キャンプの楽しさの核にはいつの時代も変わらず自然の中での体験がありますが、2017年前後から続くキャンプ人気を支えるのは、大小様々なアウトドアブランドから産み出されるキャンプギアたち。
数多くのキャンプギアの中から、使い勝手や用途はもちろん、デザイン性や希少性も考えつつ、自身のキャンプスタイルに合わせて、自分だけの一品を探すというのも現キャンプブームに拍車をかけています。
そんな昨今のキャンプ熱を牽引するキャンプギアブランドのひとつ「tent-Mark DESIGNS(テンマクデザイン)」。
現在のニーズを具現化する商品はもちろん、既存のキャンプシーンになかった「あったら良いのに」を実現する商品力や、業界の最前線で活躍するインフルエンサーとのコラボ商品の開発、手に取りやすい価格帯に関わらず細部にまで手を抜かない作り込みなど、多くのアウトドア愛好家達に愛されるブランドです。
代表的な商品は、女性キャンパーを中心に人気のテント「PANDA」や、ポールひとつとペグのみで設営可能な「Circus」シリーズ。
前者は、これまでの「男性の趣味」というキャンプのイメージを取り払い、女性でもキャンプを気軽に楽しめる「女子キャンプ」の文化を作った名脇役。後者はワイルドなビジュアルとリーズナブルな価格で、「ソロキャンプ」ブームを後押しした代表的なテントです。私が以前働いていたキャンプ場では、一時期、女性キャンパーのほとんどが「PANDA」、場内のテントのうち3張りに1張りは「Circus」シリーズだったほど。
そんなアウトドアラバー達が支持するテンマクデザインは、アウトドア専門店「ワイルドワン」のプライベートブランド(PB)。PBと聞くと、既存の商品の廉価版でナショナルブランド品(NB)よりも安い商品というイメージがありますが、テンマクデザインの商品の多くはそれらのイメージとは大きく異なります。
そんなテンマクデザイン擁するワイルドワンを運営するのが株式会社カンセキです。栃木県を中心としてホームセンターを展開しています。
一見するとアウトドアにはあまり関係のなさそうなホームセンターの会社が、なぜ国内でも有数のアウトドアショップを経営するに至ったのか。そして、ショップPBであるテンマクデザインが、なぜブランドスタートからわずか10年ほどで人気ブランドたちに肩を並べるようになったのか。
ユニークな商品展開で多くのアウトドア愛好家を唸らせるテンマクデザインの人気の源泉を、同社の歩んできたこれまでの歴史から探っていきます。
■栃木という豊かなフィールドがルーツのアウトドア専門店「ワイルドワン」
1975年に創業したカンセキは、宇都宮にホームセンター1号店「カンセキ宇都宮西店」を開店して以来、地域に密着した経営を続けています。
そして創業から9年後の1984年にはアウトドア専門店「ワイルドワン宇都宮店(現在の宇都宮駅東店)」をオープン。現在では全国に24店舗を展開しており、日本のアウトドアシーンに欠かせない存在となっています。
ホームセンターがなぜアウトドア専門店? と思うかもしれませんが、その源流には同社の企業理念と地元栃木県があります。
「株式会社カンセキの企業理念は “生活の快適創造”です。普段の生活を充実させることはもちろんですが、それ以外にも余暇の過ごし方や趣味など日常生活以外の部分を充実させることが、より快適な生活に繋がると考えています。創業からまもなく50年を迎えますが、この理念は今でも変わっていません」そう話すのは、株式会社カンセキ ワイルドワン事業部の片浦さん。
余暇時間の過ごし方も含めての“生活”を考えたときに、日常生活や仕事以外の部分を充実させるための専門店を経営するという選択は、同社にとってはとても自然な流れでした。
さらに、アウトドア事業には立地の影響も大きく、本拠地となる栃木には、アウトドア愛好家たちを魅了して止まない豊かなフィールドがあります。
「栃木はアウトドア好きにはもってこいの場所なんです。鬼怒川や那珂川などの清流では、釣りはもちろんカヌーやカヤックでの川下りも楽しめます。日光や那須には景観豊かな山々が広がり、夏は登山、冬はスキーやスノーボードを楽しまれる方々に非常に人気のあるエリアとなっています。そしてそれらの中でも、奥日光の存在が大きいですね」
中禅寺湖を中心とした奥日光は、アウトドアの聖地とも言えるエリアです。明治時代には多くの外国人が避暑のために奥日光中禅寺湖を訪れ、夏はフライフィッシングを、冬はクロスカントリースキーを楽しんでいたとされています。そんな歴史的な背景のある栃木という土地でアウトドア専門店をオープンしたことは、自然の流れなのかもしれません。
また、今でこそキャンプや登山用品などさまざまなカテゴリーの商品を取り扱っているワイルドワンですが、そのルーツは「釣り」にあるといいます。
