2023年4月、国連はインドの人口が14億2860万人を超え、中国の14億2570万人を上回ったとの推計を発表した。世界最大となったインド人口の「誰ひとり取り残さない」医療システムを目指すのが「Ayushman Bhara」(長寿化インド)計画だ。
同計画の一部でモディ首相が2018年に立ち上げた世界最大の健康保険制度「Pradhan Mantri Jan Arogya Yojana」(PM-JAY)は、インド人口の40%にあたる約5億人に対する医療費給付を定めたもの。二次的・三時的医療費として貧困層・特定職業(カーストが職業に付随するため)の1世帯につき年間50万ルピーを給付する。医療費が原因で貧困家庭がさらに困窮する事態を防止するのが目的で、年間5000万〜6000万人の救済を目指している。
政府が5億人分の医療費を提供するということは、国内ヘルスケア分野に莫大な規模のマーケットが存在することを意味している。活気を呈するこの分野で注目を集める医療系スタートアップのうち1社が「earKART」である。
インド全土で聴覚ケアサービスの質を改善するearKART
earKARTは、聴覚障害がある人々の抱える困難と提供されるサービスの間に存在していたギャップの解消を目指すスタートアップ企業。インド全土で聴覚ケアサービスを改善するために、自己適合技術を備えた先進的な聴覚補助器と独自のサービスモデルを提供している。
手頃な価格で高品質な補聴器を提供、1300以上のクリニックネットワークを構築し広範なユーザーサポートを実現。世界的な補聴器ブランドを取り扱うディーラーと全国規模で提携したことで、ユーザーは海外メーカーの製品を保証付きで入手できる。聴覚障害者のアクセシビリティを大幅に向上させて起業からわずか数年で急速な成長を遂げた。
ユーザーが自分で調整できる聴覚補助機
同社の代表製品は、Bluetoothでスマホと接続可能な聴覚補助器EQFYおよびVEN。両製品ともに純音聴力検査機能を搭載したことで、オーディオロジスト(難聴の診断・治療・補聴器の調整・リハビリ・難聴の予防を行う医療専門家)の介入がなくともユーザーが自分で簡単に自分の聴力プロファイルに合わせて調整できる。
EQFYは音波をデジタル信号に変換し、音を正確に再現する。72時間の連続使用が可能な充電式バッテリーが付属しており、面倒な電池交換が不要でストレスなく長時間使用可能だ。また、専用アプリを使用すれば電話に応答したり、音楽を楽しんだりもできる。音量調整や基本的な微調整といった操作はアプリでも可能。
首にかけるタイプのVENは、デバイス上のボタンまたはアプリ「Audientes」を使用して簡単に調整できる。 フルボリュームコントロール、微調整、アクティブノイズリダクション、音声エンハンスなどが可能になる。
インドの補聴器普及率を高めるという創業者の決意
earKART社は、Rohit Misra氏が2021年に設立したスタートアップだ。Misra氏は、米国に本社を置く世界的聴覚補助器メーカーStarkey Hearing Technologies傘下のStarkey Indiaでマネージングディレクターを務めた人物。聴覚障害や偏見に苦しむ人々の状況を変えるために同社を立ち上げた。
インドで補聴器を必要とする1億2千万人のうち、実際に購入できるのは60万人。わずか0.05%という補聴器の普及率を3年以内に1%にまで向上させることを目指している。
Misra氏が起業背景やパートナーとのシナジー効果、自社の成長速度について語る様子は、同社公式YouTubeチャンネルの動画で視聴できる。
動画の中で同氏は、当初は5ルピーだった1ヵ月の収益がわずか12ヵ月で5000万ルピーにまで拡大したと述べ、自社の成長速度を「驚異的」と表現。これに満足することなく、2024年にはこの額が10倍となるだろうと語った。
また、起業時は従業員数5人だった同社だが、複数の部署と社内コールセンターを設けるまでに成長。2023年5月にAgility Venturesが主導するプレシリーズAラウンドで資金を調達(調達額は非公開)した。
将来的にはインド国内だけでなく国際市場を目指すと語るMisra氏。WHOによると世界の人口の14~16%が難聴を患っているにもかかわらず補聴器使用率は5%以下というから、インド国外の潜在マーケットにも莫大なビジネスチャンスがあることは確かだ。
引用元:EarKart
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Mickey Ohtsuki
危険と言われる南ア・ヨハネスブルグを拠点にアフリカ南部を飛び回って帰国後、199x年代から産業翻訳のフリーランスを始め、2000年からテクニカルライター/Webライター業も開始。世界各地のスタートアップには、ちっぽけな探求者たちが巨大な既存勢力と戦うロマンがある。『なんでも評点』筆者。
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- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:芥田かほる