台湾の高校以下の学校の多くでは、昔ながらのコットン100%の帆布製のバッグを指定鞄に採用しています。また、同様の帆布素材は工事などの業務用バッグ、軍用品などでもよく目にしますが、台湾に根付いた帆布を素材にした一般向けにオシャレにデザインしたバッグも数多くあります。
日本人の間でも、台南の帆布専門店で「オシャレな帆布バッグ」を購入できることがよく知られています。これら「台南の帆布バッグ」ももちろんかわいいものが多いのですが、実は台湾中部の台中・大甲という場所にも、とにかくオシャレで使い勝手が良い帆布バッグブランドがあります。それが「一帆布包」です。
公式サイトか、海外のブランドを販売する「Pinkoi」を介せば、、日本からも簡単に入手できることから、ジワジワと人気を集め始めている帆布バッグブランドです。
この「一帆布包」、個人的には「台湾のバッグブランドで一番オシャレで使いやすい」と感じており、実はすでに複数のバッグを入手し毎日使い続けています。
■素朴で頑丈な素材と「デザインされすぎていないちょうど良さ」
「一帆布包」の特長は、まず素朴ながらも頑丈な帆布素材にあります。これは後述する台中・大甲の地場産業に根付いたものですが、どれだけ使い込んでボロボロになっても、「自分自身に馴染んだ風合い」になるところがまず良いです。
また、こういった台湾ならではの帆布を使いながらも、老若男女誰でも気軽に使えるようなデザインのものが多く、筆者から見て「一帆布包」の「デザインされすぎていないちょうど良さ」は、逆にかなり洗練されているように感じるのです。
これは日本でも同じですが、古くから伝わる素材を使って現代にリデザインする場合、どうしてもデザイナーの“個性"みたいなものが際立ち「使う人」を限定してしまうことがあります。「一帆布包」もまた、伝統的な素材を用いながらも、現代にリデザインされたものなのですが、あくまでも「使う人」の個性、立場、シーンに立って考えられているように感じるものが多く、これこそが筆者が思う「デザインされすぎていないちょうど良さ」なのです。
実際、毎日使っている「一帆布包」の複数のバッグ類は、カジュアル・ビジネス双方のシーンどこにでも合うものばかり。それでいてバッグの細部を凝視すればカッコ良さ、可愛らしさもちゃんとあり、自分のオシャレを引き立たせてくれるところが、「一帆布包」の素晴らしさだと思っています。
■素材・デザインに加え、手に取りやすい価格帯も◎
素朴で頑丈、ボロボロになっても「自分」に馴染んだ味になる、そしてどんなシーンにも合う……もう完璧にも思える「一帆布包」のバッグなのですが、さらに嬉しいのが、そう高額ではないところです。
その使い勝手の良さにドハマリし、筆者が合計3つ購入し、毎日使い込んでいる「帆布ボストンバッグ」は1万815円(日本円)。
ごくシンプルなトートバッグでありながら、持ち手の長さを変えられる「帆布アジャスター付きトートバッグ」は6899円(日本円)。
さらに筆者が最近購入した普段使いにちょうど良い、ショルダー式の「キャンバス外ポケットサイド長方形バッグ」は5437円(日本円)。
また、本来は携帯電話用のシンプルなバッグながらも、大きめなので別の用途にも応用ができる「キャンバス ミニマリスト マグネットバックル 携帯電話バッグ」は3450円(日本円)。
日本の帆布バッグブランドの多くよりも分厚い素材を使いつつ、デザインも素晴らしくて、この価格。いずれも、そのときどきの関税や物流コストによって、価格が微妙に変わることはあるものの、クオリティに対して手に取りやすいところが良心的だと思います。また、一定の期間を要するものの、「手作り」という強みからカラーオーダーにも柔軟に応じてくれるのも「一帆布包」の良いところで、筆者からすれば、もはや「良いこと尽くしの帆布バッグブランド」としか言いようがないのです。また、日本ではまだそう知られていないところも男子心をくすぐるところで、この“全方ヨシ"な「一帆布包」を強く推したいと思っています。
