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10年で人気ブランドへ。躍進を続ける「テンマクデザイン」ヒット商品開発の裏側

2018年前後からはじまった第二次キャンプブームは、これまでのキャンプのイメージを大きく変えるものでした。

それまでは、大型連休や夏休みのファミリーレジャーという印象が強いキャンプでしたが、ひとりやふたりで楽しむソロ・デュオキャンプや、友人たちと過ごすグループキャンプ、女性が思い思いの時間を過ごす女子キャンプなど、ここ数年でこれまでのキャンプ像が一新。新たなキャンプスタイルが定着してきました。

この新しいキャンプ文化を支えてきた要素のひとつがキャンプギア。新しいスタイルの出現に合わせて、大小様々なアウトドアブランドから、それまでのキャンプの型を破るような数々のキャンプギア(キャンプ道具)が生み出されて来ました。第二次ブームでの盛り上がりは、ギアの進化無しには語れないでしょう。

▲NB品にはないユニークなラインナップが魅力のテンマクデザイン

そんなキャンプギアブランドのひとつが「tent-Mark DESIGNS(テンマクデザイン)」。アウトドア専門店「ワイルドワン」発のPBで、ユニークで勘所を押さえた商品展開でキャンパー(キャンプ愛好家)を魅了するブランドです。

>> PBを超えた実力と人気の「テンマクデザイン」を生み出したアウトドア専門店「WILD-1」の魅力を探る

ブランドのスタートは2011年と、アウトドアブランドの歴史としては浅いのですが、ワンポールテント「Circus」シリーズや女性キャンパーに人気のテント「PANDA」など、数多くのヒット商品を世に生み出しています。

ではそれらヒット商品は、どのようにして世に生み出されるのか。開発のキーマンである、株式会社カンセキ ワイルドワン事業部の根本さんにお話を聞きました。

▲株式会社カンセキ ワイルドワン事業部の根本さん。テンマクデザイン商品の川上から川下までのすべてを担う

 

■素材はほぼすべて特注品

「企画から販売までは、アイテムによりますが、早くて半年、長くて4年ほどかかることもあります」

根本さんは、これまでバイヤーや店舗運営を始め、マーケティング、EC事業など、ワイルドワン事業部のほぼすべての業務を経験。現在では製品開発を一手に担っています。

テンマクデザインの商品には、比較的購入しやすい価格設定のものも多い印象ですが、商品企画から製品化までの道のりは決して安易なものではありません。

「まず私の方でラフ画を作成し、協力会社に送ります。協力会社は私のラフをもとにCADデータを作成し、詳細な仕様を決定していきます。メジャー片手に顔を突き合わせて、ここは何cm、ここはこういう風に織り込んで縫製して…など、とにかく細かいところまで決めていくんです。そこから詳細をまとめた指示書を工場に送って、サンプル品を作ります」

根本さんのデスクの中には常に方眼紙が準備されており、閃いたアイディアをいつでも書き起こせるようにしているそうです。

当たり前ですが、基本的にはすべての商品はフルオーダーメイド。ファスナーやバックルなどの汎用パーツ以外の部分については、全て細かく指定する必要があります。

「テントであれば生地はすべて特注になりますので、生地を“織る”ところからスタートです。素材や織り方、織り密度、色など、決めなければいけない項目はたくさんありますね。他にも防水や撥水のコーティングといった要素も指定していきます。もし、既存の生機(きばた/染色や仕上げ加工をする前の布生地のこと)を使用する場合でも、染色が必要になるため、使用する生地ひとつとってもすべて特注品ということになります」

▲ロールアップ用のトグルひとつとっても詳細な指示が必要

それ以外にも、取り付けるパーツの選定、パーツひとつひとつの長さや縫い方、縫い位置など、決めることは山ほどあります。

「サンプル品が届いたら、フィールドテストを行い、使用感の確認をしていきます。ここまでで大体半年程度かかりますね。狙い通りの仕上がりになっていれば、そのまま工場に生産を依頼します。修正無しでスムーズに生産が進めば、企画から10ヶ月程度で発売となります。もし、テストで改善点があるようであれば、修正を行い、再びサンプル品を作成、フィールドテスト…といった形です」

特にフィールドテストには力を入れており、商品によっては実際に登山やカヤックなどのアクティビティにも持ち出して使用感を確認することもあります。

▲新商品のフィールドテストも兼ねてアクティビティに出かけることも

企画から商品化までにはかなりの工数と時間がかかることに加えて、工場の生産状況や社会情勢などの影響を受けたり、コラボ商品であればコラボレーターの納得いく仕上がりになるまで調整を続けたりと、開発には様々な要因が絡んできます。

このように、既存品の廉価版といった印象のあるPBとは異なり、しっかりとした商品開発フローを取っているテンマクデザイン。リーズナブルであるための妥協は一切なく、そして開発背景は一般的なアウトドアブランドと同等。だからこそ、思わず唸らせられる使用感の良さや細部に至る高いクオリティを保持した商品の提供を実現しています。

