進む方向を変えて当初の右折方向の信号が青になってから進むというやり方です。
▼片側2車線の道路では二段階右折
簡単にいえば自転車と同じ曲がり方なので、難しく考える必要はありません。実際に交差点で右折してみると、危険が少なく、交通の流れを阻害することもありませんでした。シェアリングサービスでも電動キックボードに乗ったことがあるのですが、右折車線でクルマと一緒に曲がるのはかなり怖かったので、今回の法改正は妥当だと感じました。
■自転車レーンでは自転車と譲り合いを
ちなみに特定小型原付は自転車レーンも走ることができます。走ってみると、路面に青く表示があるので、なんとなくクルマが入ってくることも少ない印象で走りやすい。ただ、自転車と一緒に走行するようなシーンでは注意が必要だと感じました。
電動キックボードは20km/hまでしか出ませんが、ロードバイクなどの自転車はもっと速度が出るので電動キックボードが邪魔になってしまうことも。しかし、停止状態からの加速は電動キックボードの方が速かったりもするので、自転車のほうが速いシーンと遅いシーンがあります。その点を理解して、お互いに譲り合って走行する必要がありそうです。
■六本木→西麻布→表参道→代々木公園
六本木の辺りまで走ったところで、路駐しているクルマも増えてきました。車道の左側にクルマが停まっていなければ走りやすいのですが、駐車しているクルマがあると、右側に避ける必要があります。が、これが結構怖い。クルマのドライバーとしても電動キックボードに慣れていないということもあるのでしょうが、ギリギリをかすめていくクルマがあったりすると危なく感じます。
そんなともあり、この辺りからは裏道というか細くてクルマの通りが少ないような道を選んで走るようになりました。
そして、六本木の辺りは急な坂道も多いので、「KS6 PRO」の登坂性能を試してみることに。自転車でも電動アシストがないと登れないような急坂でしたが、スピードは落ちるものの、アクセルを開け続けていれば問題なく登って行くことができました。
登ったら下ってみたくなるので、同じ坂を下ってみましたが、登りよりも下りの方が緊張しました。ホイール径が小さいので、路面の凹凸にハンドルを取られやすいこともあり、ブレーキを掛けながらゆっくり下って行くのが良さそう。「KS6 PRO」はフロントがドラムブレーキ、リアがディスクブレーキになっていて、制動力の高いリアブレーキで速度調整しながら下るのがやりやすかったのですが、フロントブレーキが効くモデルで急ブレーキを掛けるのは危ないかも。
また幹線道路から、細い路地までさまざまなタイプの道を走ってみましたが、やはりクルマの通りが少ない道の方が走りやすい。狭い道で後から来たクルマに抜かれるのは少し緊張しますが、道端に寄ってやり過ごせばいいので、路駐のクルマを避けるときほどの怖さはありませんでした。ただし、電動キックボードはエンジン音などがしないので、歩行者や自転車の人には気付かれにくいため、配慮が必要です。歩道を6km/h以下のモードで走る際は最高速度表示灯が点滅する音がするので、それほど怖くはなかったのですが、20km/hのモードで狭い道を走る際は注意したほうが良さそうです。
今回、一番緊張したのは、表参道のクルマがたくさん駐車してあるエリアを通ったとき。駐車しているクルマのドアが開いたり、クルマに乗り込むために人が出てくることもあり、かなり気を使う必要がありました。さらに同じ左側を走る自転車やバイクも少なくないので、そうした乗り物との共存も課題ですね。
途中、撮影をしながらだったので、時間はかかりましたが、目的地に設定していた代々木公園に無事到着。
走ってみて感じたのは、シェアリングサービスの15km/hしか出ない電動キックボードよりも、20km/h出る方がストレスは少ないということ。最高速度が15km/hだと、クルマだけでなく自転車やバイクとの速度差も大きいので、抜かれるときに怖かった記憶がありますが、20km/hまで出ると速度差がそこまでないので恐怖感は少なくなっています。
■注意点とメリットは?
今回、都心部のさまざまな道を走ってみて注意すべきと感じたのは「クルマからどう視認されているのか」ということです。16歳以上ならば免許を持っていなくても乗れるようになったことで、クルマやバイクで公道を走ったことがない人が乗車する機会も増えるかと思います。乗車の際は、自分の電動キックボードがクルマやほかの人たちからどのように見えているか、これを常に意識しておく必要はあると感じます。
上の写真は、クルマの中から走行する電動キックボードを撮影したものですが、自転車やバイクと比べても決して視認しやすいとはいえません。場合によっては、歩行者と区別がつきにくい場合もあるのに、速度は20km/h出ます。そして、左側に停まっているクルマなどがあったらクルマの前に出てきたりもするので、クルマのドライバーから見れば注意すべき存在です。路駐しているクルマを避ける場合などは、きちんと後方確認をして、可能な限りドライバーとアイコンタクトを取ったほうがいいでしょう。
また、ハンドルにマウントされたウインカーの場合は、上の写真のように乗り手の体で隠れてしまい、後方からは視認しづらくなります。ウインカーを出したからといって、突然車線変更をするとかなり危ない場面もありそうです。
そして夜になると、電動キックボードの被視認性はさらに悪くなります。
前方から見た場合は、ヘッドライトも最高速度表示灯も点いているので、それほど悪くはありません。
しかし後方から見た場合、テールライトなどがかなり下のほうについているので、かなり見づらい。夜間に乗るのであれば、ヘルメットの後方に反射板を付けたり、反射素材のバッグやウェアを身に付けるなど、自衛策を考えたほうが良さそうです。
とはいえ、20km/hまで速度が出せるようになったことは大きなメリットです。移動手段としての有用性は高まっているように感じました。
2〜3kmを超える距離を移動するなら、電動アシストのシェアサイクルを使った方がラクなのではと思っていましたが、実際に走ってみると登り坂でも20km/hを維持できるので、体力的にはかなりラク。ペダルを漕がなくていいので、汗をあまりかかないのもメリットといえそうです。
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文字通り、公道を走り始めたばかりの電動キックボード。乗る側も周囲の人たちも慣れていない状況です。そんななかで交通ルールを無視したような走り方をすれば、危険な事故に繋がりかねません。また、“危険な乗り物”のレッテルを貼られることになってしまうでしょう。これから電動キックボードに乗るのなら、第1回の記事で紹介した法規をきちんと理解し、周囲の交通状況を見ながら危なくないように走ってほしいと願うばかりです。
<取材・文/増谷茂樹 写真/松川忍 協力/長谷川工業>
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/543140/
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