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“美しすぎるカメラ”で話題のSIGMA「BF」をプロが体験。潔さの中に宿る写真機としての本質とは

【趣味カメラの世界 #22】

カメラを選ぶとき、スペックや機能はもちろん大事。しかし、もっと直感的に、「見た目が好きだから」「このかたちに惹かれたから」という理由で選んでもいいはずです。SIGMA(シグマ)の新作「BF」は、まさに“見た目で選びたくなる”一台。潔いデザインは、スペック表には載らない魅力であふれています。

フォトグラファーの田中利幸さんが、このカメラを実際に使って、その使用感やデザインの魅力を掘り下げます。

監修・執筆:田中利幸(たなかとしゆき)|ファッション誌などでブツ撮りやポートレートを中心に活動するフォトグラファー。カメラ・ガジェット好きで自身で運営するブログ「Tanaka Blog」において、カメラやガジェットに関するちょっとマニアックなことを書いている。

 

*  *  *

SIGMAが6年ぶりに送り出したフルサイズミラーレスカメラ「BF」(38万5000円 ※ボディのみ)。マットで落ち着いたシルバーのボディは、なんだか“道具感”があってとても上品。今回は、このカメラを用いて、実際の操作感やデザインの魅力について、じっくり紹介していきます。

■そぎ落としすぎ?いえいえ、それが“SIGMA流”です

まず手にした瞬間に感じるのは、その異様なまでの“潔さ”。ボタン類は最小限で、軍艦部の突起もなく、正面から見ると「これ、本当にカメラ?」と思うくらいシンプルな見た目です。アルミ削り出しのボディは、金属の塊みたいに無骨なんですが、どこか品があって、手に持つとしっくりきます。

“写真を撮るための道具”という枠をちょっと飛び越えて、ひとつのプロダクトとしての美しさがちゃんとある。これって、今までのカメラにはあまりなかったアプローチじゃないかなと思いました。

エッジの効いた直線的なフォルムに対して、手に触れる部分の角には、ほんのりと丸みがあって。そのあたりの使いやすさへの気配りも、ちゃんと考えられているんだなぁと思います。

「ここまでそぎ落とす必要ある?」なんて声があるのも、たしかにうなずけるんですが、むしろこの思いきった割り切りに、SIGMAのブレない美意識と、作り手たちの自信がしっかり詰まっている気がしました。

■独特だけどクセになる。シンプル設計が生む“撮ること”への没入感

操作まわりも、見た目に負けずちょっと個性的。ボタンの数はほんとうに最小限で、一般的な一眼カメラと比べると、「こんなに少なくて大丈夫なのか」と心配になるほど。

私は普段、使っているカメラにあれこれとカスタマイズを加えて、自分仕様に設定しているタイプなので、最初はこの“ボタンの少なさ”にちょっと戸惑いました。

ただ、シャッターを半押しすると露出補正ができるのはとても便利で、今回の撮影は、基本的にシャッタースピードをその都度調整しながら、ISO感度はオート、絞りはレンズ側のリングで設定。そして、半押し状態で露出補正をして好みの明るさに仕上げる、というスタイルに落ち着きました。

最初はちょっとクセがあるなと思っていた操作性も、数日使ってみると、これが実に合理的。むしろ、撮影の流れがスムーズになるくらいで、「これでいいじゃん」と自然に馴染んできました。

もちろん、すべてをマニュアルで細かく操作しようとすると、ボタンの少なさがネックになって、ちょっと手間に感じることもあります。けれど、ISOはオートにして、あとはその場の明るさや気分に合わせて、ゆるっと調整しながら撮る。そんな“少し肩の力を抜いた使い方”が、このカメラには合っているのかもしれません。

撮影中は、写真のように背面液晶の情報表示をオフにして、右上の小さな液晶に必要な情報だけを表示させていました。

全体的に操作には少しクセがありますが、慣れてくると「写真に集中できる環境が整っている」と感じます。むしろ、これまで一般的なカメラに触れてこなかった人や、スマホから写真を始めた人にとっては、こちらのほうが自然に感じられるかもしれません。

