2025年をもって50ccの原付マシンが姿を消すというニュースが世間を騒がせています。同年に50ccにも適用されるようになる排出ガス規制に、現行モデルでは対応できなくなるというのがその理由。それ以降は125ccモデルをパワーダウンしたバイクが原付一種扱いとなり、原付免許で乗れるようになります。
125ccの車格を持つバイクに原付免許で乗れるのは、ある意味うれしい部分もありますが、最高出力は4kW(5.4PS)以下に抑えられるとのこと。かつて50ccマシンのパワー上限値は7.2PSで、多くのマシンがその数値を達成していた時代を知る者としては少し寂しさも感じます。そこで、その時代に“最速”なんて呼ばれていた50ccマシンを振り返ってみました。
1. ホンダ「NSR50」
最速の50ccマシンとして多くの人が思い浮かべるのがホンダの「NSR50」でしょう。1987年に初期型が誕生し、最高出力は7.2PS/10000rpmを発揮。前後12インチのホイールでキビキビしたハンドリングを実現していて、当時の峠やミニサーキットを席巻しました。1989年にはモデルチェンジし、サイレンサーの位置が高くなり当時のGPマシンのようなルックスとなります。
ただ、サーキットを走る人の間では、前期型のサイレンサーのほうが高回転が伸びるという話も多く聞かれました。実は筆者も高校生のときに初めて購入したのが「NSR50」でした。中古車だった上、すぐにミニサーキットに通い、数え切れないほどころんだので、あっという間にボロボロになりましたが…。でも、そういう高校生が当時はいっぱいいたんです。
1995年には再びモデルチェンジを受け、ホイールが6本スポークに。それ以外にもインテークチャンバーが装備され、点火方式が見直されるなど細かな進化を遂げています。足回りにもプリロード・アジャスター機構が採用されました。ただ、排出ガス規制が厳しくなったことで1999年モデルを持って生産を終了してしまいます。
2. ホンダ「NS50F」
「NSR50」と同じ1987年に登場したのが「NS50F」。こちらは前後17インチホイールを採用したいわゆるフルサイズと呼ばれる車格でした。最高出力は7.2PS/8000rpm。エンジンの基本設計は「NSR50」と共通ですが、ポートタイミングなどが異なるようで、「NSR50」のシリンダーに替えると高回転が伸びるようになるという話もありました。
翌年の1988年には早くもモデルチェンジが行われ、排気ポートやマフラーの形状などが見直されています。さらに1989年にもモデルチェンジを受け、最高出力の数値は同じですが発生回転数が10,000rpmとなり、高回転が伸びるようになりました。モデルチェンジサイクルの早さに、この時代の50ccスポーツモデルがいかに激戦であったかが現れていますね。
ちなみにこのマシンをベースにHRCが「NS50R」というレース専用モデルも販売していて、17インチのフルサイズのミニバイクレース入門機として支持を集めていました。また、同系列のエンジンを搭載したフルサイズの「NS-1」も1991年に登場し、タンク部分がメットイン構造になっている作りが話題になりましたので、そちらを覚えている人も多いかもしれません。
3. ヤマハ「TZM50R」
ヤマハが「NSR50」に対抗するために1994年に投入したのがこのマシン。それ以前の同社の12インチモデルには「YSR50」がありましたが、これは空冷エンジンで最高出力が7.0PSと劣っていたため、17インチの「TZR50」の水冷エンジンを搭載して登場しました。この「TZR50」も7.2PSを発揮し、評価の高いマシンでした。
エンジンはポート形状や点火タイミングなどが見直されていて、ベースモデルよりも高回転型に。既にレーサーレプリカブームが下火になっていた時期ですが、市場での売上というよりはミニバイクレースで「NSR50」に負けっぱなしではいられないというヤマハの意地を具現化したようなマシンでした。1993年にGP250で世界チャンピオンを獲得した原田哲也のレプリカカラーが登場したのも、個人的には胸熱だったのを覚えています。
4. スズキ「RG50Γ」
「NSR50」や「NS50F」が登場するまで、50ccクラスで“最速”と呼ばれていたのが「RG50Γ」です。登場したのは1982年ですが、最高出力は既に7.2PSを発揮していました。スズキの2ストレーサーレプリカの代名詞になっている「Γ(ガンマ)」という名称が初めて用いられた市販車もこのマシンです。
1988年にはフルカウル仕様が、1989年にはカウルレスで丸目仕様の「ウルフ50」が追加に。登場時はフロント17インチ、リア18インチというホイール径でしたが、1990年からは前後17インチとなり、1995年まで生産されていました。7.2PSの上限馬力を達成した水冷エンジンに6速ミッションというその後の原付スポーツマシンの基本となる組み合わせは、このマシンから始まったといえるモデルです。
5. カワサキ「KSR-Ⅰ」
“最速”と呼ばれてはいませんでしたが、独自の世界を築いていたのが「KSR-Ⅰ」です。登場したのは1990年。その頃、少し流行っていたオンロードとオフロードを組み合わせた“スーパーバイカーズ”というレースのマシンを模した作りでした。エンジンの出力は7.2PS/8000rpmで、フロントフォークには倒立フォークを採用しているのが当時は新鮮に見えました。
ホイールは前後12インチですが、ややブロックタイプのタイヤを履いているのがスーパーバイカーズっぽいところ。ホイールは2ピース構造で、ミニバイクレースなどに使用するには重くて剛性が低かったようです。排気量が80ccの「KSR-Ⅱ」もあり、2ストロークエンジンが規制によって姿を消した後は、4ストエンジンを搭載した「KSR110」にバトンを渡すことになります。
<文/増谷茂樹>
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/644374/
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