近年は食糧危機、環境負荷の増大、異常気象の発生など、人口増加に伴う深刻な課題が山積している。2019年の77億人から、2050年には97億人への人口増加が見込まれており、限られた水や肥料などの資源から作物収量を最大限に高める必要性が高まっている(参考)。
一方で、農業分野からの温室効果ガスの排出は世界の排出量の約12%を占めるなど、環境問題への配慮も欠かせない。異常気象の影響を受けにくい精密管理農業を実現し、持続可能な循環を生み出すことが不可欠となっている。
このような状況下で注目を集めているのが、イスラエルのアグリテック企業であるAgrinozeの革新的な点滴灌漑だ。
環境に優しい点滴灌漑
点滴灌漑は、乾燥地域での効率的な農業を実現するべく、イスラエルで生まれた革新的な技術である。チューブの壁面に設けられた穴から、必要最小限の水と液体肥料を直接作物に供給する仕組みだ。
従来のスプリンクラーなどの通常の給水では作物が吸いきれなかった水が蒸発や流水で失われてしまうが、点滴灌漑では根元にだけピンポイントで給水するため、水の消費量を最小限に減らすことが可能だ。
発明国であるイスラエルは国土の大半が砂漠で占められ、周辺国との緊張関係もあり、食料の自給自足が命題となっている。年間降水量は平均で500ミリ以上、南部地域に至っては100ミリ以下という過酷な環境にあるイスラエルでは、限りある水資源を最大限に活用した独自の農業技術の発展が求められてきた。
そうした必要性から生まれたのが点滴灌漑の技術である。水のロスを極力抑え、作物に必要な分だけを適切に供給することで、イスラエルは食料自給率を90%を超える高い水準に引き上げることに成功した。降水量が極めて少ない環境下でこうした実績を上げられたことは、驚くべき快挙と言えるだろう。
昨今は開発国のイスラエルだけではなく中国、アメリカなどでも積極的に研究が行われており、年々注目されている技術である。
従来の灌漑方式を大きく上回る水の節約と収量
Agrinozeの点滴灌漑は、従来の方式を大きく上回る性能を発揮している。H2O Global Newsの報道によると、灌漑ソリューションはほとんどの植物で30~60%少ない水で300%高い収量を達成しており、場合によっては肥料を必要としない。水不足地域での食糧増産に大きく貢献できる可能性を秘めている。 この結果を可能にしているのが、AIとスマートセンサーの活用だ。センサーで土壌環境をリアルタイムに分析し、機械学習により最適な水と肥料の分量を算出する。その量を根元に直接注入することで、常に理想的な環境を維持できる。Haaretz Labelsの報道によると、創業者の一人であるEitan Israeli氏は農学者で、水は植物の成長にとって95%を占める最重要要素であることを発見しており、その研究成果をAgrinozeのシステムに応用したという。
すべての植物において、最適な土壌は、土壌の軽さや砂質などの要素で決まるのではなく、排水が最も重要な要素で決まる。そのため成長に適した量を絶え間なく供給し続けることで、大幅な収量アップを実現したというわけだ。
Haaretz Labelsによれば、実施も容易とのこと。顧客は水と電気のインフラと標準的な灌漑システムだけを用意すればよく、それらにAgrinozeが開発した灌漑ヘッド、センサー、制御コンピューターを追加するだけで実施が可能だという。
また機械学習のアルゴリズムによって自律的にシステムが機能するため、設置後1~2週間以内に独立した自動操作が可能である。
世界的な食糧危機解決に貢献なるか
水不足に悩む多くの地域で、Agrinozeのシステムが食糧増産の切り札となることが期待されている。既にイスラエル国内では、ブルーベリーやナツメヤシ、花の栽培に既に導入されており、堅調な成果を上げている(参考)。
@agrinoze is officially a winner in this year’s #FoodTech 500 by @ForwardFooding! We’re thrilled to be a part of this year’s list and honored that our innovation within the food system has been recognized by this ranking! pic.twitter.com/NeVxxEEWUO
— Agrinoze (@agrinoze) February 16, 2022
また海外でも展開が進む。Agrinozeは2021年のフードテック500にも選出されるなど世界的に高く評価されており、アルゼンチンやコロンビア、モロッコなど、中南米から中東、アフリカと幅広い地域でプロジェクトが動き出している。
世界資源研究所の推定によれば、2050年までに土地を追加することなく50%多くの食料を生産する必要があり、そのための大がかりな改革が求められている。
限られた資源の中で食糧生産を維持・向上させることは人類最重要課題の一つだ。Agrinozeのシステムはその課題解決に大きく貢献することに、世界から大いに期待が寄せられていると言えるだろう。
参考・引用元:Agrinoze
(文・MOMMA)
- Original:https://techable.jp/archives/230368
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:Haruka Isobe