全地球測位システム (GPS) は、今や人類の生活には欠かせないものとなっている。しかし、GPSは米国政府の所有で米国空軍が運用するもの。もしも何らかの理由でシステム障害に陥ってしまったらどうだろう。
日本には独自の位置測位システム「みちびき」があるが、自国開発の衛星を自国開発のロケットで宇宙まで打ち上げられる国は多くはなく、代替手段を持っていないのが現状だ。
米スタートアップXona Space Systems(以下Xona)は、そうした“GPSのスペア”に留まらない「より正確な位置測位システム」の実現をミッションに掲げている。低軌道を258基の衛星で囲み、誤差2センチの精度を実現
GPSの衛星よりも低い軌道で大量の衛星を運用するのがXonaの位置測位システム「Pulsar」の特徴だ。32基の衛星を運用するGPSに対し、Pulsarは258基。数が多い分、Pulsarの衛星は小型化されている。「より小さく、より多く」を実現することにより、世界のどこにいても建物などの障害物による干渉を受けづらい情報受信が可能になるという。また、打ち上げのコストも抑えられる。
Pulsarの衛星が周回する軌道はLow Earth Orbit(LEO)だ。JAXAが運営するサテナビの記事によると、Low Earth Orbit上の人工衛星は高度2,000キロまでの低軌道を約90~120分で周回する。高い空間解像度を誇る一方で、衛星1基のカバー範囲は非常に狭いという問題がある。
この範囲の狭さを258基という数で補おうというのがXonaのシステムだ。
GPS衛星の150倍以上の受信電力を持ち、位置測位の誤差は僅か2センチ(2メートルの間違いではない)に収まるという。これが本当であれば、屋内の人の移動さえ正確に探知できるということだ。「GPSのスペア」どころか、「GPSをスペアにする」ほどの性能と言えるだろう。シリーズAラウンドには応募を上回る出資希望
そんなXonaは、2024年5月にシリーズA投資ラウンドで1,900万ドルの資金調達に成功した。Future VenturesとSeraphim Spaceが主導したラウンドに、応募を上回る出資希望が殺到したとのこと。
現時点ではベータ運用を目指している段階だが、位置測位システムの長足進化を目指す有望なスタートアップとして大きな注目が集まっているようだ。
カリフォルニア州バーリンゲームを拠点とする同社は、スタンフォード大学院の同窓生を中心とする7人によって2019年に設立された。2022年5月26日に、商業資金による衛星としては初となるLEO PNT(位置、ナビゲーション、タイミング)ミッションを実行、衛星Huginnを打ち上げた。1年後の2023年5月には、打ち上げ後に達成した成果として、軌道から地上への高精細LEO PNT信号送信、センチ単位でのユーザー位置測定能力を検証、低コストの市販コンポーネントを使用した高精度の衛星ナビゲーション機能を実証などを報告している。
なお、Xonaは去年からAFRL (アメリカ空軍研究所)およびアメリカ宇宙軍との連携を行っている。官民両方からの強力な支援を背に、Xonaは我々の生活をより便利にしてくれるのだろうか。
(文・澤田 真一)
- Original:https://techable.jp/archives/235619
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:澤田真一