病院で患者を診察する際、医師は患者から聞いた病状や症状を、PCのキーボードでカルテに入力することが一般的となっているが、この手作業は案外手間がかかりがちだ。また、今も筆記に頼るケースもあるだろう。
ならば、音声認識アプリを使って医師の声や患者とのやり取りを記録するのはどうだろうか。
この着眼点から医療従事者に向けた音声認識機能付き電子カルテプラットフォームが開発されるようになったが、認識される言語が限られていたり、訛りの強い言葉が認識されなかったりという課題があり、アフリカでは導入が難しいケースもあるという。
こうしたなか、ナイジェリアのヘルステック企業Intron Healthが開発した製品が注目を集めている。これは、広大なアフリカ大陸全域をカバーする対応言語で“トレーニングいらずの使い勝手”を目指した医療用音声認識プラットフォームだ。筆記よりも7倍、生産性を向上
PCとスマホ・タブレット向けに用意されたIntron Healthの音声認識プラットフォームは、医師の話した音声をレコーディングし、既存の電子カルテプラットフォームに送信することが可能。このハンズフリー操作により、ペンと紙を使った場合よりも臨床医1人あたりの生産性が7倍向上する。利用する上で医師がする主な操作は、基本的には音声の収録開始と終了のみ。シンプルで直感的なインターフェースであるため、トレーニングやチュートリアルは不要。どんな医師でも初日から導入できるという。
方言で話す医療用語もしっかり認識
しかし、アフリカ大陸は巨大なエリアということを忘れてはいけない。細かく分かれた国によって使用言語が異なる。たとえば、フランス語圏のコートジボワールの東隣にあるガーナは英語圏。さらに、民族によっていくつもの地域言語が利用されている。
また、同じ英語でも「方言」というものが存在する。従来の音声認識プラットフォームでは、地域毎に異なるアクセントを上手く認識できない。そして、医療従事者向けの電子カルテである以上は医療用語も理解できなければ用を成さない。
オフライン環境下でも動作するプラットフォーム
一般的な音声認識技術はオンライン環境下でしか利用できないものが多いが、Intron Healthのプラットフォームはオフライン環境下でも利用することが可能だ。日本では大規模な自然災害が発生しない限り、停電など滅多に発生しない。だが、基礎インフラが貧弱なアフリカ諸国の農村部などでは頻繁に停電が発生する。電力が復旧するまで診察を停止する……などということはあってはならない。だからこそ、Intron Healthのプラットフォームは必ずしもオンライン環境を必要としない設計が施されているのだろう。
「言語の宝庫」アフリカ大陸
そんなIntron Healthは、7月にプレシードラウンド160万ドルの資金調達を完了した。Microtractionが主導し、Plug and Play Ventures、Jaza Rift Ventures、Octopus Ventures、Africa Health Ventures、OpenseedVC、Pi Campus、Alumni Angel、Baker Bridge Capitalがラウンドに加わっている。
現時点で世界42か国、1万6,000のレポート作成者を抱えるIntron Healthだが、じつはまだまだアフリカ全土の言語をカバーしているとは言い難い。
Business Post Nigeriaによると、世界の言語数及び方言は推定7,000だが、そのうちの3,000以上はアフリカ大陸にあるという。つまり、少数民族は医療のデジタル化や音声認識プラットフォームの発展から取り残されているのだ。
出身地域や民族・部族の違いを乗り越えられる音声認識プラットホームの登場は、我々人類に明るい未来の道筋を指し示してくれるだろう。
参考・引用元:
Intron Health
Business Post Nigeria
(文・澤田 真一)
- Original:https://techable.jp/archives/241201
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:澤田真一