複雑なメニューに煩わされることなく、構えて、撮る。それだけに集中できる感覚は、新鮮でありながら、どこか心地よさもありました。

■ミニマルな外観に隠された、最新カメラとしての性能

デザインのことばかり話してきましたが、中身だってちゃんと今どきのカメラです。起動の速さやオートフォーカスの精度、シャッターを切るときの反応のよさなど、どれを取ってもとても優秀で、使っていてストレスを感じることはほとんどありません。

「撮りたいな」と思った瞬間に、サッと構えてすぐに撮れる。この気軽さは、スナップ撮影にぴったりだなと感じました。

ボディはまさに“金属の塊”という感じで、手に取るとしっかりとした重みがあります。しかし、実はバッテリー込みでも重量は500g未満。フルサイズセンサーを搭載したカメラとしては、かなり軽い部類に入ると思います。

バッテリーは450枚ほど撮影した時点で残量約12%。1日撮り歩くくらいなら、ひとまず安心といった印象です。

バッテリー自体はスティック型でとても軽く(約58g)、予備を1本バッグに入れておいてもまったく気にならないので、荷物を増やしたくない人にも優しい仕様です。

カメラ本体にUSBケーブルをつないで充電できるのはもちろん、別売のバッテリーチャージャーを使えば、バッテリーを2本同時に充電することもできます。

背面液晶は表示がとてもキレイで、タッチ操作の反応もスムーズ。操作感としてはかなり快適です。

ただ、気になるところがないわけではありません。まず、液晶の輝度がやや控えめなので、晴れた日の屋外では少し見づらいと感じる場面もありました。それから、液晶は固定式で、チルトもバリアングルもできないため、ローアングルや自撮りには少々不向きかもしれません。

最近の一眼カメラは、液晶が動かせるタイプが主流なので、固定式の背面液晶はちょっと珍しい存在かもしれません。実際に使ってみると、ローアングルなどでは工夫が必要になる場面もありましたが、そのぶん構造がシンプルなので、安心感があるなとも感じました。

それに、可動部を省いたことで、ボディがとてもスリムに仕上がっているのも魅力のひとつ。横から見たときの薄さは、フルサイズセンサー搭載とは思えないほどでした。

バッテリーの底面には、カメラ底部と同じ素材の滑り止めが使われていて、見た目にも手触りにも一体感があります。細かいところまでしっかりデザインされていて、ちょっと感心してしまいました。

そして、もうひとつの大きな特徴が「内蔵メモリー搭載」という点。SDカードなどの外部メディアには対応しておらず、保存はすべて本体内に行うスタイルです。その分、カードスロットもなく、ボディのミニマルな佇まいがさらに際立って見えます。

「うっかりメモリーカードを忘れた…」なんていう、ありがちなミスとも無縁。カメラをひとつ手にして、ふらっと出かけて、気軽に撮る。そんな“原点回帰”のような楽しみ方ができるのも、このカメラの魅力だと思います。

■どんなレンズと付き合うか。Lマウントで広がる「BF」の楽しみ方

本モデルはLマウントを採用していて、レンズの選択肢が豊富なのも魅力のひとつ。今回は、同じSIGMAの“iシリーズ”のレンズを組み合わせて使ってみましたが、やっぱり見た目の統一感もあって、このセットがいちばんしっくりきます。

撮影は絞り優先オートに近い設定で行っていたのですが、レンズ側に絞りリングが付いているおかげで操作もスムーズ。手になじむ感覚も心地よく、撮っていて楽しい組み合わせだなと感じました。

ただ、今回借りたレンズの中では比較的小ぶりな「24mm F3.5 DG」(価格未定)ですら、やはりフルサイズ対応ということもあって、それなりのサイズ感はあります。

ふだん仕事で大きめのレンズを使い慣れている自分からすると「全然コンパクトじゃん」と思うのですが、「BF」のボディがあまりに小さいので、どうしてもレンズだけちょっと大きく見えてしまう気はしました。

