いまだ戦争の只中にあるウクライナ。その苦難のなかでもたゆまぬ努力を続けているスタートアップが存在する。
ウクライナ国家宇宙庁の長官を務めた経歴を持つヴォロディミル・ウソフ氏が設立したKurs Orbitalは、宇宙開発事業にのしかかる問題の解決を目指すスタートアップ企業。これには、いわゆる「宇宙ゴミ」の除去も含まれている。
同企業の製品は、人類の宇宙開発を何倍にも加速させる可能性を秘めているのだ。
ウクライナの宇宙開発スタートアップKurs Orbital
さて、Kurs Orbitalは「イタリアのスタートアップ」と書く記事もあるが、じつはこれは決して間違いではない。2022年からのロシアによるウクライナ侵攻を受け、Kurs Orbitalはイタリアのトリノに本社機能の一部を移転したのだ。ウクライナは今でも混沌の状況にあり、ロシア軍の攻撃で被害を被ったスタートアップは多数にのぼる。
そんななか、Kurs Orbitalは着実に事業計画を進めている。
宇宙ではすでに、数多くの人工衛星が稼働している。米ソ冷戦の只中の時代から地球を見守っているものもあるが、機械や製品である以上は「メンテナンス」というものが必要だ。
人工衛星の動力補充、軌道修正、そして地球に危険な落下をする可能性のある退役衛星の管理。残念ながら、冷戦時代はこうしたことは軽視または無視されてきたのだ。
人類の生活を脅かす「宇宙ゴミ」
耐用年数の過ぎた人工衛星は、地球に落下したとしてもその大部分が大気圏で燃え尽きる。しかし、それはあくまでも「大部分」である。わずか数kgの燃え残りでも、それが住宅地に落下したら死者が出るかもしれない。だからこそ、大気圏突入前に人工衛星の軌道を調整し、極力安全な落下地点になるよう調整する必要がある。Kurs OrbitalのARCapモジュールは、あらゆる人工衛星にドッキングできる機能を有している。こうすることで、対象の人工衛星の直接的なメンテナンスが可能になるのだ。
これは人工衛星の耐用年数を延ばす効果も期待されている。今までよりも手軽な人工衛星のメンテナンスが望めるということは、結果として宇宙ゴミの発生要因を減らせるということにもなる。
2025年に初めての打ち上げを目指す
人工衛星の開発・打ち上げは、かつては国家の任務だった。アメリカとソビエト連邦という2つの超大国が、予算を惜しまずに何本ものロケットを打ち上げていた。それは競争というよりも戦争である。宇宙飛行士もロケットや人工衛星の開発エンジニアも、軍人が多かったという。
Kurs Orbitalは旧ソ連時代の技術を取り込みつつも、民間企業の手による新しい形の宇宙開発を目指している。なお、ウクライナはかつては「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国」という名のソ連の構成国のひとつだった。
かつての軍事大国の技術を、民間企業が平和利用する。21世紀も中葉に差しかかった人類にとって、極めて理想的な形の宇宙開発が具現化しつつあるのだ。
2024年3月、Kurs Orbitalはシードラウンド370万ユーロの資金を手にした。2025年に初の打ち上げを目指すKurs Orbitalは、この資金によりARCapモジュールのさらなる開発を加速させるだろう。
それと平行し、日本を含む世界各国で民間企業がロケットの射出を実施している。失敗も多いが、それは今後の技術的改良が克服するであろう。
我々は普段、オンライン通販で買い物をし、そのたびに宅急便と接している。それと同じように「一般人が宇宙へ物資を輸送する」という行為が極めて当然のものになるかもしれない。
参考・引用元:Kurs Orbital
(文・澤田 真一)
- Original:https://techable.jp/archives/231908
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:澤田真一