 

■「アウトドアで閃くことは一切ない」

テンマクデザインはこの10年で600アイテム(パーツやオプション品含む)に及ぶアイテムを世に送り出してきました。2023年時点では、およそ350アイテムの商品を取り扱っており、多いときは年に70アイテム、少ないときでも10アイテムは発売しています。では商品開発の肝となるアイデアはどのようにして生みだされているのか。

自身も生粋のアウトドアマンである、根本さん。時間を見つけてはキャンプやシーカヤックでの旅、カヌーイングへ出かけます。20代の頃には明け方前にカヌーを漕ぎ出し、湖上でコーヒーを楽しんでから出勤することもあったと言います。

▲コラボ商品の「ヤリ3×3」。平地でのキャンプはもちろん、ハードな野外活動時にも活躍する品質・機能性の高さが人気

そんな根本さんに「商品アイデアはいつ思いつくのか」と聞いたところ、意外な答えが。

「よく『アイデアってキャンプ中に思いつくんでしょ?』と聞かれますが、私の場合は一切ないですね」

根本さんによれば、商品開発のアイデアには大事なふたつの要素があると言います。ひとつは「引き出しの多さ」、もうひとつは「引き出しを開ける時間」です。

「色々な経験が引き出しのように頭の中に入っていて、それがふいに結びついたときにアイデアのひらめきが起こるというイメージでしょうか。そのためにはとにかく遊ぶこと。自分の好きなアウトドアを目いっぱい遊ぶことで、経験が蓄積されていきます。その経験の中にはたくさんの気づきが詰まっています。それがすべてのアイディアの源泉です」

そして引き出しを増やすコツは、遊ぶときはとにかく遊ぶこと。余計なことは考えず、100%しっかり遊ぶ。仕事のことを考えている間に、体験の中で大事な要素を見落としてしまってしまっては元も子もありません。

「カヌーを漕いでるときなんて、夜に飲むビールの銘柄を何にするかで頭がいっぱいですよ。それくらい真剣に遊んでいないとアイディアは出てきません」と笑って話します。

ではアイディアを閃くのはどういうときなのかというと「クルマでの長距離移動中」。

「もちろんデスクに向かって、しっかりと腰を据えて商品開発を行うこともありますが、一番閃くのは移動中の車内ですね。次第に頭の中の引き出しが開いていって、ふいに結びつくんです」

根本さんにとって、車での長距離移動は思考をする大事な時間。イベント会場への移動やワイルドワン店舗への臨店では、4〜5時間ほど運転する機会が多く、その時は音楽などはかけず無音のまま運転をするといいます。

「これまで10年以上開発に携わってきましたが、私にとって一番閃くのはこの移動時間なんです。しっかりと思考できる時間、機会を自分の中で持てるかどうかが商品開発に必要なように感じます」

 

■とにかく実物を見てもらう、触ってもらう

「いくら素晴らしいものをつくっても、伝えなければ、ないのと同じ」というのは、スティーブ・ジョブズの言葉ですが、アウトドア用品でも変わりません。

今ではアウトドア好きに知らぬ者はいないテンマクデザインですが、ブランドがスタートしてからは、まだ10年ほど。どのようにして、世のアウトドア好き達に知られていったのでしょうか。

「とにかく商品の露出機会を増やすことですね。ワイルドワン店舗でのテントの常設展示はもちろんのこと、この5〜6年の間では全国各地での展示会の開催に特に力を入れてきました」

▲店舗での常設展示は悩めるキャンパー達のテント選びを手助けしている

テンマクデザインを取り扱うワイルドワン各店舗では、人気のテントやタープなどを屋外で常設展示しています。アウトドアショップは数多くありますが、実際に屋外で実物を展示している店舗はそれほど多くはありません。特にテントのような大型ギアは、写真やスペック表示だけではわからないことも多く、実物を見て触れられる機会というのは我々キャンパーにとっては貴重な体験です。

また、アウトドアイベントにも積極的に出展。2023年には北は岩手、南は沖縄と、日本全国を飛び回って多くのキャンパーの目に触れる活動をしてきました。

こうして徐々に認知度を高めていく一方で、ワイルドワンが無い、あるいはアウトドアイベントが無いといった地域から「実物を見たい」という要望も多く寄せられたと言います。そこで、全国各地のキャンプ場や駐車場などを借りて、週末ごとに展示会を開催して回ることに。

