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焚き火台の元祖ってホント!? 一生モノとの呼び声高いスノーピーク「焚火台」人気の理由

【The ORIGIN of the CAMP GEAR】

「持ち運び可能な国内初の焚き火台がスノーピークの『焚火台』です。それまでは直火での焚き火がほとんどで、第一次キャンプブームではかなり問題になったんですよ」

そう話すのは、初期から日本のキャンプシーンを後押しし続けるスノーピークの企画開発本部長を務める林さん。

国内はもとより世界にも知られるものづくりの町、新潟県燕三条で1958年に産声を上げたスノーピーク。当初は登山用品を中心とした商品開発を行っていましたが、1980年代からはオートキャンプシーンでも活躍するギアの開発をスタート。使い勝手はもちろん、耐久性や品質の良さで高い評価を受ける、超人気ブランドになりました。

そんなスノーピークの代表的なアイテムが1996年に発売された「焚火台」。今でこそ、さまざまなブランドから数多くの“焚き火台”が発売されていますが、実はスノーピークの「焚火台」が焚き火台の元祖だって知っていましたか? この元祖焚き火台が誕生したきっかけは、当時の焚き火事情が関係していました。そして発売から30年近く経った今でも売れ続けている理由には、焚き火台としての使い勝手を考え尽くした完成度の高さにありました。

■元祖焚き火台って本当?

さっそく人気の理由を…と思ったのですが、それよりも先に“焚き火台の元祖”これが気になって仕方がない。“「焚火台」が出るまでって焚き火ってどうしてたの?” “いやいや、そもそも元祖って本当?”と思った人も少なくないのでは。

▲線材フレームとステンレスパネルが生み出す逆四角錐のシルエットは美しさすら感じる

林さんは当時を思い返して、「1990年代までの焚き火は、もともと調理のために行うのが主目的。そのため、野営場に常設されているレンガなどで組まれたファイヤープレイスを使うか、その辺の石を使ってカマドを組んで直火で行うのが一般的でした」と話してくれました。

焚き火台にあたるものはあるにはあったけど、それも例えばドラム缶を縦に半分に切って足を取り付けたものや、海外であれば金属製で非常に重くガッシリしたもので、どちらも常設されたもの。少なくとも今の焚き火台のように、気軽に持ち運べるようなものではなかったと言います。

そして1990年代に入り第一次キャンプブームが始まると、直火による問題が起こります。今でも時折SNSで話題に上がる、例の問題です。

「オートキャンプブームで、芝生の上で楽しむキャンプが人気になったのですが、そこで問題なったのが、直火による環境への悪影響でした。芝生や地面へのダメージが問題になり始めたのです」

それまでキャンプ場といえば土や砂利などのフィールドが多かった中、オートキャンプブーム下で新設されたキャンプ場では芝生サイトが人気に。直火を禁止とするキャンプ場が増えていく中で、ルールを守らず直火を楽しむキャンパーも少なくなかったといいます。

ブームが盛り上がるにつれて、状況は悪くなっていく。この問題の解決の一手として開発されたのが「焚火台」というわけなんです。

▲オプション品の「焚火台ベースプレート」と「ベースプレートスタンド」を使えば、地面への放射熱を大幅に軽減できる

しかし、発売当初は“焚き火は直火だからこそ” “なんでそんな台を使わないといけないんだ”という反発の声も少なくなかったとか。それでも「諦めずに販売を続けていくなかで徐々にユーザーが増えていき、気づいたときには“焚き火は焚き火台で楽しむものだよね”というのが常識になっていました」と林さん。

「焚火台」の発売後、追従するように他ブランドからも次々と焚き火台が発売され、焚き火台を使用するユーザーが増えていきました。

今でこそ焚き火台を使うのは当たり前。その当たり前の源流にあったのが「焚火台」なんですね。これは確かに元祖だわ。

 

【人気の理由①】ただ開いて薪を焚(く)べるだけでいい手軽さ

このようにエポックメイキングとも言えるスノーピークの「焚火台」ですが、そうは言っても焚き火台戦国時代となっている現在のキャンプシーンでは、そのような歴史的背景だけでは生き延びられません。良い焚き火台はたくさんありますからね。

群雄割拠の中においてもいまだ焚き火台の定番ギアたらしめるその理由のひとつが、<誰でも扱える使い勝手の良さ>。

▲設営/収納ギミックは超簡単。開くだけで即使用可能

薄く平たい収納状態から開くだけですぐに使用できるシンプルさは、焚き火に初めて挑戦する人でも迷うことはありません。

▲適当に薪をくべても隙間が生まれやすい形状のため、誰でも上手に焚き火を楽しめる

また、逆四角錐の形状により、薪同士に隙間が生まれやすく、炎が上に登りやすい構造で、ただ薪を焚べるだけで勝手に燃えてくれます。さらにパーツ間の程よい隙間により、新鮮な空気を引き込みやすいというのもポイントです。

