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インドで関心高まる食の安全性。FreshToHome、新鮮食材の流通で食品eコマースを牽引

国連人口基金(UNFPA)は昨年、インドの人口は14億2860万人に達し、中国を抜いて世界一になったと発表した。さらに、IMFによると2024年のインドのGDP成長率は6.5%と予測されている。

このように、国内市場と購買力が右肩上がりに成長しているインドにおいて、近年、食品の安全性への関心が高まっているという。

2020年5月には、インド政府が殺菌剤、殺虫剤、除草剤を含む27の農薬の国内使用を禁止すると発表。農薬や化学肥料を使った農業への問題意識が高まる一方で、消費者の手元に届くまで時間のかかる肉・魚の多くは、抗生物質や防腐剤などの化学薬品が使用されているという。

そこで誕生したのが、化学薬品不使用の新鮮な肉や魚を販売するeコマース・プラットフォーム。複数の企業が立ち上がる中、特に勢いがあるのが2015年に設立されたFreshToHomeだ。Amazon Smbhav Venture Fund主導のシリーズDラウンドにおいて1億400万ドルを調達した注目のインド企業である。

新鮮な魚や肉が手に入りにくい

Image Credits:FreshToHome

Invest Indiaによると、インドの食肉市場は2024年には49億ドルの価値を持つと予測されている。さらに魚生産量は世界第3位で、2021~2022年度に77億6000万ドル相当の136MMTという最高輸出を記録した(参考)。

食肉・水産物の流通において重要なのは、言うまでもなく鮮度である。しかしながら、インドでスーパーなどの組織的な流通網を通して販売されているのは、食肉・水産物全体のたった1%程度。それ以外のほとんどが地元の路面店や市場で販売されていると、FreshToHomeの共同創設者兼CEOであるShan Kadavil氏は2023年5月公開のYouTube動画で語る。

このような伝統的な流通方法は、品質・保存管理が統一されておらず、複数の仲介業者を介するため、店頭に製品が並ぶまでに時には3日以上かかるという。そのため防腐剤などの化学薬品が大量に使用され、特に都心において新鮮な魚や肉を購入することが難しいという課題がある。

Image Credits:FreshToHome Google Play

そこで誕生したのが、地元で取れた食材を生産者から仲介業者を介さず消費者に直接届ける、FareshToHomeのeコマース・プラットフォームである。

2022年3月公開のYouTube動画でKadavil氏は、現在FreshToHomeで月々約200万件もの注文があると発言しており、インドでの活用の広がりがうかがえる。

新鮮な食材を産地から自宅に直接届ける

FareshToHomeのeコマース・プラットフォームの使い方は簡単。専用のアプリ、もしくはECサイトから現在地を入力すると、その場所から24~36時間以内に配送可能な水産物、鶏肉、肉類、果物、野菜などの食品が表示され、購入すると自宅の玄関先まで届けられる(参考)。

独自の物流と配送ネットワークにより、スケジュール管理を徹底し、特別なことがなければ99.99%の確率で時間どおりに配達するというから驚きだ。

Image Credits:FreshToHome Google Play

FreshToHomeの一番の特徴は、抗生物質や防腐剤などの化学薬品の不使用を徹底していることにある。自社ブログによると、工程中には120以上のチェックを行っており、さらに配送には天然氷のみを使用する徹底ぶりである。

水産物は、インドにある5,000の港のうち、新鮮な魚を提供するのに最適な300の港を厳選。3,000人の漁師と直接取り引きをしている(参考)。一方、肉類は、契約農場の飼育段階では肥育ホルモン剤などの不使用、出荷段階では保存料の不使用を一気通貫して管理している。

Kadavil氏は、自社ブログで次のように語っている。

“FreshToHomeは、100%防腐剤・抗生物質不使用の新鮮な魚介類、肉類、肉製品を誰もが利用しやすく、手頃な価格にするという革命のパイオニアであり、それが当社の提供するプラットフォームの最大の価値である。”

そのような高品質の製品を手頃な価格で迅速に提供している秘訣は、調達からサプライ・チェーン、配送の仕組みに至るまでの徹底した効率化にある。

一つは、テクノロジーを取り入れた効率化。例えば、製品をアプリもしくはサイトから購入した場合、バックエンドでは、加工工場とリアルタイムでリンクしており、肉もしくは魚が工場に到着してから数時間以内に配送される。さらにIoTベースの内蔵センサーにより、0〜4°Cの範囲に保つ24時間体制のコールドチェーンを確立している(参考)。

