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AI活用した眼の検査でアルツハイマー病の早期発見を目指すRetiSpec、商業展開へ1,000万ドル調達

脳の神経細胞の働きが減退することで記憶力や判断力などが低下し、徐々に社会生活に支障をきたすようになる認知症。世界保健機関(WHO)が昨年公開した情報によると、世界では5,500万人超が認知症を患っており、毎年1,000万人近くが認知症になっているという。高齢化社会になり、認知症を患う人は今後ますます増えることが予想されている。

認知症にはさまざまな原因疾患があるが、最も多いのがアルツハイマー病だ。WHOは認知症の60〜70%がアルツハイマー病としている。この病気を早期に発見できるよう、カナダ企業のRetiSpecは人工知能(AI)を活用した眼の検査で発病を予測する手法の開発に取り組んでいる。同社は、商業化へ向けてこのほど1,000万米ドル(約14億円)を調達した。

網膜の画像を分析

カナダ最大の都市トロントを拠点とするRetiSpecは、眼科でよく行われるような目の検査にAIを取り入れ、アルツハイマー病を早い段階で予測する手法の開発を行っている。

具体的には、AIを用いて網膜の画像を分析し、タンパク質の一種であるアミロイドβの沈着を予測する。これにより、アルツハイマー病を早期発見できるのだという。これはアミロイドβの蓄積がアルツハイマー病の原因とされているためだ。

Image Credit : RetiSpec

では、なぜ網膜なのか。RetiSpecのウェブサイトによると、網膜を調べてアルツハイマー病の発見につなげる手法は米ミネソタ大学の研究者らによるもの。波長の異なる光を用いる「ハイパースペクトル画像法」を用いればアミロイドβを検出できることを確認したのだという。

この画像法が極めて重要な要素だが、網膜の状態などを調べる眼底検査はさほど特殊なものではなく、おそらく過去に受けたことがある人も多くいるのではないだろうか。眼底検査はカメラで眼底を撮影するというもので、特に痛みなどは伴わない。

RetiSpecが開発している手法はAIなどを用いて発展させており、診療現場でアルツハイマー病の可能性がないか評価するのに役立つとしている。なおこの手法は現在のところ、研究目的でのみ使用されている。

早期の治療に扉

アルツハイマーは徐々に進行していく病で、根本的な治療法は残念ながら現在のところない。だが、進行を遅らせるような新薬が開発されつつあり、日本では厚生労働省が日本と米国の企業が共同開発した薬を昨年承認している。

アルツハイマー病を早期に発見できれば、早く治療を開始したり、適切な支援を受けたりなど、患者の生活の質を向上することも期待できる。

差し当たってRetiSpecは、革新的な治療の導入を促進するための活動をしている米国の非営利組織グローバル・アルツハイマー・プラットフォーム・ファンデーションがスポンサーとなって行われる研究に参加する。認知能力が低下している人と正常の人合わせて1,000人のサンプルを用いて、RetiSpecの検査を含むアルツハイマーのマーカーと診断の基準の関係性を調査するという。

研究で有用なデータが得られれば、同社が目指す商業化に向けて大きく前進しそうだ。

累計調達額は1,700万ドルに

同社の今回の資金調達はカナダのベンチャーキャピタルiGan Partnersが主導し、新規出資者としては米製薬大手のイーライリリー・アンド・カンパニーや医療機器・ソフトウェアのトプコンヘルスケアが参加した。既存投資家からは、自動車や航空宇宙産業向けの電気光学製品などを手がけるジェンテックス・コーポレーションや、ミネソタ大学のディスカバリー・キャピタル、オンタリオ脳研究所などが出資した。

今回のシリーズAにより、2016年創業のRetiSpecの累計調達額は1,700万米ドル(約25億円)となった。資金調達とともに、同社はトプコンヘルスケアの最高商業責任者(CCO)を役員に迎え、商業展開に向けて着実に準備を進めていく構えだ。

RetiSpecの最終目標は、AIを用いてアルツハイマーだけでなく他の神経変性疾患とアルツハイマー治療薬の副作用を診断する手法を開発することだという。

参考・引用元
PR Newswire
RetiSpec

(文・Mizoguchi)

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