パンデミック期間中、感染対策の結果としてインフルエンザやRSウイルスなどの一般的な呼吸器感染症が大幅に減少、喘息の増悪症例が減少したのだが、2021年以降はリバウンド現象が発生。COVID-19後遺症に苦しむ人も多いなか、昨年中国では呼吸器疾患の急増なども報じられた。今年5月のWHOの発表では、 世界中で2億5,000万人以上が喘息を抱えて暮らしており、2019年には喘息によって推定45万5,000人が死亡していることに言及している。
慢性的な呼吸器疾患は日本でも身近な病いだ。たとえば喘息は、子どもだけでなく、大人になってからも悩まされる人が少なくない。日本呼吸器学会によると、日本では子どもの8~14%、成人の9~10%が気管支喘息だという。
胸に貼る「スマート聴診器」で通院コスト軽減
慢性呼吸器疾患に苦しむ患者は、気軽に外出できないケースもある。また、対応できる医療施設の充実度が都市部と地方とで異なるため、状況によっては旅行や帰省のハードルも高い。
そこで、シンガポールのスタートアップAevice Healthは、胸に貼り付けるだけで発作の初期兆候を検出するウェアラブルデバイス「AeviceMD」を開発。医師へ迅速にデータを送信することで在宅診療を実現し、患者を悩ませる多くの問題の解消に取り組んでいる。なお同デバイスは医療機器としてFDA認証を取得済みで、CES 2023では「スマート聴診器」として注目を集めイノベーションアワードを受賞した。
開発当初は小児喘息患者向けの発作予測ソリューションだったAeviceMD。だが、公式サイトを見る限り現在は成人患者も利用可能のようだ。デバイスとアプリ、プラットフォーム全体で遠隔患者モニタリングソリューションが構成される。普段は充電ポートに格納されている本体デバイスは、コインサイズの円盤状。侵襲性の低さが特徴であり、胸に貼り付けるだけで心拍数や呼吸数、肺音、喘鳴(いわゆる「ゼーゼー」という異常呼吸)を継続的に探知して、発作の初期兆候を検出するというものだ。
患者と医療従事者の双方にメリット、治療アクセシビリティ改善
デバイスで取得したデータはアプリ上に記録・保存され、AeviceMDの情報共有システムを導入する医師にも送信される。患者情報はプラットフォーム上で常に一括管理が可能であるため、医師は後から音声を再生・確認したり、以前のデータとの比較も可能だ。これらのデータに基づく正確な臨床決定で、緊急性が高まる前に迅速な判断をくだすことができる。
患者と医師の双方が録音記録や投薬履歴を共有することで、治療に関するスケジュールを立てやすくなるなどのメリットもあるかもしれない。患者側は通院にかかる時間と労力が省けるだけでなく、発作の兆候を事前に予測できるようになることで、苦しい状態で待合室で長時間待つことも避けられ、さらに緊急度の高い救急診療が減ることにつながれば、病院の業務軽減にもなる。日本でも人手不足などにより救急外来の維持が難しくなっているが、AeviceMDのような遠隔診療が普及することで、患者と医療施設側双方の負担軽減が期待される。
名門理工大のスピンオフとして誕生、CEOは小児喘息当事者
Aevice Healthは、シンガポールの国立名門工科大であるナンヤン理工大学(NTU)のスピンオフとして誕生した医療テック。創設者にして2018年からCEOを務めるAdrian Ang氏は同大学で学士および理学修士号を取得した人物だ。
グローバルに起業家を育成する「テクノプレナーシップ&イノベーションプログラム」の出身者だ。NTUの同プログラムはベンチャー創出サイクルを模したもので、参加候補生は起業家スピリットの考え方や基礎的なビジネス知識を習得できる。
Adrian Ang氏自身が小児喘息の当事者であり、喘息患者特有の悩みを身をもって体験した。両親にこれ以上心配をかけたくないという思いが原動力となって起業につながったという。日本企業からの投資は2度目、日本での商品化進む
注目すべきは日本の電子機器メーカーのエー・アンド・デイだ。Aevice Healthが日本企業から資金を獲得するのは今回で2度目となる。2021年のプレシリーズAラウンドでは280万ドルを調達した際、同ラウンドに参加した東邦ホールディングスとの戦略提携を締結している。
このとき調達した資金は技術開発だけでなく、AeviceMDのソリューションを日本に拡大するために投入されると発表された。日本全国で医薬品や医療器具の卸売りを行う東邦ホールディングスと協力して、日本での開発と商品化を目指す。
(文・澤田 真一)
- Original:https://techable.jp/archives/242800
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:澤田真一