もう一つは、サプライチェーンの仕組み自体の効率化。仲介業者を完全に排除することで、産地から消費者までスピーディーに製品を届けることができるので、保存料など化学薬品不要の新鮮な食品を届けることが可能になる。中間マージンをカットすることで、リーズナブルな価格での提供も可能にしている。

FreshToHomeが重視しているのは、顧客だけでなく、漁師・畜産者にとってもサステナブルなサプライチェーンだ。自社ブログによると同社は“Commodities Exchange”(商品取引所)と呼ばれる漁師や畜産者とリアルタイムで取引するためのAI技術を活かしたアプリを開発。仕入れ先と、スマホのカメラを使用しながら直接商談することを可能にし、十分な利益の提供を保証している。

FreshToHomeの競合の一つには、2015年に設立されたLiciousがあげられる。同社もデータ分析と機械学習アルゴリズムを使用してサプライチェーンを最適化し、農家や漁師から新鮮な肉や魚介類を直接調達する手法を取り入れている(参考)。

実際に、2024年3月12日段階のGoogle評価で、Liciousが4.1(151,762 票)であるのに対して、FreshToHomeは、4.6(103,487 票)である。Liciousよりも票は少ないものの、FreshToHomeの高い顧客満足度がうかがえる。

なおFreshToHomeの顧客維持率は3回目の購入において90%であるという。ECプラットフォームを提供しているグローバル企業Shopifyのデータによると、顧客の購入リピート率は業界ごとの違いはあるものの平均で約28%程度。そのことからもFreshToHomeが顧客から支持されていることが伺える。

「新鮮で安全な魚を家族に食べさせたい」想いから創業

2022年3月公開のYouTube動画で、FreshToHomeの共同創設者兼CEOであるShan Kadavil氏は、同社の設立背景を語った。同氏は元々はエンジニアであった。米国サンフランシスコを本拠とするZyngaでFarmVilleなどのゲーム開発で成功を納めた後、2009年にZyngaにおけるインドのローカルマネージャーとして生まれ故郷のインドに戻ってきた。

南インドの水の都と言われる自然豊かなケララ州で生まれ育ったShan Kadavil氏は子どもの頃から大の魚好きであった。しかしながら、同氏が働いていたハイテク産業の中心地バンガロールのような大都会において新鮮な魚を買うことは困難だったようだ。

そこで一消費者として利用し始めたのが、SeaToHomeという新鮮な魚をバンガロールやニューデリーなどの大都市に販売するオンラインプラットフォームであった。SeaToHomeは、後にFreshToHomeの共同設立者となるMathew Joseph氏が運営。Joseph氏は、水産物取引のエキスパートであったが、ECサイトに関しては専門外であったうえ、景気の悪化なども追い打ちをかけ、2014年にSeaToHomeを閉鎖することとなった。

当時、SeaToHomeのレギュラーカスタマーであったKadavil氏にとって、新鮮な魚が食べれなくなったことは、自分自身だけの問題ではなかった。当時、同氏の子どもはまだ小さく、インドで通常売られている魚に保存料として使われているホルマリンなどの化学薬品が健康に及ぼす影響に不安があった。そこで、Kadavil氏はSeaToHomeの運営者であったJoseph氏にコンタクトし、FreshToHomeの原型となる構想を切り出したのである。

その翌年2015年にKadavil氏が最高経営責任者(CEO)、Joseph氏が最高執行責任者(COO)を務めFreshToHomeがスタートした。当初8人の従業員からスタートしたが、現在その数は5,000人にまで増えている。現在は160都市でサービスを提供している(参考)。

2021年からリアル店舗をオープンし、オムニチャネルでの相乗効果を狙っている。コンビニタイプの店舗も含めると2023年段階ですでに100店舗以上となったと、Kadavil氏はYouTube動画で語っている。

2019年にはアラブ首長国連邦にも進出。2023年時点で、サウジアラビアでの立ち上げに取り組んでおり、今後、他のGCC諸国への展開も示唆している。

参考・引用元:FreshToHome
FreshToHome App Store/Google Play

(文・CANAL.KASAI)

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