刃物、わけても調理ナイフに関心がある男性も昨今では珍しくない。なぜなら料理そのものが趣味性を高めているから。特にモノこだわり派の読者にとっては、名門ツヴィリングの 「MIYABI」は重要な選択肢のはず。今回はブランド20周年記念ツアーから見えてきた“「MIYABI」を手掛ける人と技”をお届けする!
■刃物のまち関市
今をさかのぼること20年前の2005年。「最高の包丁を世界へ」の掛け声と共に生まれたツヴィリング「MIYABI」が、20周年記念ナイフコレクション「MIYABI 粋-IKI-」をリリース。これを期して、産地である岐阜県関市と工場を巡るツアーが開催された。取材陣が最初に土を踏んだのは700年に及ぶ関鍛冶の技を今に伝える「関鍛冶伝承館」である。
岐阜県関市が刀鍛冶の里として発展したことをご存じの方は多いだろう。関市の人口は約8万1000人、そのうち約7割が何らかの形で刃物製造業に携わっているというから、まさしく関市は「刃物を生み、刃物がはぐくむ、刃物のまち」なのだ。
このエリアは毎年10月に開催される「刃物まつり」で大いに賑わうという。またすぐそばを流れる長良川では鵜飼いによる天然アユ漁が行われており、季節到来となれば多くの料亭でアユ料理を堪能することができる。
■日独刃物技術の交差点、ツヴィリング関工場
ツアーのメインディッシュはもちろん、ツヴィリング関工場取材である。
「MIYABI」ブランド創立からその生産を担う関工場だが、日本食ブームと共に「MIYABI」の需要が増しても欠かさなかったのは「技の伝承」と「人材の育成」だ。
「20年ほど前、世界では日本食ブームが起こりました。タイミングを同じくして「世界一の包丁を作る!」という意気込みで設立されたのが『MIYABI』です。それはドイツの刃物の街・ゾーリンゲンで鍛え抜かれた“ツヴィリングの製鋼技術”と関市に受け継がれる“匠の技”の融合という、たいへんユニークな経緯から生まれたブランドと言えます」とツヴィリング日本法人(ツヴィリングJ.A.ヘンケルスジャパン)のアンドリュー・ハンキンソン代表は語る。
なるほど、双子マークで知られるツヴィリングは日本でも知られた刃物の名門だが、そのツヴィリングが関市の技を活かして生み出したのが「MIYABI」だとするなら、日本目線では(身近すぎて)気づくことのできない、包丁の魅力が引き出されているのではないだろうか?
■最高の包丁を生みだす多くの「手」
「刀造り同様、包丁造りも分業が基本です。しかしツヴィリング関工場ではほとんどの工程を内製化、一貫生産とすることで、フットワークの良いモノづくりを実現しています。関刃物の技の伝承という意味も含め、「MIYABI」は多くの工程で手作業を活かしています」とは、工場責任者の山田昌之さん。
「MIYABI」が歩んだ20年で鍛えられた若手職人と、ドイツ本国からも認められるマイスターが切磋琢磨する関工場ではあるが、「迂闊には近寄れないキレキレの職人聖域」といったピリピリした雰囲気ではない。風通しがよく、真面目で活発だ。
生産工程をざっとまとめると、硬度、錆び耐性、靭性を鋼材に与える「焼入れ」。熱処理によって発生した歪みを修正する「歪みとり」。刃の表面や峰(刃の上側)などを整える「研削・目通し」。ハンドル表面を整える「ハンドル研磨」。鋭い切れ味を包丁に与える「刃付け」が主なところ。
ツアー中、取材陣への「お試しチャレンジ」が行われた。熱処理された鋼材の反りをハンマーで修正する作業に挑んだが、結果…「ぜんぜん直せてないですね(笑)」との体たらくであった。
■「MIYABI 粋-IKI-」という20年目の到達点
刃物のまち岐阜県関市の自然と伝統、文化を映し込んだ記念モデルが「MIYABI 粋-IKI-」である。「MIYABI 粋-IKI-」はツヴィリング関工場に約200名いる職人の中でも「Meister Workshop」に属する9名しか手掛けることができないトップ・オブ・トップモデルだ。
「月虹(げっこう)」と呼ぶダマスカス模様は、異なる金属素材を49層重ねて鍛造された「MIYABI 粋-IKI-」だけの表情。イメージソースは水面に映る月で、ブレードの断面形状は刃が入りやすく身離れのいいハマグリ形状である。
ハンドルは天然メープルの瘤(こぶ)材だ。瘤材は組成の均一性が低いため通常あまり用いられることがない。職人にとっては「正直、あまり使いたくない素材」だが、独特の木目の魅力もあって、「Meister Workshop」での量産を決断したという。
「Meister Workshop」で「MIYABI 粋-IKI-」の研削を担当する製造現場リーダーの加藤伸一さんは言う。
「「MIYABI 粋-IKI-」のハンドルは直線と曲線が組み合わさった複雑な形状で、加工難易度は高いと言えます。私が行っているのは言わば、見た目ではわからない“握った時の違和感”を消す作業です」。
「Meister Workshop」ではハンドル瘤材の接着工程、水研ぎ、瘤材の穴埋め、バフ掛けなどを行う。「MIYABI 粋-IKI-」は小刀(税込3万8500円)、牛刀(同6万6000円)、三徳(同6万500円)の3モデルで構成されるが、刃型ごとに瘤材からハンドルを削り出す加工法は、ツヴィリング関工場でも“異例中の異例”だという。
「MIYABI 粋-IKI-」はもっともポピュラーな三徳包丁で6万6000円をつける高級品である。しかしそこには手を動かす多くの職人たちの“こころ粋”が込められている。ドイツブランドの最高級ラインが日本の関市で生まれていることを、われわれは誇りに思っていい。
追伸:「切れ味はどうか」って? 心配するだけ野暮ってものです!
<取材・文/前田賢紀>
前田賢紀|モノ情報誌『モノ・マガジン』元編集長の経験を活かし、知られざる傑作品を紹介すべく、フリー編集者として活動。好きな乗り物はオートバイ。好きなバンドはYMO。好きな飲み物はビール
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/681674/
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- Author:&GP