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【開発者インタビュー】目の不自由な人の生理をサポートするデバイス「Flowsense」、“自ら判断できる”ことで心の支えに

近年ようやく、少しずつではありながらもオープンに話せるようになった生理の話題。月経期間中はもちろんその前後にも多くの人がトラブルや悩みを抱えているが、視覚障害を含め何らかの障害がある人にとっては一層大きな困難に直面することも多い。

先日、Femtech Fes! 2024に出展したイギリスのスタートアップが開発した製品「Flowsense」は、pH値を測定して経血と膣分泌物(おりもの)を判別し、視覚障害がある人の月経をサポートするというデバイスである。Flowsenseの発案者・創業者はいったいどんな人物なのか。プロダクトデザイナー兼CEOのMuna Daud氏に話を聞いた。

コスメグッズにも見えるFlowsenseのデバイス本体。コンパクトサイズでポーチにも入る。Muna Daudさん公式サイトより引用

視覚障害がある人の月経を振動と音声でサポート

――まず、Flowsenseという製品について教えてください。

Daud:Flowsenseは専用アプリとポータブルデバイスから成ります。ポーチに入るくらい小さいので、持ち運びは簡単です。デバイスは、使い捨ての試験紙を含む上部パーツと、下部のクリーニングキット兼充電ステーションの2つのパーツで構成されています。

Flowsenseのデバイス上部パーツ。本体は上下2つのパーツに分かれる

ユーザーはまず、上部パーツを手に取って、下着に付けた生理用ナプキンの上に試験紙を直接当てます。それから上部パーツを下部パーツに重ねてボタンを押すと、下部パーツのセンサーが反応して経血なのか膣分泌物なのかが即座に結果を教えてくれる仕組みです。デバイスが3回振動すれば経血、1回なら経血ではありません。

ナプキンの表面に上部パーツの試験紙を当ててpH値をチェック

――バイブレーションで結果が分かるんですね。

Daud:バイブレーション通知はプライバシーを守るための機能です。結果は即座にスマホの方にも送られるので、より明確な情報を確認したい人は音声で結果を聞くこともできます。他の人に聞かれたくない人はバイブレーション、聞かれても気にしない人は音声を選択することが可能です。

結果が経血であれば、生理周期の開始を記録します。次の生理周期の3~4日前になるとリマインドが届き、再度Flowsenseでテストするように促されます。これまでは、生理の何日か前からナプキンを付けて備える必要がありましたが、これは感染症のリスクが上がります。

――ナプキンを無駄に消費してしまって、コスト的にも衛生的にも問題ですよね。

Daud:このデバイスがあれば、結果を自分で判断できるという自立性も確保できます。視覚障害があるユーザーは経血かそうでないか自分では判別できないので、家族の誰かに分泌物を見せて、「ねえ私、生理始まったかな?」と聞かなくてはならなかったんです。Flowsenseでは、ユーザーの精神的な安定を第一に考えました。自主性を実現し、自分で判断を下せるようエンパワーするものです。

Flowsenseは、ホルモンや周期の変化など自分の体調について詳しく知りたければ、ボッドキャストのように音声で確認できるオーディオデバイスでもあります。ですが、あくまで主眼は「経血なのか膣分泌物なのか、次の生理周期はいつか、ユーザー本人が判断できること」に置いています。

専用アプリとセットとなっているFlowsense。Muna Daudさん公式サイトより引用

修士論文の一環から始まったプロジェクト

――視覚情報がないと経血と分泌物の区別が難しいことに今初めて気づきました…どんなきっかけでFlowsenseの着想を得たんですか?