本モデルとiシリーズレンズの一体感は本当に見事で、「このカメラにはやっぱりこのレンズだよなぁ」と思わせてくれる組み合わせです。

とはいえ、フルサイズ対応のレンズだけあって、それなりに存在感があるのも事実。見た目のバランスとしては、ややレンズ側が主張強めに感じられるかもしれません。

それでも、フードを外してしまえば、見た目は意外とコンパクトに収まります。さらに、LマウントはSIGMAだけでなく、パナソニックやライカといった他メーカーのレンズも使えるので、選択肢の幅が広いのも魅力。

小ぶりなオールドレンズを合わせてみるなど、いろいろ試してみたくなる楽しさがあります。

■見た目だけじゃ語れない。SIGMA「BF」の奥深さと魅力

今回のカメラは、いわゆる“カメラっぽさ”をぐっとそぎ落として、ちょっと不思議な魅力を持った1台です。

手にしたときのひんやりした金属の質感とか、意外とずっしりくる重みとか、「あ、これは何かが違うぞ」っていう感じがするんです。でも、見た目のミニマルさとは裏腹に、ちゃんとカメラとしての性能もバッチリで、そのギャップがなんとも面白い。

私も最初はちょっと戸惑いましたが、使っていくうちに「このシンプルさ、けっこういいかも」と思えてきて。慣れてくると、むしろ余計なものがないぶん、写真を撮ることにだけ集中できるというか。なんだか不思議と“ちょうどいい”感覚に落ち着いてくるんですよね。

さて、このあとに載せているのは、実際に「BF」で撮ったスナップとポートレートの写真たち。見た目はストイックだけど、中身はしっかり“写せるカメラ”なんだなあと感じてもらえたらうれしいです。

▲ SIGMA BF+35mm F2 DG、シャッタースピード1/2000秒、F5.6、ISO100、カラーモード:POWDER BLUE

スカッと爽やかな青空のグラデーション、木々の細かいディテールなど、フルサイズセンサーらしい緻密な描写です。

カラーモードのPOWDER BLUEは少し浅めでややハイキーなトーンで青空との相性が良いと感じました。

▲ SIGMA BF+50mm F2 DG、シャッタースピード1/800秒、F2、ISO800、カラーモード:WARM GOLD

フルサイズセンサーならではの自然なボケ感がしっかり出ています。スマホの画像処理とはまた違う、やわらかくて奥行きのあるボケは、一眼カメラならではの魅力ですね。

感度を少し上げてもノイズが目立たないので、手ブレ補正がないこのカメラでも、シャッタースピードを稼ぎやすくて安心です。

▲ SIGMA BF+50mm F2 DG、シャッタースピード1/640秒、F4.0、ISO125、カラーモード:MONOCHROME

開け放たれたシャッターの前に、きれいに並べられたスニーカー。夕方の光と影が直線的に差し込んでいて、なんとなく気になって撮った1枚です。

こういうちょっとした瞬間も、軽くて起動が早いこのカメラなら、バッグからサッと取り出して、すぐにシャッターが切れます。

▲ SIGMA BF+50mm F2 DG、シャッタースピード1/125秒、F2、ISO3200、カラーモード:FOV CLASSIC YELLOW

大型センサーらしい、ふんわりとしたボケと細かなディテールが印象的な1枚。AFの人物検出もとても優秀で、しっかりと瞳にピントを合わせてくれました。

室内で少し暗めの環境でしたが、ISO3200でもノイズは気にならず、センサーの力を改めて実感しました。

スマホではちょっと物足りない。でも、いかにも“本格的”なカメラはなんだか気後れしてしまう。そんな人にこそ、一度このカメラを手に取ってみてほしいです。

徹底的にそぎ落とされたミニマルなつくりは、一見するととっつきにくいかもしれません。でも、そのシンプルさの中にこそ、写真を撮るたのしさの“はじまり”が詰まっている気がしました。

趣味としての写真に、静かに、でもしっかりと寄り添ってくれる。そんなカメラです。

>> SIGMA「BF」

>> 趣味カメラの世界

<取材・文・写真/田中利幸 モデル/田淵瑚都(@tako_ism)  取材協力/SIGMA>

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