「やはり良いものを作っても知られなければ意味がありませんので、地道ですが、見てもらえる、知ってもらえる機会というのはしっかりと作ってきたつもりです」

また、ブランドの認知ついては「店舗での接客」の影響も大きいと話します。

▲2023年度のグッドデザイン賞を受賞した「天幕燗銅壺(てんまくかんどうこ)」。古くからある民具の燗銅壺をアウトドアシーンに合わせてアレンジしたアイテムだ

アウトドア専門店ワイルドワンでは、専門知識を持っているスタッフが数多く在籍しています。どのスタッフも“大のアウトドア好き”。経験に基づく的確なアドバイスを交えた接客も同店の強みのひとつです。

顧客に直接関わる店舗スタッフたちが、他の何よりも優れた広告塔。そんな彼らに一番の“ファン”になってもらうのが最も重要だといいます。

「商品の良さを伝えるためには、まずその商品を知って、使って、好きになってもらうのが一番の近道です。好きなものほど誰かに伝えたくなりますし、熱も入ります。ですので、ブランドを知ってもらうためにも、社内でファンをいかに増やせるか、といったことにも力を入れているんです」

自社運営のキャンプ場を利用して定期的なスタッフ研修を行ったり、普段立ち会うことのない撮影会などのプロモーションに関わる現場に店舗スタッフを呼んだりと、テンマクデザイン商品をスタッフに知ってもらう機会づくりも積極的に行っています。

 

■著名人とのコラボ商品に込められた意味

テンマクデザインといえば、業界の著名人やインフルエンサーとのコラボ商品の開発でも有名です。それらコラボ商品はテンマクデザインの「今のニーズを具現化するもの」「これからのニーズを生み出すもの」という信念を体現するギアばかり。

▲キャンプ場の緑に生える真っ赤なビジュアルで大ヒットした「PANDA」。子供のファーストテントとして購入する人も

「PANDA」は“女性でも気軽にキャンプに出かけられるテント”というコンセプトで、人気女性キャンパーとコラボした商品。鮮やかな赤い生地に簡単設営のワンポール、誰でも購入しやすい価格、という当時の市場にはなかった設定で、女性はもちろん幅広い層に人気を博しました。

そんなコラボ商品も、同ブランドの認知戦略のひとつかと思いきや、真意は違うところにあるといいます。

「確かにブランド認知に繋がった部分もありますが、どちらかといえばそれは結果として。本来は、『今市場になくて、あったらいいな』を実現するための仕組み」であり、「『嬉しい、楽しい、キャンプをやってよかった』と思ってもらえるギアを生み出すことが目的」とのこと。

コラボレーターについても「大事にしているのはその方が『その道具を通じてどんなアウトドア体験をして欲しいと考えているか』や『今よりもさらにアウトドアライフを充実させたいという熱量がどれほどあるか』です。この点はテンマクデザイン、ひいてはワイルドワンの信念に繋がる部分ですが、ここに共感してくださる方の持つ夢を応援したい、一緒になって夢を実現させたい、というのがこの取り組みの真意です」と根本さんは言います。

私は数年前に一度、たまたまコラボを希望している方と根本さんが話をされている場に同席したことがありますが、その際も「どうしてそれを作りたいのか」「その道具でどう感じてほしいのか」「使った人にどうなってほしいのか」といった質問をしていたことが、とても印象的でした。

「なんて、堅苦しく話をさせてもらいましたが、つまるところ、コラボした商品でたくさんの人が喜んでくれればいいと思っています。なんでもかんでもいいわけではないですが、それがテンマクデザインの大事にしていることですから」

*  *  *

「テンマクデザインの開発をする上で、いちばん重要なことはなにか?」

この問いに対して根本さんはこう答えてくれました。

「『安心・親切・便利』。これは株式会社カンセキとしての社是、カンパニーポリシーでもありますが、10年開発に携わってきて、一周回ってここに落ち着きました」

「『安心』して使えなくてはいけない。当たり前ですよね。お客様がより安心して使えるクオリティでなければいけません。屋外で一晩二晩過ごすキャンプであれば何よりも大事です。『親切』でないといけない。どんなに格好良くても性能が優れていても使いにくかったらキャンパーのためにならないですよね。『便利』でなければいけない。買ってよかったと思ってもらえなければ意味がありません。購入してくださった人の体験をよりよくするものを生み出す必要があります。この2年ほどは特にそう感じますね」

安心・親切・便利。以前はそれ以外にも重要だと感じることもあったそうですが、開発を行う中で落とし込んで突き詰め続けた結果、この3つが最後に残ったのだと言います。

「これは取材だからって話ではなくて、本心、本音でそう思うんですよ」と照れくさそうに笑う根本さん。アウトドアの最前線から多くのアウトドアマンたちを支える縁の下の力持ちとも言えるテンマクデザイン。「今のアウトドア体験をよりよいものへ」。そう意識し続けて生み出されたギアだからこそ、PBとは思えない高いクオリティを実現し、人気アウトドアブランドに。現在のテンマクデザインのPBを超えた存在感は、当然の結果なのかもしれません。

>> テンマクデザイン

<取材・文/山口健壱

山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)

 

 

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