Femtech Fes! 2024会場でインタビューに応えてくれたDaudさん

Daud:Flowsenseは、修士論文のテーマの一部として取り組んだものです。学部ではバイオメディカル・エンジニアリング専攻でしたが、修士ではイノベーションデザイン・エンジニアリングを学びました。そこで、女性のヘルスケア分野でアクセシビリティ・デザインに注力したかったんです。

この製品の着想自体は、たくさんの女性たちとの交流から生まれたものです。リプロダクティブ・ヘルスなどにおいてどんな問題に直面するのかといった、いろいろな質問をしました。それで分かったのですが、まず妊娠検査薬はどれも視覚情報で結果を伝えるので、視覚障害のある人は結果を知りようがない。それから、月経周期管理デバイスやアプリはどれも視覚情報だよりなので、視覚障害のある人はアクセスできないんです。

――確かに妊娠検査薬は目が見えることが前提になっています!

Daud:それに、月経中の衛生管理はとてもプライベートなことです。生理を恥とするスティグマの悪影響とアクセシビリティの欠如について、フェムテックの分野でこれまで誰も取り組んでこなかったんだと思います。この製品は世界で初めてその問題に取り組み、ソリューションをもたらすものなんです。

今後の展開とビジネスとしての持続性

――素晴らしい製品だと思いますが、「視覚障害があり、月経がある人」が対象だとユーザー層が限られないでしょうか。ビジネスとして成功できそうですか?

Daud:そうですね、対象範囲が小さいという指摘には同意します。それでもやはり、ユーザーベースはかなりの規模になると思います。世界的に見て、視覚障害がある人の60%は女性です。彼女たちのためのデバイスは文字通りゼロで、競合が存在しないことがFlowsenseの強みですから。商業的な拡張性につながる大きなリードがあると思っています。

現時点では視覚障害がある人の差し迫ったニーズに応えることを優先していますが、将来的にはFlowsenseは視覚障害がない人も使えるようになると思います。この試験紙は膣分泌物の状態を診断するものなので、pH数値を確認できます。Flowsense自体は実際の医療上の助言はできませんが、たとえば数値を確認して感染症の疑いがあれば病院に行くというアクションにつながります。

衛生管理や月経周期のトラッキング、月経中の健康状態などいろいろなことに利用できる、総合的なアプローチをとっています。すべての女性が利用できるという点で、Flowsenseはとても革新的な製品なんです。あらゆる側面でインクルーシブなデザインを目指しました。視覚障害がない人向けなど、将来的に他の製品が登場するための扉を開けたことは良かったと考えています。

デバイスが収まるケースには、試験紙の替えも収納できる

――将来的には日本でも購入できるようになるでしょうか。

Daud:現在Flowsenseはイギリスで特許を出願中で、アメリカでも申請する予定なので、投資家を探しているところです。今はプロダクトデザイナー兼CEOの私ひとりしかいないので、もっと多くの人と協同してローンチする場所を検討したいですね。資金やリソース、一緒に働ける人々などが日本で見つかるのであれば、もちろん日本でも喜んで展開したいと思います。

でも、重要なのは「私がどこでローンチしたいか」ではなく、この製品にビジョンを見出してくれる人々の存在だと思います。日本でも他の国でも、視覚障害がある人の抱える困難は同じです。Flowsenseはその困難に取り組む唯一の製品ですから、あらゆる場所で必要とされるでしょう。東京はイノベーションをリードする都市ですから、ここでローンチできたら素敵だと思います。

今のところの予定では、今年の末までには特許を取って、2025年末までには小規模でも製品としてローンチするつもりです。製品のテストや改良も引き続き行って、ユーザーからのフィードバックを開発に生かしたいです。

Muna Daud氏プロフィール:デザイナー、エンジニア、医療研究者。2018年、交換留学生としてロンドンのクイーンメアリー大学に留学。2020年、ジョージ・ワシントン大学卒業、生体医工学および電気工学の学士号を取得。インペリアル・カレッジ・ロンドンおよびロイヤル・カレッジ・オブ・アートにてイノベーションデザイン・エンジニアリング (IDE) の修士/修士号を取得。米国、英国、サウジアラビア、エジプトで生活した経験を持つ。趣味は絵画、陶芸、新たなスキルの取得など。

(取材/文・Techable編集部)

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