WFD(世界ろう連盟)によると、世界中に7000万人以上のろう者が存在し、300種類以上の異なる手話が使われているという。また、国際会議や旅行の際に使用される国際手話というものもある。手話は「音声言語とは構造的に異なる、完全に独立した自然言語」とされており、ニュージーランドのように、公用語のひとつに手話を指定している国もある。首相が各地を訪問する際も、手話通訳者が同行するという。
ひとつの言語として捉えられている「手話」だが、近年は手話通訳のデジタル化に向けて開発が進んでいる。たとえばソフトバンクが3年前に、手話と音声による双方向コミュニケーションアプリ「SureTalk」の開発について発表し、その後自治体などと連携しながら実証を進めている。
SureTalkは手話と音声をリアルタイムでテキストに変換し、画面を通して会話ができる無料アプリ。手話ユーザーと音声ユーザーが円滑にコミュニケーションをとれるようになる。
こうした動きはもちろん日本だけの話題ではない。現在、イギリスの企業Signapse AIは、文章や動画内の音声、またアナウンス音声から即座に手話ビデオを生成するAI翻訳プラットフォームを開発している。駅構内のアナウンスをAIアバターが手話通訳
たとえば、駅構内でこのような経験はないだろうか。
待っていた電車が、突然の事故により遅延を余儀なくされてしまった。何十分も待っているが、来る気配はない。どうやら該当の列車は、ようやく3つ前の駅を出たばかりだそうだ。
こうしたことを構内アナウンスで伝えてくれるのはいいが、それを聞き取ることが難しい人はどのように情報を認識すればいいのだろうか。
ディスプレイ付きの掲示板で手話通訳者を表示する、という手もある。しかし、本物の人間を常時カメラの前に待機させるわけにもいかない。ここで、AIアバターの出番なのである。
手話通訳変換ソフト「Signapse」を使って、管理者が入力した文章による情報をAIアバターに反映させ、手話通訳を実施する。そうすることで、音声アナウンスと同じ内容の情報を迅速に伝える仕組みだ。
アメリカ各地の国際空港でも導入
このシステムの導入は鉄道駅のみにとどまらない。空港では、構内アナウンスで流れる飛行機の遅延や欠航の情報を、AIアバターがディスプレイで手話通訳する取り組みが実際に行われている。以下の動画はアメリカのシンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港での様子を取り上げたものだ。同空港では2018年以降、補聴器システムの拡充や車椅子支援、付き添い者用トイレの設置などのアクセシビリティ強化策を実施してきた。AIアバター手話通訳の導入は、その一環である(参照)。
今年9月にビデオ翻訳プラットフォームをローンチ予定
Signapse AIの公式サイトを見てみると、サイト自体が同社の技術を実証する場になっていることがうかがえる。
上の画像は公式サイトのFAQ部分だが、文章ごとに再生マークがついている。これをクリックすれば、AIアバターが該当の文章を手話通訳してくれるのだ。対応手話はイギリスのBSLとアメリカのASL。手話は世界共通言語ではなく、各国ごとに異なるため、今後は世界各国の手話への対応に期待したい。
なお、Signapse AIは今年9月までにビデオ翻訳のプラットフォームをローンチ予定としている。ピクチャーインピクチャー機能で、英国手話 (BSL)または米国手話 (ASL)の翻訳をビデオにシームレスに統合するソリューションのようだ。5月にシードラウンドで資金調達
Signapse AIは、今年5月にシードラウンド240万ドルを調達したと発表している。
言語業界メディアSlatorの記事によると、このラウンドではDeeptech Seed Fund、Soulmates Ventures、Royal Association for Deaf people、Empirical Ventures、CEAS Investments、The FSE Groupが参加し、180万ドルを出資。さらにイギリスのイノベーション機関Innovate UKも62万3,000ドルの助成金を投じている。
この資金は、今後動画の手話通訳機能の開発やBSLへの通訳精度向上に活用される予定だ。
参考・引用元:Signapse AI
(文・澤田 真一)
- Original:https://techable.jp/archives/242180
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:澤田真一