出版社を退職後、フリーランスの編集者・ライターとして25年以上仕事を続けている筆者ですが、たまに異業種の方に会うと、こんなことを言われることがあります。
「カッコ良いですね、フリーランスのエディター」「普段はバランスボールにまたがって仕事をしていたりするんですか?」……今なお「カタカナ職」は「カッコ良い」と思われる方や、何かのITベンチャーとゴッチャになっている方は結構いるようで、バランスボールにまたがり、自由気ままなオシャレな環境で仕事をしているのだと誤解されることがあります。
実際はその真逆。筆者は様々なジャンルの書籍を編み、原稿を書き、なんなら写真もデザインもやるという「メディアの便利屋さん」みたいな仕事の仕方なので、常に資料は増える一方であり、デスク周りは常に地獄絵図のような惨状となっています。
8年ほど前からWEBメディアの仕事を始めるようになってからはさらに時間に追いまくられ、さらに仕事場は資料に埋もれ、そして整理している暇などないといった状況が続くようになりました。
そんな矢先、仕事場の隣の区にある実家の父が亡くなりました。生前、父は小さいながらもアパートを運営していて、亡くなった後にたまたまその一室に空きが出ました。そのアパートは、いずれ長男である自分が管理しなければならないのだし、仕事場の地獄絵図もなんとかしたいしで、その空いた一室を筆者が借りることにしました。その一室に、仕事場の膨大な資料をまずは移動させることにしましたが、しかし、当然新しい部屋には棚などは全くない状態。「イチから綺麗にする」「整理する」ことを目指して、チョイスしたのが唯一無二の本棚ブランド「マルゲリータ」でした。
■多くの作家・出版社ほか、所蔵本が多い人に愛されてきた本棚
「マルゲリータ」は、建築設計事務所が開発・デザインする収納家具ブランドで、代表的なシェルフ式の本棚は、多くの作家さんや出版社に採用されてきています。人気ユーチューバーのメンタリストDaiGoさんも動画の中で、この「マルゲリータ」をバックに鋭い話をいくつも紹介されていて、言わば知的でオシャレな彼のイメージを高める役割をも果たしています。
「マルゲリータ」は汎用的なサイズを用意した、既製品のセットがあり、おきたい空間にズバリこれらがそのままハマるのであれば、そのほうが格安です。
一方、空間に合うサイズがなかったり、起きたい場所にコンセントや窓などがあった場合は当然あります。「マルゲリータ」がすごいと思うのは、こういった「空間ごとに異なる事情」に対し、加工やオーダーなどを柔軟に受け付けてくれていること。
この点は、「売りっぱなし」の既製家具ブランドと一線を画すところで、建築設計事務所だからこそでき、そして人々の暮らしに寄り添ってきたからこその良心的サービスのように感じます。
■一面オーダーのはずが、眠っていた「マルゲリータ」も再利用して二面オーダーに
実は筆者、以前仕事場として借りていたマンションで「マルゲリータ」を複数台購入し、設置していた時期がありました。しかし、今いるマンションに引っ越すことになり、空間のサイズが合わなくなったため、そのまま分解し眠らせていました。
また、今回改めて設置を考えている部屋の壁には真ん中に窓があります。これは前述の既製品ではなく、オーダーで適切な本棚を作ってもらうほうが良いだろうと、改めて「マルゲリータ」に相談しました。
すると、かつて筆者が購入した複数台の「マルゲリータ」のデータが残っており、この「眠っているマルゲリータ」を加工するなどして使えば、もう一面の本棚ができると言います。もちろん、真ん中の窓を活かした本棚のオーダーも「お任せください!」とのことで、数日後にスタッフの方が採寸に来てくれました。
■オーダー本棚、加工本棚2台の気になるお値段は…
やはり、壁一面にビタビタに本棚がハマるのがベストで、採寸しに来てくれたスタッフの方にも改めて意向を伝えましたが、採寸後、後日送られてきた設計図を見て大興奮。まさに、筆者が求めていた本棚そのものでした。
感動を覚えるほどでしたが、ここで気になるのがそのお値段。採寸にまで来てくれ、さらに設置の際もスタッフの方が来てくれるというので、その見積もりが気になっていましたが、総額で25万7000円(税込)。真ん中の窓を活かした本棚のオーダー、そして眠っていた本棚の加工費を加えて考えれば、筆者としては御の字。何より2面も使って壁一面の本棚ができることにテンションが爆上がりするのでした。
■完成・設置された2台の本棚を前に感無量(涙)
迷わずそのまま依頼し、数週間後に「できました」の連絡が。設置日を取り合わせて後日、改めてスタッフの方が納品組み立て・設置に来てくれました。
スタッフの方が手際良く納品・組み立て・仮設置をしてくれました。2面分の本棚にして、仮設置までわずか1時間弱ほど。少しずつ組み上がっていく本棚を前に高揚感が抑えきれません。
そして、仮設置された2面分の壁一面の本棚を見てさらに大感激。これぞ筆者が望んでいた本棚です!
