【The ORIGIN of the CAMP GEAR】
今さらだけど、むしろ今だからこそキャンプの王道、“定番アイテム”を紹介する、連載企画。
今回ご紹介するのは、1台あれば何かと便利なシングルガスバーナーのド定番、SOTOの「レギュレーターストーブ ST-310」(6930円)です。カセットガス式にも関わらず、マイクロレギュレーターにより安定した火力を実現。収納時はスリムで収まりが良いため、持ち運びやすい。2008年に発売されて以来、キャンプビギナーからベテランキャンパーまで、広く愛され続けています。
そんな「ST-310」を世に送り出したSOTOは、1978年創業の老舗ガス器具メーカー『新富士バーナー』のアウトドアブランド。ブランドをスタートした1992年から、ガスバーナーを中心に人気キャンプギアを生み出しています。
今回は、「ST-310」の人気の理由をその開発の裏側も交えてご紹介していきます。
【理由1】登山シーンを狙った安定の使用感と収納性の高さ
キャンプで不動の人気を誇る「ST-310」。実はそのスタートは「登山シーン」への挑戦にあったと言います。
SOTO広報の坂之上さんは「当社は元々、工業用、園芸用のガス器具を製造してきましたが、1992年にSOTOをスタートし、本格的にアウトドアカテゴリーへ参入しました。当時は海外製の器具も多かったため、SOTOでは日本のインフラや使用シーンに合ったカセットボンベを燃料としながら、収納時にはコンパクトになり持ち運びもしやすい、日本のオートキャンプシーンに合った製品づくりを行いました」と話します。
その後、次のステップとして、登山シーンでもしっかりと使っていける製品づくりの検討を始めます。
登山では、夏でも標高差による気温低下が予想されるため、その対策として、ガス燃料が持つスペックを最大限に引き出す必要がありました。そこで着手したのが「レギュレーターストーブ ST-310」の開発だったのです。
「登山という極限下では『軽量・コンパクト』はもちろんのこと、『壊れにくさ』『安定性』『操作性』といった要素がよりシビアに求められることになります。命に直結するギアですから、当然ですよね」と話すのはSOTO開発部の西島さん。西島さんは、「ST-310」の足回りや遮熱板を実際に設計したキーマンのひとり。
西島さんによれば、「不整地でも安心して使えるよう、4本足に4本五徳で設計しました。調理の最中にひっくり返ってしまうのでは、山中では致命的にもなりえます。慎重に設計を行った箇所ですね」と、安定感をかなり重要視して開発を進めたと言います。
また、「ST-310」のもうひとつの特徴である収納性の高さ。一般的な登山用シングルバーナーと比べると、非常にコンパクト!とまでは言えないものの、足と遮熱板をすべてたたむと、パーツの出っ張りなども少なくスリムに。
この収納性については、“工業製品”から着想を得ているといいます。
「工業製品の中には、例えばトイレのスライド式の鍵のように、昔から採用され続けているものが多いんですね。これは、ズバリ壊れにくいからこそ使い続けられているわけで、その構造はアウトドア製品のギミックを考える上で参考になります」(西島さん)
「ST-310」に限らず、SOTOのギアには工業製品的な格好良さや使用感を感じることも多いのですが、まさにそこから得られるアイディアが、ギアの源泉になっているからだったんですね。
個人的にこの感覚が200%味わえるのが、「ミニマルホットサンドメーカー ST-952」です。ゴツいビジュアルもハンドルの仕様も全部、「あぁぁ!まごうことなきSOTO!!ハイパーインダストリアル!!!(混乱)」と思わずにはいられない。
【理由2】カセットガス式にも関わらず、低温環境下でも安定した火力を発揮
「レギュレーターストーブ ST-310」の最大の特徴は、その名のとおり“マイクロレギュレーター”にあります。
寒い時期や登山時の低気温下では火力が不安定になる“ドロップダウン”という現象が起こりやすくなります。これはバーナーを使用する中でガスが冷え、気化しにくくなり、ガス圧が低下。その結果、火力が低下してしまうというものです。
マイクロレギュレーターはこのドロップダウンの影響を最小限にするため、火力が安定しやすく、1年を通して使っていけます。
ドロップダウン対策としては、冬用のパワーガス缶が一般的ですが、それでは夏場などの高気温下では不安定に。そこで、ギアの構造からドロップダウンへアプローチしたのがこのマイクロレギュレーターなんです。
