今回はアフリカAdTech市場の動向と、同市場で成功を収めた2人組が作ったFlowという企業を紹介する。
一筋縄ではいかないアフリカAdTech市場
まずアフリカのAdTech市場についてであるが、少なくても筆者が確認している限りだとアフリカの他の産業や市場、たとえばFinTech市場と比べると急成長を見込むレポートがそこまで多くないという印象だ。
例として、Grand View Researchのレポートによれば、 2023年の世界のAdTech市場は9875.2億アメリカ・ドルで、1ドル=150円で計算すると日本円で約148兆円となる。
さらに、2024年から2030年までの同市場のCAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)は16.1%と見込まれている。ただし、地域ごとのCAGRを調べてみると、アメリカが13.0%、中国が19.1%、日本が17.5%、インドが20.1%であるのに対して、アフリカは数字が記載されておらず、急成長を見込むとは予測されていない。
その他のレポートを見ても、金融システムや健康に関するインフラ、教育などへの投資予測に比べ、アフリカにおけるAdTechへの投資はそこまで活発でない印象だ。
アフリカAdTech市場の成功者、Gil氏とDaniel氏
このようなアフリカAdTech市場において、Gil Sperling氏とDaniel Levy氏はPopimediaという名のソーシャル メディア、広告サービス、広告マーケティングを行う事業で成功を収めている。Popimediaは2007年に設立された企業。アフリカの最大規模とされるAdTech会社へと成長し、当時アフリカで唯一のFacebookのパートナーであったという。
なお、同社は2015年にPublicisという広告会社に買収されている。この買収を含め、Popimediaのビジネスは現地メディアのLEADERにおいて「成功」と評価されている。当時まだ浸透していなかったFacebookの可能性にいち早く気づき、マーケティングに乗り出した先見性によって成功を収めたのだ。
その後、2人が「不動産業界にスマートなAdTechのノウハウと、データドリブンな考え方を用いて革命を起こす」というミッションを持ち、2019年に設立した会社がFlowである。つまり実績十分の2人が設立した企業であるということだ。
なお、同社はテクノロジーを使って不動産取引を行うProptech(不動産テック)分野に強い企業であり、データを活用したジェントな広告プラットフォームを提供している。同プラットフォームにより大手ブランド、代理店、ポータル、ネットワーク ビジネスにさらなる収益をもたらし、関心の高い視聴者にアクセスできるよう支援している。
世界中100以上のブランドから信頼を獲得
経験豊富な2人が設立したということもあるのか、資金確保も着実に進んでいるようだ。
Crunchbaseのデータによれば、設立年である2019の年1月29日にはCRE Venture CapitalとKalon Venture Partnersから150万アメリカ・ドルもの資金を調達している。
2020年1月20日には他の3社から追加で140万サウジアラビア・リヤル、2023年1月17日にはFuturegrowth Asset Managementから7800万ザールの支援を受け、これら合計で640万アメリカ・ドル(日本円で約9億6000万円:1アメリカ・ドル =150円換算)の資金確保に成功している。
これらの投資家については同社ホームページに記載されており、「同社のサービスは100社以上の世界中のブランドから信頼されている」とされている。
Flowが提供する3つのサービス
Flowの提供するサービスは以下の3つである。代理店、ブローカー、フランチャイズ加盟店などに向けた「Flow Connect」、オンライン店舗に登録した商品の各種プラットフォームへの広告出稿を自動化する「Flow Enterprise」、購入意欲の高い広告視聴者を発見する「Flow Data」だ。
また、動画では「依然としてFacebookは幅広い年齢層に到達するのに有用」とされていることからも以前のPopimediaでの経験を生かしていることがうかがえる。
なおこの動画はeNCAという南アフリカトップレベルのテレビニュースチャネルからのインタビューという形で構成されており、eNCA側のYouTubeチャンネルにも同一の動画があがっている。
Flowの可能性と課題・懸念
資金調達の成功や数々の導入実績、すでにTVのインタビューを受けれる段階にあることから、Flowは順調な滑り出しを切っているように見える。
ただし、家のような高価な物の購入、または購入契約でなくても賃貸契約の場合、Facebookに表示された広告からスピーディーに契約を締結させるのは一般的には難しい。
というのも不動産販売・購入・賃貸、には代理人設定、内見、ローン審査、保証人・保証会社設定、重要事項説明確認、エスクローなど、契約締結までのプロセスが多く、このプロセス自体は結局、現地の不動産販売業者や購入者が責任を負う形に見えるからだ。
要はクレジットカードを使ってすぐに購入が完結できる一般消費財の販売と根本的に顧客側の購入体験が異なる。となるとその不動産業者(Flowの顧客)としては、Facebookやその他媒体に直接広告を出稿するよりもFlow経由で広告出稿した方がROIが高いかどうか、というのが判断基準になるだろう。
多数のSNSに跨ってソリューション提案ができるというのが各プラットフォーマから独立しているFlowの強みになる(例えば、Facebookの広告が不調だったら自動でGoogleに切り替えるなど)はずだが、それらの機能についての説明は公式発表からは知ることはできなかった。
自分たちでFacebookやGoogleなどに広告を出稿し効果測定を行うのはそれほど大変な作業ではないというのが筆者の体感であり、どうやって家の購入契約や賃貸契約で顧客を説得するのかは少なくても筆者には理解できなかった。
また、Facebookに限らないがプラットフォーム上で詐欺被害にあった場合、返金請求はプラットフォームの裁量に一任されているのが実情だ。
これがクレジット会社を利用できるような一般消費財の購入であれば、クレジット会社の保険を使用できることもあるが、それも個別で交渉が必要だ。
例えば簡単に想定されるケースとして、悪徳不動産業者がおとり物件をFlowを利用して広告を特定プラットフォーム上に出稿した後、購入契約希望者、賃貸契約希望者に対して、頭金や保証金を急かす形で入金させた後、消えてしまうような詐欺のケースはさまざまな国で多数報告されている。
しかし、このようなケースでFlowがどう主体的にユーザ保護に動けるのだろうか。例えばFlowが広告主の信用チェックを行い、仮に上記のようなことが起きてしまった場合はFlow側で保証できるのかどうかは今後、同社のビジネスモデルが不動産分野にも拡大できるかどうかにおいて大切な部分だと考える。そうでなければ適用先を不動産以外の商材に広げざるをえないだろう。
Flowはすでに実績もあるコンビにより創立された会社であり、余計な心配は無用かもしれない。
ただ、不動産は動く額が特に大きい業界であるため、間違っても詐欺的な会社に利用されるようなプラットフォームにならないよう、Flowにとっての直接顧客のクライアント(例、不動産販売業者)だけでなく、実際にお金を払うことになるユーザ(例、物件購入希望者)にも配慮しながら成長してほしいと願っている。
参考・引用元:Flow
(文・Gocha)
アメリカ在住、エンジニア兼コンサルタント。アメリカ生活に関わることやその他記事に対する所感などをブログ・YouTubeで公開中。
- Original:https://techable.jp/archives/232135
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:Haruka Isobe