COVID-19を理由とする解雇や雇止めで失業者が急増した2020年。当時、ハローワークは大混雑の「密」状態となり、それにともない職員不足も問題となった。一方で、全国のハローワーク職員約3万人のうち約2万人が非正規職員という事実にも目を向ける必要がある(労働力全体の非正規割合は4割弱)。職員は自らの雇用形態も“安定している”とはいえない状況で、他者の就業支援を行っている状況なのである。
求職者を雇用につなげる音声AIアシスタント「Earlybird」を展開するスタートアップEarlybird AI社は、7月9日にプレシードラウンドで80万ドルの資金を調達した。出資者一覧にはResolution VenturesやAda Venturesといったベンチャーキャピタル、Andrea Sinclair、Berthe Haile、Pip Wilsonなどの女性エンジェル投資家のほか、Googleまでもが名を連ねている。
求職者との自然な会話を経て必要な情報を解析
EarlybirdはSiriやAlexaなど一般的なAIアシスタント同様、ユーザーとの自然な会話の中で「その人のプロフィールや特徴」の取得を目指している。高度なアルゴリズムで会話内容を分析・解析し、雇用側が求める各種データに反映する。
取得したデータはEarlybird AIの提携企業(雇用者側)に送られ、各企業内部の就業アドバイザーに共有される。求職者それぞれの能力やパーソナリティーに適した求人が提案されるという仕組みだ。ユーザーは煩雑な事務作業なしにスマホひとつで求職活動ができるうえ、就業支援スタッフの業務を軽減する効果も望める。外国語・英語方言も包括的に対応
ロンドンの失業率は現在約5%、24万人以上の失業者には移民や難民も当然含まれている。まったく英語を話せない求職者が公共の職業支援施設を訪れた場合、通訳や外国語スキルのあるスタッフが必要になる。
また、英語にも方言がある。たとえば、ロンドンの労働者階級が使う下町言葉「コックニー・アクセント」は、名作映画『マイ・フェア・レディ』を見ると分かるとおり母音の発音からして異なっている。Earlybirdを使えば、こうした「言語の壁」を簡単に乗り越えられる。
ホームレス状態も経験、CEOは低所得家庭出身だという
多様な言語で求職者をサポートしつつ、採用担当者の業務も効率化するEarlybird AI。2023年設立の同社は、「かつての失業者」が立ち上げたことでも知られている。
UKTNの記事によると、Earlybird AIの共同設立者・CEOのClaudine Adeyemi-Adams氏は、低所得家庭の出身だと伝えられている。一度はホームレス状態を経験、低賃金労働に従事した経歴を持つという。
身をもって失業や貧困の辛さを知るだけでなく、就業支援サービスの元利用者として、制度が抱える問題点もよく理解しているのだ(イギリスの就業支援・失業給付制度の問題点は、2016年の映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』にも垣間見える。病気で休職中なのに就業可能と認定され給付金が下りない、架空の求職活動や慣れないパソコン操作を強いられるなど)。ロンドン市長主催の企画でファイナリストに選出
Earlybird AIは、ロンドン市長サディク・カーン氏の肝入り企画「No Wrong Door」において、ファイナリスト15社に残っている。
パキスタン移民2世であるカーン氏は、バスの運転手である父親と裁縫業者(いわゆる「お針子」)の母親との間に、8人きょうだいの5番目として生まれている。なお失業・不況の解消を目指す同イニシアチブの最終優勝企業は、8月に発表される予定だ。
IT巨人のGoogleも出資に参加した今回の資金調達は、貧困の連鎖による社会階層の固定を打破する大きな一歩ともとれる。Earlybird AIは調達資金で技術チームを増員し、技術力を強化するという。
参考:
Earlybird
UKTN
ロンドン市公式サイト
(文・澤田 真一)
- Original:https://techable.jp/archives/239599
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:澤田真一