栃木県のご当地グルメの筆頭はなんと言っても宇都宮市の「宇都宮餃子」です。しかし、この宇都宮市の隣にある鹿沼市では近年「かぬまシウマイ」というご当地グルメが何かと話題で、メディアにもたびたび紹介されています。
その歴史はまだ浅く本格的に「かぬまシウマイ」ブランドが立ち上がったのは2021年からだと言いますが、市内には、鹿沼商工会議所に登録しているだけでもすでに50軒以上の店で「かぬまシウマイ」が提供されているそうです。
はたから見ると、「宇都宮餃子」に対抗しての「かぬまシウマイ」のようにも思えますが、実はそうではなく、この鹿沼市にはもともとシウマイとは切っても切れない縁があったのだとか。
近年注目を浴び始めている栃木県鹿沼市のご当地グルメ「かぬまシウマイ」の秘密に迫ります。今回は、「かぬまシウマイ」の仕掛け人の一人で鹿沼商工会議所の水越啓悟さんに、その成り立ちを深く聞いてみました。
■「崎陽軒」創業者の出身地だった
実はこの鹿沼市、シウマイの名門ブランド「崎陽軒」の初代社長・野並茂吉氏の出身地だったと言います。そして、2020年から約3年続いたコロナ禍における「秘策」が結果的に「かぬまシウマイ」ブランド立ち上げに至った経緯なのだそうです。
「全国各地どこもそうだったと思いますが、『コロナ禍』という未曾有の事態で、飲食店の多くは身動きが取れない状況が続きました。鹿沼市内も同様で、飲食店は営業ができない状況が続き、せめて『お弁当販売』でしか収益が取れない状況に陥っていました。
こういった飲食店に対し、なんとか応援することができないものかと、私ども鹿沼商工会議所では『お弁当を買う』という市場作りと「まちの魅力作り」に取り組むことにしました」(水越さん)
■「崎陽軒」の意外なアイデアがきっかけに
そこで改めて持ち上がったのが「崎陽軒」と鹿沼市の由縁。これを武器に地元での「まちの魅力作り」を確立すべく、まず「崎陽軒」に交渉をするに至ります。
「『崎陽軒』さんに連絡をし、2つの提案をさせていただきました。1つは『鹿沼市内で「崎陽軒」さんの「シウマイ弁当」を売らせてほしい』というもの。もう1つが『初代社長・野並さんの偉業に敬意を表してJR鹿沼駅前に「シウマイ像」を作らせてほしい』というものでした。しかし、コロナ禍ですので、有名な『崎陽軒』さんの『シウマイ弁当』を鹿沼市内で販売することになれば人だかりができてしまう。また『崎陽軒』も横浜のローカルブランドを目指す企業のため実現しませんでした。しかし、一方の『シウマイ像』に関しては許諾をいただき、同時進行でアプローチさせていただいていた東京藝術大学の石井琢郎講師さんによって完成させることができました」(水越さん)
さらに、ここで「崎陽軒」サイドから思わぬ提案をもらうにも至ったと言います。
「栃木県はテレビでも話題になるほど、長らく全国の都道府県において『魅力度最下位』とされてきました。地元ではこういった評価を自虐的に捉える向きがあったのですが、これを知った『崎陽軒』さんからアイデアをいただきました。JR鹿沼駅前に『シウマイ像』を作ることだけでなく、鹿沼市全体を『シウマイの街』にしてみてはどうかと。これは嬉しいアイデアでした。さっそく、地元の飲食店や企業を声をかけたところ、以降、シウマイをメニューに加える飲食店が続々と出始め、またシウマイをモチーフにしたTシャツなどのグッズを販売するお店も増えました。本当にありがたいことです。コロナ禍で外出しにくく、明るいニュースがない中でしたが、その上での取り組みが好転したカタチになりました」(水越さん)
■過度なルール作りをしなかったことも奏功
果たして、鹿沼市のシウマイは「かぬまシウマイ」というブランドと確立されたわけですが、一方で「定義」などの縛りを設けなかったのも特徴。結果的に、地元の店が自由に「かぬまシウマイ」ブランドを名乗ることがでできたのも利点だったように映ります。
「町おこしをする場合、まず喜んでいただかないといけないのは地元の方々、地元のお店の方々です。それをさしおいて過度なルール作りをするのではなく、まずは『お店ファースト』で自由にやっていただくことが、『やって良かった』『もっとやろう』といった想いに繋がるだろうと考えてのことでした。このことが結果的に、『かぬまシウマイ』を広めるカタチになったと思っていますが、今後は『かぬまシウマイ』のさらなるブランディングを考えています。たとえば、『かぬまシウマイ』を冠する冷凍食品やグッズに対する知財管理などは徹底して行っていきたいとも考えています」(水越さん)
■点在する「点」が集まれば「面」になる
鹿沼市内の各所を巡ってみると、確かに「かぬまシウマイ」ののぼりやロゴマークを打ち出すお店は多くある一方、各店の「味」もカタチもバラバラです。
しかし、いずれにしても「鹿沼市という地元を盛り上げていきたい」「鹿沼市の味を楽しんでほしい」という熱い思いが詰まったものばかりで、こういった食べ比べや散策も楽しそうです。
実際に、地元のスーパー『ヤオハン』で販売されている「かぬまシウマイ」を冠した「ジャンボ肉シウマイ」を食べてみましたが、「崎陽軒」のような懐かしいおいしさともまた違う味。複雑に絡み合う香辛料の味わいが特徴でなかなかクセになる個性的な味わいでした。
「各店でまるで違うのもまた『かぬまシウマイ』の特徴と言って良いかもしれません。点在する各店の味わいですが、その『点』がいくつもあれば後に『面』となり、そのことで全体が盛り上がることを目指しています。立ち上げから数年が経過し、その『面』がカタチになりつつあるので、これからは栃木県内外でのプロモーションや、ブランディングに力を入れていきたいと思っています。そんな中で良い連携の話があれば、積極的にやっていきたいとも思っています」(水越さん)
■「かぬまシウマイ」は第2フェーズへ
最後に水越さんに「かぬまシウマイ」にかける思いを改めて聞いた。
「まずは『地元の人に食べてほしい』と願っていますが、その一方で、市外・県外の人にも『かぬまシウマイ』を食べに鹿沼市に遊びに来ていただきたいと考えています。1000円、2000円ほどの安価で楽しめる『かぬまシウマイ』。ぜひ注目していただければ嬉しいです」(水越さん)
* * *
ここまでの話を受けて考えると「かぬまシウマイ」の第一段階はまず成功に至っているように思いました。コロナ禍が明けて1年が過ぎた今、次なるフェースの第二段階に突入したようにも思える「かぬまシウマイ」。今後さらなる展開にも期待を込めながら注目していきたいと思いました。
>> かぬまシウマイ公式サイト
<取材・文/松田義人(deco)>
松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/601732/
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