コロナ禍で大打撃を受けた観光業界が徐々に回復を見せている。国連世界観光機関は、2023年1月から9月の間に推定9億7500万人の観光客が海外旅行に出かけており、この数字はコロナ禍以前の水準の87%に当たると報告している。
海外の免税店で買い物をした場合、条件を満たせば付加価値税(VAT)が還付される。その還付を有利にするサービスを提供しているのが、utuというスタートアップだ。
同社は航空会社や小売店と提携しており、ユーザーがVATの還付を現金で受け取る代わりに、キャッシュバックやマイルの形で受け取れる仕組みを構築。通常の還付に比べて、キャッシュバックは最大5%、マイルの場合は最大で40%お得になる。
非効率なVAT還付手続きをビジネスチャンスに
utuは2016年にシンガポールで設立された。共同創業者でCEOのAsad Jumabhoy氏は、以前からVAT還付ビジネスに関わっていた人物だ。
1980年代後半から1990年代初頭にかけ、シンガポールのチャンギ空港で小売店を経営していた同氏は、VAT還付事業を開始(参考)。この事業は後に45か国に進出し、75%以上の市場シェアを獲得するまでに成長した。
そんなVAT還付のベテランであるAsad氏は、従来のVAT還付には、2つの問題があると指摘している。1つ目は手続きが難しいこと、2つ目は、VATの一部しか還付されないことだ。実は、VATの還付には手数料がかかるため、当時は実際に戻ってくる割合が55%から65%でしかなかった。半分以上が手数料として差し引かれるケースもあるわけだ。utuはこの状況にビジネスチャンスを見出し、「免税ショッピング体験を充実させること」を使命に事業を開始した。
同社のCCOであるSanjay Chinchwade氏は2019年に「utuの目標は、何十年も変わっていない複雑で紙ベースかつ手数料だらけのVAT還付プロセスを革新することだ」と語っている。同社が85%という高い還元率を実現しているところから、すでに革新がもたらされていると言っていいだろう。
utuで還付を受けるための手続きはシンプルだ。ユーザーは通常のVAT還付とほぼ同じ手続きで、より多くのメリットを手にすることができる。追加で行うのは、utuのアプリで希望のマイレージプログラムなどを選ぶことと、還付申請フォームにutuの会員番号を記入することぐらいだ。顧客ファーストで事業を展開するutuは、2023年6月に3300万ドルの資金調達に成功している。
広がるパートナーシップ
utuと提携しているマイレージプログラムは10を超える。エールフランスやカタール航空、シンガポール航空なども対象だ。また、旅行業界ではホテルとも提携している。中でも目を引くのは、Accorグループのロイヤルティプログラムだ。VAT還付を同プログラムのポイントに換算し、ホテルでの宿泊や、レストランでの飲食などに利用することができる。同グループは50近くのホテルブランドを傘下に抱え、世界100か国以上で展開している。魅力を感じるユーザーは少なくないだろう。
さらに、utuは2024年2月にCollinson社との提携を発表。同社の代表的なサービスは、空港ラウンジを利用できるPriority Passだ。Priority Passを同社から直接購入したユーザーは、Priority PassアプリからutuのVAT還付申請サービスにアクセスできる。VAT還付に有利な選択肢があることを知らない顧客も、この提携をきっかけにutuの存在を知ることができるかもしれない。
国連世界観光機関によると、2023年1月から9月までの海外旅行支出は、2019年の同時期を超えた地域が多かったという。utuのサービスで恩恵を受けるユーザーは、これからも増えていきそうだ。
参考・引用元:
utu
国連世界観光機関
TechCrunch
PR Newswire
共同通信PRワイヤー
Accor Group
Collinson Group
(文・里しんご)
- Original:https://techable.jp/archives/234606
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:sato.s