「アメリカにホームセンターの視察に行った際、フィッシングカテゴリーの商品展開に驚いたと聞いています。しっかりとした広さの売り場が確保されており、選択肢も多い。当時の日本の釣具店と言えば、個人店がそれぞれに頑張っている状態で、本格的に幅広く取り扱っているお店がなかった。帰国後に、海外の売り場を参考にして実現したのがワイルドワンなんです」
創業時のキャッチコピーは“FISHING&OUTDOOR LIFE”。釣りが日本のアウトドアシーン初期において中心的なアクティビティであったことが伺えます。
そして現在は“快適なアウトドアライフの提案”を掲げ、釣りや登山、リバーアクティビティ、キャンプなど、さまざまなアウトドアライフスタイルの提案をしています。
「ビジネスとして考えても、1980年当時はアウトドアレジャー用品を専門に取り扱う企業が少なく、成長できるチャンスが大きかったのだと思います。現在、弊社ではホームセンター事業やアウトドア事業以外にも、買い取りと販売を行うリユース専門店や業務用食品スーパーなどの事業を運営しています」
ワイルドワン創業当時は、“アウトドア”という言葉がまだ一般的ではなかった時代。キャンプの必需品であるランタンやバーナーをはじめ、あらゆるアウトドア用品は「東京の小さな個人店に足を運ぶか、個人輸入しか購入手段がなかった」のです。
株式会社カンセキの専門店ビジネスを見てみると、2022年の売上構成比におけるワイルドワン事業が33.2%と、本業であるホームセンター事業にも引けを取らない規模に。今後もワイルドワンには伸びしろがあるとして、同社では現在、“実店舗の新規出店”と“ECサイトの強化”のふたつを軸に事業を推進しています。
2018年には千葉県習志野市に「幕張店」、2019年には福岡県福岡市に「ブランチ博多店」、2021年には群馬県前橋に「前橋みなみモール店」と、次々と各エリアに新規出店。2023年には栃木県宇都宮市のカンセキ本社に隣接した「宇都宮西川田店」と千葉県「市川コルトンプラザ店」を相次いでオープンさせています。
特に、これまで大型アウトドア専門店がなかった九州エリアに初上陸した「ブランチ博多店」は、同エリアのアウトドア愛好家達に注目されました。
九州は、海に山にと美しい景色を堪能しながら温泉も楽しめるキャンプ場が多く、九重連山や筑後川や球磨川など、アウトドア好きを魅了する自然豊かなフィールドが存在します。そんな九州エリアでのアウトドア体験をサポートする「ワイルドワン ブランチ博多店」は、連日たくさんのアウトドア愛好家で賑わっています。
また、未出店の地域については「自社サイトを含めECサイトでの販売を強化」することで、「アウトドア用品を誰でも手軽に購入できる環境の整備を図り」、アウトドア文化の浸透にも寄与しています。
■まことしやかに囁かれるブームの終焉も「総合的な提案力」でカバー
昨今、アウトドア業界においてよく取り沙汰されるのが「ブームの影響」です。
キャンプについて言えば、1980年代にキャンプという文化が日本に輸入され、1990年代にはRVブームに合わせてキャンプ人口が一気に増加。いわゆる第一次キャンプブームと呼ばれる時期になります。
ブーム後の15年ほどは氷河期となりますが、徐々に売上が回復。2018年前後からは、現在に至るまでの第二次キャンプブームが訪れ、キャンプを楽しむ人々が増えました。
これはアウトドア市場、アウトドアアクティビティに限った話ではありませんが、その時々でカテゴリーごとに人気の波があります。キャンプが流行っているときもあれば、釣りが、スキーが、登山が流行っているときもあります。
このようなブームの影響についても片浦さんは「それほど大きく感じることはなかった」と話します。
ワイルドワンは広く総合的にアウトドアライフスタイルの提案を行っているため、市場における各カテゴリーのピークを鑑みつつ、バランスをみて売場展開をすることで、流行の影響を最小限に抑えた運営を行っています。
また、アウトドアシーンにおいて、春からシーズンが始まり、夏がその最盛期。秋に入って落ち着き始め、冬はシーズンオフというのも一般的な認識。この季節性の影響は、経営を考えたときにどうしてもネガティブに捉えがちですが、「季節に応じた最適なカテゴリーの商品群を提案する」ことでむしろビジネスチャンスに繋げています。
時代やブームの移り変わり、季節といった様々な影響をものともしないワイルドワンの魅力的な売場づくり。その原動力は店舗スタッフたちにあります。
「当たり前ではありますが、ワイルドワン事業部のスタッフは社員だけではなく、パートやアルバイトスタッフ、ECサイトスタッフに至るまで全員がアウトドア好きです。中にはびっくりするような経験を積んでいたり、元国体選手だったりと、手前味噌ですが、優秀なスタッフばかりだと自負しています」
