米国では、150億ドル相当の農作物の受粉をサポートする“自然の労働者”として、ミツバチが一目置かれている。米国農務省によると、世界の種子植物(顕花植物)の80%以上は、繁殖するために花粉媒介者を必要としているという。
花粉媒介者の中でもミツバチは130種類以上の果物や野菜を含む、種子植物の80%の受粉を行っている。農業に欠かせない存在であるミツバチだが、その個体数は過去数十年にわたり減少傾向にある。
米国では2015年1月から2022年6月までの間に、1140万個のミツバチのコロニーが減少。同年新たに1110万個のミツバチのコロニーを追加したものの、以降わずかに減少し続けているという(参考)。
ミツバチのコロニー減少の主な要因は「寄生虫」「害虫」とされている。こうした寄生虫・害虫問題に一石を投じたイスラエル発のスタートアップが、Beewise(ビーワイズ)だ。
ミツバチに寄生する“バロアダニ”
ミツバチに寄生するバロアダニ近年、米国や欧州を中心に確認されている“ミツバチが突然姿を消す現象”は、CCD(蜂群崩壊症候群)と呼ばれ、その被害は中国や日本でも報告されている。
CCDの原因としては殺虫剤、生息地の喪失、病気などが挙げられるが、2022年の時点で特にコロニーへの負荷が高いとされているのが寄生虫と害虫だ。
その中でもバロアダニ(ミツバチヘギイタダニ)は約1.5mmほどの寄生虫。働きバチを経由してコロニー内に侵入し、幼虫や蛹に寄生することで、最終的にコロニーを全滅させてしまうという(参考)。
バロアダニの元々の宿主はアジアのトウヨウミツバチだった。長い年月にわたって共進化することでトウヨウミツバチはバロアダニに適応していた。
沖縄科学技術大学院大学の論文によると、その後トウヨウミツバチよりも生産能力の高いセイヨウミツバチが海外から持ち込まれた際に、バロアダニに適応できないセイヨウミツバチにも寄生するようになり、それがきっかけで米国や欧州にバロアダニが広がったとされる。
はちみつの一大生産国であるオーストラリアにも2022年6月に初めてバロアダニの侵入が確認された(参考)。これに対してオーストラリア政府は約1億オーストラリアドルを投じて対策を講じた。しかし、完全な撲滅は難しいと判断し、現在はバロアダニと共存する方法を探っている。
このようにバロアダニの完全な駆除は難しい一方で、ミツバチに寄生したバロアダニを除去する方法として、農薬を用いる方法や機械的な方法が確立している。
しかし農薬を用いる方法ではダニが耐性を持つことで効果が弱まったり、人間への悪影響から使用が可能な時期が限られる。また機械的な方法では必要な人手や設備が大幅に増えてしまう。
そこで2018年に設立されたイスラエル発のスタートアップBeewiseは、ロボットとAIを活用してミツバチを管理するという新しいソリューションを提供している。
養蜂の常識を変えたBeewise
BeewiseはロボティクスとAIが組み込まれた人工的な巣箱「BeeHome」を開発・販売している。BeeHomeは養蜂家の代わりにミツバチの管理を24時間年中無休で行うシステム。AIがコロニーの撮影画像を分析して、コロニー内の問題に適した対策を自動で行うことで、ミツバチを病気や害虫から守る(参考)。
BeeHomeのシステムは全て自動で行われるため、養蜂家の移動や害虫駆除などの作業を90%も削減しながら、蜂蜜の収穫量を50%も増加させることが可能だ。これまでにも養蜂業界ではハチの巣用の“遠隔検査センサー”といったテクノロジーが普及していたが、その利点はわずかなものだという。
たとえセンサーが問題を特定しても、養蜂家はその問題を解決するために広大な面積の養蜂場へ足を運ばなければならないからだ。
そこでBeewiseの共同創設者兼養蜂家であるEliyah Radzyner氏は「私たちが必要としてることは遠隔検査ではなく、遠隔養蜂だ」と気付き、BeeHomeの開発に至ったとのことだ。
バロアダニ対策に一石を投じるBeeHome4
2020年に初めて発売されたBeeHomeは年々進化しており、2023年に発売されたBeeHome4では、バロアダニを自動で撃退する熱処理機能が搭載されている。しかしBeeHome4はセンサーとAIによって自動で正確な温度と時間で熱を加えられるため、商用の養蜂家でも熱処理によるバロアダニの駆除が可能である。
このBeeHome4のバロアダニ対策は画期的であり世界中から評価されている。
たとえば2000万人の読者がいるアメリカのニュース雑誌TIMEのTHE BEST INVENTIONS OF 2023や何千人もの訪問者や農業界の専門家が集うWorld Ag Expo 2023の新製品Top10に選出されており、世界中から高い評価を得ていることがうかがえる。
今後もBeewiseはBeeHomeの改良に注力し続け、ユーザーからの意見をもとに新たなモデルを市場に投入する方針だ。
参考・引用元:Beewise
(文・MOMMA)
- Original:https://techable.jp/archives/230562
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:Haruka Isobe