■衰退した地元の帆布産業を復活させるべく女性2人が立ち上げた「一帆布包」
この「一帆布包」が日本ではまだそう知られていないのも無理はありません。実はまだブランド立ち上げから10年ほどの歴史の浅い帆布バッグブランドだからです。
しかし、歴史は浅くとも、そのルーツは遥か50年ほど前にまで遡ります。聞けば、冒頭で触れた台南同様、かつて「一帆布包」がある台中・大甲もまた帆布素材のカバン製造で賑わった時代がありました。
最盛期の1970年代は「台湾国内向け帆布バッグのほとんどが台中・大甲製だった」という時代もあったほどですが、1980年代以降は、人件費の安い海外への生産移転(アウトソーシング)によって、地元の伝統産業は高度な技術を持ちながらも、徐々に衰退していきました。
それから数十年。長らく、国内外のブランドからのオーダーの帆布バッグの製造業を営んでいた父の背中を見てきた娘と友人の女性2名が、地元に根付く帆布素材・技術の素晴らしさに再注目。そして、新たな息を吹き込むカタチで立ち上げたのが「一帆布包」だったというわけです。
■最盛期のOEM受注の技術経験を「一帆布包」でもそのまま継承
ブランドを運営する女性に聞きました。
「今は、低コストでスピード重視のものづくりが主流です。結果的にOEMの発注先は賃金が安く、スピード感もある海外に移転することが多くなりましたが、だからこそ私たちは『台湾』に根付いたバッグにこだわりたかった。そして、歳を重ねた父の背中、少しずつ衰退していった地元の伝統産業にを前に『私たちが何かできることはないだろうか』『伝統産業に貢献できるよう役に立てることはないだろうか』と模索し、ブランドを立ち上げました」(一帆布包・運営者)
また、元々は国内外のブランドからのオーダーの受注を行ってきただけあり、完成度・品質の高さも継承することができ、そこで前述のような筆者が感じる“全方ヨシ"を実現できるのだとも。
「特に『価格競争の低下』『市場の縮小』によって、優れた帆布という素材と職人の技術が評価される機会、目に留まる機会をも失っていきました。
この点も『デザイン』をきっかけに、世代を超えた人々に届くようにし、帆布と、それを支える職人の技に新しい評価、新しい価値を見出していきたいと思いました。ただ、昔ながらの手法を残しながらも、無理のない範囲での効率化を図ることで、『一帆布包』が成り立っています。
台湾に根付いたモノづくりの魅力を、日本はもちろん多くの国の人たちに届けたい。『台湾にはこんな素敵な技術があるんだ』ということを、『一帆布包』のバッグを通して感じてもらえるよう、今後も挑戦をし続けていきたいです」(一帆布包・運営者)
■世代や地域を問わず「誰が持っても、自然に似合う」を大切に
最後に、筆者が「一帆布包」に感じ得る「デザインされすぎていないちょうど良さ」についても聞いてみました。
「帆布という素材の良さや実用性を大切にしながら『デザイン性』『多様性』は当然意識しています。さまざまな商品ラインを展開しながら、デザインの中に台湾らしい文化のエッセンスも取り入れ、世代や地域を問わず『誰が持っても、自然に似合う』ことを大切にしています。そのため、ほとんどのアイテムはユニセックスで、シンプルだけど、上質な素材感や細やかなデザインを施しています。
日本の男性の皆さんにも、ぜひ一度私たちのバッグを手に取っていただきたいです。あなたの日常に、そっと寄り添う存在になれたらうれしいです」(一帆布包・運営者)
見るだけでもカッコ良く、かわいらしい「一帆布包」の帆布バッグ群。ですが、実際に使ってみると「帆布バッグはもうこれしか持ちたくない」と思えるほどでもあります。ぜひ「Pinkoi」または台湾の各店でチェックしてみてください。
<取材・文/松田義人(deco)>
松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/687564/
- Source:&GP
- Author:&GP