ソトアソビの提案力の幅広さや強さはワイルドワンの大きな強み。それが発揮できるのは、アウトドア好きはもちろんのこと、好きな領域が異なるスタッフたちがそれぞれの店舗にいるからこそです。実際に、各カテゴリーに強いスタッフが主導で売場づくりをするなど、彼らの経験が店舗運営に大きく活かされています。
また、株式会社カンセキの運営するキャンプ場「ワイルドフィールズおじか」にて各店舗スタッフを集めてのキャンプ研修を定期的に実施するなど、会社としてのスタッフ教育も行われています。
他にも、休日にスタッフ同士で登山や自転車ツーリング、キャンプなどを楽しむなど、日常的にアウトドア経験を積んだスタッフたちの層の厚さは他の何よりも強い説得力を生み出しています。
ビギナーだけでなく、長くアウトドアを楽しんでいる愛好家に至るまで、ワイルドワンが様々な層に信頼を置かれる理由はここにもありそうです。
■小売店だからこそ持てる商品開発の強み
そんなワイルドワンの存在はPBである「テンマクデザイン」を支える大事な屋台骨であり、「ワイルドワンという小売店があるがゆえに、市場にない唯一無二の商品を開発できる」と言います。
一般に、PB商品を販売するにあたって、既存のラインナップの売上を下げてしまっては意味がありません。小売店としては、同じカテゴリーの中に様々な選択肢があり、それらを比較・検討できることが望ましい状態と言えます。
テンマクデザインのユニークな商品展開は、この選択肢を広げる役割の一端を担っていますが、そうした商品開発が行えるのもワイルドワンとしてNB商品を取り扱っているからこそ。
アウトドアの各カテゴリーにおいて、網羅的に商品を取り扱うことで、まだ市場にない商品がどんなものかが見えてくる。そこに何が足りないのか、何を求められているのか、何を提供できるのか、そういった視点を得られるのは小売店を持つテンマクデザインの強みです。
また、顧客の選択肢を広げるテンマクデザインがあるからこそ「NB商品がより魅力的に映る売場になる」のと同時に、「NB商品との比較が生まれ、テンマク商品の良さを伝えやすくもなる」と片浦さんは話します。
どれだけ優れた商品だろうと、ただお店に陳列されているだけでは多くのアイテムの中に埋もれてしまいます。テンマクデザインにとってワイルドワンと店舗スタッフは、ブランド認知促進の上でも非常に大きな存在なのです。
また、他社では作りにくいようなギアを開発できるという点も、専門知識を持った店舗スタッフがいる自社小売店があるからこそ。
「例えば『焚火タープTC』という商品があります。TCという比較的火に強い素材を採用したことで、正しい使用方法であれば、タープ下でも焚き火を楽しめる商品なのですが、これは誤った使用方法では火事の危険性も少なからずあります。そんなアイテムであっても、商品に詳しいスタッフたちが店舗にいてお客様と接することができるからこそ、安心してお客様にお届けできるんです」
タープは、日除けや雨対策として屋根を作り出すギアですが、その多くは化学繊維で作られており火に非常に弱い。タープ下での焚き火は火災の原因になりかねないため、ご法度とされています。「焚火タープTC」はそんなタープに難燃性を付与したアイテムで、雨の日でも焚き火を楽しみたい!というユーザーのニーズに応える商品として人気になりました。
もちろん、使用方法を誤れば危険であることは変わりがないため、しっかりとした接客、商品説明が必要な商品でもあります。こういった商品カテゴリーはメーカー、ブランドとしては大きな事故に繋がるリスクから、販売したくともなかなか難しい。
一方、テンマクデザインでは、ワイルドワンスタッフの接客により、購入前にレクチャーや注意喚起が可能なため、NBでは販売しづらいこういったアイテム類を安心して開発、販売できるというわけです。
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アウトドアが一般的ではなかった時代から、ライフスタイルの提案を目指して経営を続けてきたワイルドワン。そんな専門店の底流には“生活の快適創造”というカンセキとしての企業理念が強く息づいていました。
ユニークかつ勘所を押さえた商品開発に定評のあるテンマクデザイン。10年足らずで大手ブランドに比肩するまでに至ったその理由には、これまでカンセキが積み重ねてきた「アウトドアライフの提案」のための歩みがありました。
>> WILD-1
<取材・文/山口健壱>
山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)
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