宇宙飛行士が身につける宇宙服には、過酷な宇宙環境に適応するためにさまざまな技術が詰め込まれている。そのなかの1つが“ネットワークユニット”だ。宇宙飛行士が互いに通信し、重要な任務を遂行するためには高度な通信機能が必要とされる。
今年8月、フィンランドの通信機器メーカーNokiaと、民間主体で宇宙開発を行う米国企業Axiom Spaceが協力し、NASA主導の月探査計画「アルテミス計画」の初の有人ミッションである“アルテミスIII”で使用される次世代宇宙服に、高度な4G/LTE通信機能を統合することを発表した。Axiom Spaceは、元JAXAの若田光一氏が宇宙飛行士兼アジア太平洋地域CTOを務めることでも知られる。
アルテミスIIIで使用する宇宙服に4G/LTE通信機能を統合
今回高速通信機能を搭載するのは、「アルテミスIII」で使用される“次世代宇宙服”、Axiom Spaceの「AxEMU(Axiom Extravehicular Mobility Unit)」だ。
AxEMUは、アルテミスIII月探査ミッションの着陸候補地点である月の南極付近の過酷な環境に耐えられるように、機動性を向上し保護・強化された宇宙服。宇宙探査のための高度な能力を宇宙飛行士に提供すると同時に、月へのアクセスや月周辺での生活、作業に必要とされるヒューマン・システムをNASAに提供する。
これまで、月面における有人ミッションの通信にはUHF(Ultra High Frequency)の極超短波が使用されてきたが、今回NokiaとAxiom Spaceは、このAxEMUに高度な4G/LTE通信機能を統合することを発表。これにより月面での数キロメートルを超えるHDビデオ、遠隔測定データ、音声の伝送をサポートし、乗組員同士の通信にくわえ、HDビデオを地球へ送信することが可能となり、宇宙探査の前進が期待される。
具体的には、アルテミスIIIの乗組員が月面を探査しながらリアルタイムで映像を撮影し、地球の管制官と通信できるようになるという。
月面環境と宇宙飛行のストレスに耐えうる通信システム
Nokiaは、2024年内に予定されている、米スタートアップIntuitive Machines社の月面着陸ミッション「IM-2」の一環として、月面に初のセルラーネットワークを展開する予定だ。Nokiaが開発した4G/LTE通信機能を月面に輸送し、地球上とは異なる月面環境で機能するかどうかを実証するものとなり、注目を集めている。
Nokiaの月面通信システム(Lunar Surface Communications System:LSC)は同社ベル研究所によって開発されたもの。この完全自律型LSCSは地上セルラーネットワークの無線、基地局、コアネットワーク要素を1つのユニットにまとめたボックスや、AxEMU宇宙服に組み込むデバイスモジュールのコンポーネント2つなどで構成されている。いずれも月面の環境条件と宇宙飛行のストレスに耐えるよう慎重に設計されており、サイズ、重量、消費電力が最適化されている。
月や太陽系をより深く理解するための一歩に
Nokiaは、1865年に設立されたフィンランド発の通信機器メーカー。約10年前の“ノキア・ショック”を経て以来復活を遂げ、モバイルやクラウドネットワークなどの通信サービスを手がけながら現在130以上の国で事業を展開。2023年の純売上高は223億ユーロにのぼる。
今回Nokiaと提携したAxiom Spaceは、有人宇宙飛行サービスのプロバイダーであり、有人対応宇宙インフラの開発企業。ISSへのエンドツーエンドのミッションを運用するとともに、ISSの後継機としてNASAに採用された民間初の宇宙ステーション「Axiom Station」の開発や、次世代宇宙服の製造を行っている。NASAは、持続可能な探査環境を実現するためにより帯域幅が広い通信を必要としている。今回のNokiaとAxiom Spaceの提携は、宇宙探査における重要な前進となり、月や太陽系、そしてその先の世界をより深く理解することを可能にすると期待される。
参考・引用元:
Nokia
Axiom Space
GlobeNewswire
(文・Haruka Isobe)
- Original:https://techable.jp/archives/245004
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:Haruka Isobe