 

【人気の理由②】他の追随を許さない一生モノの耐久性

簡単に使えてしかも燃えやすい、そんな「焚火台」ですが、唯一の弱点はその重さ。最小サイズの「焚火台 S」(1万1880円)で1.8kg、一番人気の「焚火台 L」(2万1120円)だと5.5kgと、数多ある焚き火台界隈でも重量級。ただ、これにもしっかりとした理由があります。

「火を扱うギアですから、熱変形をどうクリアするかが非常に重要でした。数回の使用で変形してしまうのでは、長くご愛用頂けません。目指すのは一生使える焚き火台。だからこそ、とにかく熱変形に強い構造、素材を模索しました」(林さん)

▲これ以上にない安定感で太くて重い薪を入れても安定

使用する板材の厚みを増せば熱変形に強い仕上がりになるけれど、そうなると今度は持ち運べない重量に。熱変形を最小限に収めつつ、持ち運びもできる。その絶妙なバランスを目指し、試行錯誤の末にたどり着いたのが、1.5mm厚のステンレスパネルだといいます。

▲熱変形を最小限に抑える頑丈なステンレスパネル。修理依頼は数年に1回もないとか

「1.5mm厚を少しでも下回ると、変形が顕著に現れてしまいますが、1.5mm厚だと、キャンプファイヤーのような状況での耐熱実験にも耐えられるんです。厚みを変えては実験を行い、長い試行錯誤の甲斐もあり、修理のご依頼もほぼないほどの頑強さにできました」(林さん)

ネガティブな要素でもある重量ですが、過剰とも言えるほど頑丈であることを考えれば、十分納得です。

それにしても、キャンプファイヤーみたいな実験までやったって…。

 

【人気の理由③】凸凹した地面でも安心して使用できる安定感の高さ

ここまででも十分、耐久性への並々ならぬ情熱を感じたかと思いますが、一方でまたひとつ疑問が。

使ってみるとわかりますが、少し“ガタつき"があるんです。“そこまで自信満々なのになぜガタつくの? もっとガッシリ作らなくていいの?”なんて思ってしまうんですが、これにも狙いが。

「少しガタつくような仕上がりになっているのは、安定性を高めるためなんです。安全に焚き火を楽しむためには、焚き火台が安定してくれないと困ります。そこで『焚火台』のジョイント部分にはあえて余裕を作って、地面の凸凹を吸収できるようにしています」(林さん)

どれだけきれいに整備されたフィールドでも、大なり小なり凸凹はあるもの。それに合わせてフレームが動いてくれるので、地面の状況にかかわらず安心して使用できるわけです。

また、仮に熱変形してしまった場合でも、収納時に干渉してしまわないようにする構造でもあるのだといいます。これも長く使い続けてもらうための大事なポイントだったんですね。

▲溶接方法を含め、製造工程は毎年改良を続けている。これも自社工場や国内の協力工場での製造だからこその強み

「溶接方法を見ると、大体いつ頃に製造されたものかが、なんとなくわかります。キャンプ場でのレンタル品の中に、かなり前の製造モデルが紛れ込んでいたりするとびっくりしますね」

一般キャンパーの中で溶接で製造年代の違いが分かる人、いたりします?

*  *  *

最後に、“なぜこれほどまでに耐久性を重視しているのか”と尋ねると林さんは穏やかな声でこう話してくれました。

「キャンプギアは機能的な道具であるのと同時に、情緒の蓄積を担うものでもあると感じています。たかが道具、されど道具。キャンプ道具は単なる道具ではなく、楽しかった体験や大事な思い出を次の世代に繋げる架け橋になる。だからこそ、一生モノのキャンプギアを作っていくんです」

▲煤や汚れ、焼色とともに刻まれるキャンプの思い出。これがあるからキャンプはやめられないぜ

キャンプギアが繋いでいく、世代を超えた思い出。私がキャンプ場スタッフをしていたときに、まさにそんなエピソードを話してくれたキャンパーさんがいました。一生モノのギアだからこそ生まれるロマンに、アツさを感じざるを得ない。

世代を超えて使っていける。それって実はコスパも最強なのかもしれませんね。

>> スノーピーク

>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR

<取材・文/山口健壱

山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)

 

 

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