Research and Marketsのレポートによるとインドネシアの二輪市場は、中国、インドに続いて世界第3位の位置を占めるという。また、可処分所得の増加や道路インフラの整備、クレジットやローンサービスの利用拡大により、今後も堅調に推移する見込みだ。2023年から2027年にかけて年平均約7%で成長し、市場規模は87億ドルを超えると予測されている。
中でも電動二輪の存在感が増しており、その市場規模は2019年から2025年にかけて年平均20%以上の勢いで拡大するという予測もある(参考)。政府が電動二輪の普及を後押ししていることが要因のひとつだ。2019年には工業省が「低炭素排出車ロードマップ」を策定。2035年までに二輪の30%を電動にする目標を掲げている。2023年には条件つきで付加価値税を減免するほか、購入時に補助金を交付するという発表があった。
電動二輪のブームが高まる中、2021年に誕生したのがALVAという電動二輪のブランドだ。
IMG社の電動二輪ブランド“ALVA”
ALVAは、Ilectra Motor Group(IMG)社の傘下にある電動二輪ブランドだ。IMG社はIndika Energy社、Alpha JWC Ventures社、Horizons Ventures社の3社による合弁企業。中でもIndika Energy社はインドネシアのエネルギー大手で、自然ベースのエネルギーや持続可能なビジネスへの投資を行っている。同社の副社長は2023年3月にドバイで開催されたCOP28*1のパネルディスカッションにも参加した。
Indika Energyは石炭生産事業も抱えるが、非石炭事業収入の拡大を目指しているという。ALVAの誕生は、化石燃料からの脱却を図る大企業が、電動二輪に興味を示している好例と言えるだろう。
COP28*1…温室効果ガス(GHG)の排出削減目標や気候変動への対策について議論される「国連気候変動枠組条約締約国会議」の28回目の会議(引用:資源エネルギー庁)
IMGの社長がPRで大活躍
IMG社の取締役社長そしてALVAのプロデューサーを務めるのはPurbaja Pantja氏。アメリカの名門・カーネギーメロン大学でMBAを取得し、JPモルガンやドイツ銀行、スタンダードチャータードなどの大企業を渡り歩いてきた。
同氏はIndika Energy社のCIOでもあり、多忙を極めるはずだが、電動二輪のPRに積極的に関わっている。モーターショーで自ら新製品のアピールをしたり、国内外の報道関係者を対象にした工場見学も引率したりと大車輪の活躍ぶりだ。
Foxconn出資のファンドから資金調達
IMG社はインドネシアの電動二輪市場では後発と言ってもいい。インドネシア企業による初の電動二輪は、2017年6月にViar Motor Indonesia社が発売(参考)。Viar Motor Indonesia社はバイクライドシェアのGrabも顧客に抱える二輪・三輪販売メーカーだ。
2019年4月には、インドネシア企業で2例目となるGesits社の電動二輪の予約販売が開始され(参考)、電動二輪車に参入する企業が続々と登場している。
それでも、IMG社は2023年8月に5000万ドルの資金調達に成功した。この資金調達には、FoxconnがCTBCと共同で立ち上げたファンドも参加。FoxconnといえばiPhoneの受託製造で世界に名を馳せているグループだ。なお調達した資金は、ALVA製品開発の加速とネットワークの拡大に使用するという。
スマートかつ遊び心をくすぐる専用アプリ
ALVAは電動バイクを手がけるほか、電動バイク向けの専用アプリ「MY ALVA」を展開している。同アプリにはさまざまな機能があり、バイクに乗った履歴をすべて見ることも可能だ。走行距離や消費電力、CO2削減量、移動にかかったコストなどのデータも見ることができる。さらに、過去の実績だけでなく、これから訪れる場所への移動コストも事前に計算してくれるという。
また、緊急時の対応も充実。盗難防止のため、バイクが動かされたときにスマートフォンに通知が入る。また、走行中に転倒した場合は事前に登録している家族などに、位置情報が入ったメッセージが送信されるという。
アプリで利便性が高まっているのはもちろんだが、遊び心を感じられる機能もある。
たとえば、3km以内にALVAユーザーがいればアプリ上に車種と現地点からの距離が表示され、テキストメッセージのやり取りなどができる。プライバシーにも配慮されていて、位置情報や個人情報は表示されないし、他のユーザーのアプリに表示されない設定も可能だ。
また、ランキングがあるのも興味深い。単純な走行距離の長さはもちろん、1kWhあたりの距離、バッテリー1%あたりの距離といった効率的な走り方によるランキングもある。
バイクを単なる移動手段ではなく、楽しめるものにしようという意図がうかがえる。
競争を勝ち抜けるか
脱炭素化の機運が世界各国で高まる中、電動二輪市場は拡大が見込まれているため、今後も新規参入者の増加による競争の激化が予想される。
現在インドネシア二輪市場の95%を占めると言われる日本勢の動向も見逃せない。たとえば日経経済新聞によるとホンダは2030年までに、インドネシアでの二輪の売上の約20%(100万台)を電動にする計画だ。同社は2024年のPEVS(電動自動車・電動二輪のモーターショー)でも、自社の電動二輪に試乗できる機会を設けている(参考)。
IMG社が国内外のメーカーとの競争を勝ち抜けるか、今後も注目していきたい。
参考・引用元:ALVA
(文・里しんご)
- Original:https://techable.jp/archives/233871
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:Haruka Isobe