「一般的なガスバーナーは直結したガスの圧力をそのまま利用しますので、ガスが冷えるにつれ圧力が落ち、次第に火力が落ちていきます。一方でマイクロレギュレーターは、ガスの圧力をレギュレーターで減圧し燃焼させる構造のため、寒い時期にも安定した火力をキープしやすくします」(西島さん)
例えば、満タンのガス缶の圧力を100、マイクロレギュレーターによってバーナーへ供給される圧力を50に制限したとします。そうすると、常に50のガス圧でガスが出ていくため、満タンでも残量が7割でも、同じ量のガスが供給され続けます。これは、制限した50を下回るまで続きます。これがマイクロレギュレーターが安定した火力を生み出せる原理です。
ドロップダウンに強い! 寒い時期でも使える! というのはよく聞くところですが、その仕組みはこうなってるんですね。
ちなみにレギュレーターは、プロパンガスを使用している家庭には必ず取り付けられている、昔からある器具なんだとか。
その仕組みをアウトドア用バーナーに搭載させられないかと、SOTOが独自に開発したのが、このマイクロレギュレーターということなんです。
レギュレーターをマイクロ(小型)にしたので、マイクロレギュレーター。なるほど。マイクロってなんだよって思っていた人は私だけじゃないはず。
【理由3】使い勝手を向上させる豊富なオプション品
オプション品が充実している、というのも「ST-310」の人気の理由でしょう。
五徳の滑り防止と伝導熱をカバーしてくれる「アシストグリップ」(660円)といった使用感を向上させるものから、「ST-310」にミニテーブルを連結できる「ミニマルワークトップ」(6490円)のような拡張系のギアまでさまざま。
ガレージブランドからも、この「ST-310」をカスタマイズできるアイテムが数多く販売されているなど、自分だけのギアにカスタムする楽しさもあります。
なぜこれだけのオプションがあるのか。これはSOTOの持つ社風にあると、坂之上さんはいいます。
「修理や不具合などの対応も含めて、“新商品が発売されてから1年は開発者自らがお客様対応をする”という仕組みがあります。これはSOTOに限らず、新富士バーナーに共通する制度で、自分たちが作ったものにしっかりと責任を持つ弊社の社風だからこその仕組みです」
開発者自ら対応することについて、西島さんは「自分の設計したギアの使い勝手や改善点を直接お客様からお聞きすることができるので、オプション品の開発をはじめ、商品設計や改善によりダイレクトに生かせていると感じています」と言います。
実際に、「点火アシストレバー」(660円)や「アシストグリップ」などは、ユーザーからの声を拾い上げて開発した商品だとか。
どうりで痒いところに手が届くラインナップが並んでいるわけだ。納得。
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カセットガス式シングルガスバーナーの金字塔、「レギュレーターストーブ ST-310」。他にも人気の理由として、カセットガス式のため、燃料が入手もしやすくOD缶に比べて安価に購入できるという手軽さということもあります。
SOTOの登山用バーナーブランドへの第一歩として開発された「ST-310」ですが、その道は険しかったといいます。このカテゴリーへ参入するためには、登山用バーナーブランドとしての歴史も実績もなく、商品への信頼性を感じてもらう機会も少なかった。
それでも自分たちの技術力やノウハウを信じて、マイクロレギュレーターという武器を開発。元々大型のレギュレーターをアウトドアギアサイズに落とし込むため、その開発は困難を極めたと言います。
今でこそ、日本のキャンプシーンの王道とも言えるまでになった「レギュレーターストーブ ST-310」ですが、その人気の裏側には老舗ガス器具メーカーの新たな挑戦がありました。
個人的にはユーザーへしっかり向き合い、商品開発、製品のアップデートを行うその姿勢が好きです。
できればアシストグリップが標準装備になったりしないかなぁ、なんて思ったり…。
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>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR
<取材・文/山口健壱>
山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/581452/
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- Author:&GP