細部の各所も実に細やかで、本棚を置く壁にあるコンセントジャック、スイッチなども活かせるように加工してくれ、生活に不便が出ないようにもしてくれています。
そして、後日、本棚のてっぺんの面に「フィラー板」という転倒防止の板をハメにも来てくれました。設置した本棚と天井との相互関係で、どうしても1〜2ミリ程度のズレが生じることがあるため、いったん設置してからでないと作れず、そして意味をなさないものだとのこと。この「フィラー板」を挿したところで設置完了。
組み上がった本棚を前に感動と合わせて「今度こそ綺麗に過ごそう」と心に誓う筆者でした。
■当初は代表自ら発送していた「マルゲリータ」
ここまでの話はあくまでも筆者個人の話なわけですが、「マルゲリータ」の秀逸ぶりに改めて感激し、「周辺商品も見てみたいし、記事にもしたい」と後日天王洲アイルにある「マルゲリータ」ショールームを訪ねました。すると、「マルゲリータ」代表で一級建築士の倉田裕之さんが、これまた丁寧に応じてくれました。
聞けば、「マルゲリータ」は倉田さんが、かつて建築の設計・プロダクトデザイン双方の仕事を行なっていた頃に開発したものだと言います。
「最初に仕事を始めた頃は、依頼主からのオファーによる建築の設計・プロダクトデザインがメインでした。特にプロダクトデザインは、クライアントに対して『こんな合理的なデザインはどうでしょう?』と提案しても、『確かに良いかもしれないけど、それを作る予算も商流もないから無理だ』と言われることが大半でした。つまりそのプロダクトが良いもの・悪いもの以前に『売っていく手段がない』と言われることが多かったわけです。
その度に残念な気持ちになりましたが、同時にヒントにもなりました。
工業製品でイチから商品を起こす場合、金属や樹脂素材であれば必ず金型が必要で、この金型を作ることにまず莫大な費用がかかります。そのハードルがまず高いのですが、木工製品であれば金型が要らず、仮にその商品にニーズがなかったとしても、リスクを最小限で抑えられわけです。
そんな中で、思いついたのがこの『マルゲリータ』という本棚で、当初は僕にとっては副業で注文があれば、スタッフのうち僕1人で木材を発注をして、納品後すぐに梱包して僕が発送する……』というような感じでした(笑)」(倉田さん)
日本の木造建築の技法の応用で「背板がない」本棚実現へ
しかし、その本棚の構造は、倉田さんが長年培った知見でしか思い浮かばないものでした。特に象徴的なのが、「マルゲリータ」の本棚の四隅に挿さる「斜めの板」。これは日本に多い木造住宅の建築技法を応用したものだと言います。
「火打梁(ひうちばり)というものですね。
そもそも『マルゲリータ』の本棚には、基本的には背板がありません。本来、1コマ30キロ以上という『本』の重量に耐え、さらに縦2メートル以上もある本棚を作る場合は、背板などを使って耐えうる強度を確保する必要があります。しかし、背板があると、発送する際に巨大な板を送ることになるため、どうしてもコストがかかり、また一般の人が使い慣れない工具なども必要になります。
『最小限の資材で、さらに簡単な組み立てで、配送の負担も減らしながら背板を用いずにいかにして強度と維か』という課題を前にしてヒントとなったのが火打梁でした。日本の木造住宅の床組みに多く用いられてきたものです。
木造住宅の床を組む際に、ひしゃげることを防ぐために、四隅に斜めの板を入れるのですが、この技法を本棚にも応用しました。このことで十分な強度を確保し、コストも抑え、特別な工具などがなくても簡単に組み立てられる『マルゲリータ』を実現させました」(倉田さん)
■美しさ・合理性全てを実現させた本棚の名作
倉田さんの話を聞き、筆者は、プロダクトデザインの巨匠・ジョルジェット・ジウアジアーロが、外観デザインだけでなく流通やコストの問題をも解決したフィアット・パンダという小さな名車を思い出しました。
無駄のないデザインの素晴らしさだけでなく実用面でも優れたフィアット・パンダと、倉田さんが開発した「マルゲリータ」が、どこか被って感じられたのです。
「僕はもともと日本の工芸品とか、質素でも洗練された意匠の数寄屋建築が好きなんです。『理にかなっている』『無駄がない』『でも美しい』といったもので、逆に、過度に飾る装飾というものが非常にイヤなんですね。
一番の理想は『躯体(くたい)の段階で美しい』『綺麗だ』といったもの。そこを目指したのが『マルゲリータ』でもあります」(倉田さん)
当初はシンプルなところが「マルゲリータ」の一番の魅力だと思っていましたが、そこに至るまでの開発経緯を倉田さんから聞き、その奥深さと素晴らしさを実感。ひいては筆者が25年以上続ける「文章による伝達」についても再点検する必要があるとも思いました。
本に関わるプロたちはもちろん、プロダクトにこだわる人たちをも魅了し続ける「マルゲリータ」。今回のオーダーの経緯と倉田さんから聞いた話によって、その凄さと魅力を深く実感し、大事に使い続けようと改めて心に誓いました。
<取材・文=松田義人(deco) 、写真:中西ふみえ、松田義人>
松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/671327/
- Source:&GP
- Author:&GP