【趣味カメラの世界 #27】
今年の5月22日に「GR IV」の開発が発表されたことを受けて、編集部ではあらためて「GR III」の魅力を、もう一度見つめ直したくなりました。
ということで、以前この連載で「GR DIGITAL II」を紹介してくれたフォトグラファーの田中さんに、「GR III」と「GR IIIx」を使ってもらいました。現行モデルの魅力、そして「GR IV」への期待まで、田中さんのリアルな使用感とともにお届けします。
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■スナップシューターの完成形。「GR III」と「GR IIIx」を改めて振り返る
「GR III」及び「GR IIIx」は、見た目こそ昔のGRとあまり変わりませんが、中身はまるで別モノ。立ち上がりが速く、手ぶれ補正も搭載、APS-Cセンサーによる描写力もあって、日常の記録にぴったりの一台です。
AF性能は最新のミラーレス機と比べると少々控えめですが、顔や瞳の検出もできて、スナップ用途なら申し分ありません。
なお、「GR III」は7月中の出荷をもって終了予定。次の「GR IV」へバトンを渡す前に、その完成度の高さをあらためて確かめておきたくなります。
■「GR III」と「GR IIIx」、それぞれの視点で街を歩いてみる
フェンスに囲まれた小さな公園。すべり台にブランコ、地面にはくしゃくしゃのブルーシート。普段なら見過ごしちゃうような風景ですが、モノクロの強いコントラストで撮ると、ちょっと不穏な雰囲気に見えてきます。
GRを持っていると、こういう“普通の場所”こそ撮ってみたくなります。白と黒だけの世界になることで、光と影がくっきりと際立ち、なにげない風景にさえドラマが潜んでいるように感じられるからかもしれません。
車道に、ぽつんと一足の靴。
「なんでこんなところに?」と思いながらも、妙にバランスよく置かれていて、ちょっと不思議な光景でした。
近づけない場所だったんですが、「GR IIIx」なら少し離れていても構図をきれいにまとめやすいです。
街の交差点で“NDフィルター”をON。スローシャッターで撮ってみると、人の動きがブレて写って、にぎやかな感じが写真に残ります。
スマホだとついパッと撮って終わりですが、こういうカメラならではの撮り方も、たまにやってみるとちょっと楽しいんですよね。
「APS-Cセンサー」のすごさは、こういう何気ない場面でこそ際立ちます。
葉っぱの影や光の柔らかな滲みが美しく、ただの公園の一角がまるで映画のワンシーンのよう。シャッターを切ったあと、写真の仕上がりに思わず見とれてしまいました。
「GR III」の焦点距離は伝統の28mm相当、「GR IIIx」はもう少し寄った40mm相当。長くGRを使ってきた身からすると、この“画角の違い”が実はけっこう大きく、「GR IIIx」には新しい可能性を感じています。
特にポートレートでは、背景のごちゃつきが抑えられるし、パースも自然。40mmという焦点距離のおかげで、「GRでポートレートってアリかも」と思える瞬間が確かにありました。
次のページでは、そのあたりを実際の作例を交えてご紹介します。
■28mmと40mm。変わるのは“距離感”だけじゃない
今回は2台を同時に借りたので、レンズ交換をするような気分で使い分けてみました。
先述の通り、焦点距離が40mmの「GR IIIx」だと、顔をグッと寄せてもパースがきつくなりすぎなくて、いい感じに写ってくれます。前ボケも自然で、ポートレートに向いてるんじゃないかなと思いました。
被写体との距離も、近すぎず遠すぎず、なんだかちょうどいい。無理せず自然に収められる感じがして、個人的にはこのくらいの画角、かなり好きです。
ただ、まわりの風景もいっしょに入れようとすると、思ったよりも下がらないといけないこともあります。
スマホに慣れていると、「あれ、もっと引かないと画角に入らないかも」なんて感じるかもしれません。
「GR III」は、広角気味のレンズだからこそ思いきってグッと寄ってみると、ダイナミックな雰囲気になります。
パースが効いて、なんだか印象にも残りやすい1枚になりました。
ちなみに、「GR III」はマクロモードじゃなくても結構寄れます。この写真くらい近づいても、ちゃんと撮れてしまうのは流石の一言。
ただ、28mmでここまで寄るってことは、けっこう相手との距離も近くなるわけで…。そこは被写体との関係性次第ですが、そのぶん親しみのある自然な表情が撮れる気がします。
改めて2台を撮り比べて思ったのは、それぞれにうってつけな場面がちゃんと存在していること。
「GR III」は、やっぱりスナップシューター。街の空気ごと切り取るのが得意で、ポートレートもその延長で楽しめます。スマホの画角に近いぶん、最初の1台としてもおすすめしやすい。
「GR IIIx」は、もうちょっと“撮ってる感”があるというか、構えて撮る楽しさがあるカメラ。距離の取り方や背景の整理もしやすくて、じっくりと写真と向き合いたい人に向いてると思います。
■「撮って出し」でもここまで変わる。“イメージコントロール”機能の底力
表現の幅をグッと広げてくれる“イメージコントロール”も、使っていて楽しい機能のひとつ。
「GR DIGITAL II」の頃とは比べものにならないくらい進化していて、JPEGでサクッと印象的な仕上がりになるので、撮ってすぐSNSにアップしたくなります。
イメージコントロールは、基本の12種類が用意されていて、そこからさらに自分好みに、彩度や色相、コントラストなんかを細かくいじれるようになっています。
今回はお天気に恵まれた中の撮影で、「ポジフィルム調」がバッチリハマりました。空の青さや、光の感じがどこか懐かしくて、モニターで仕上がりを見たときに、しばらく見入ってしまうほど。
ということで、ポジフィルム調で撮った一枚がこちら。晴天の順光で、空の青がパキッと強く出てるのに、どこかフィルムっぽい、懐かしい雰囲気があります。
なんだか、昔の旅行の写真を見返してるような気持ちになりました。
こちらも、本当にただのなんでもない風景なんですけど、不思議と目が止まる一枚になった気がします。
少し浅めの彩度に、ジリジリとした夏の陽ざし。強いコントラストがいい具合で、あの焼けつくような日の空気をそのまま閉じ込めてくれたような雰囲気に仕上がっています。
コントラストを強めたモノクロにすると、なんだか一気に“ドキュメンタリー感”が増します。スナップシューターであるGRとも相性バッチリで、ただの看板でもちょっと意味深な雰囲気に。
今回はあえてシャッタースピードを少し落として、微妙にブレた感じを残してみました。不穏さがちょっとだけにじむ、そんな1枚になった気がします。
起動も早いので、散歩中に「あっ」と思った瞬間を逃さずパッと撮れます。本体はポケットに入るくらい小さいので、つい毎日持ち歩きたくなるんですよね。
「GR IIIx」の40mmという画角は、人の気配がふっと写り込むような、そんな街の雰囲気を切り取るのにぴったりです。
■“撮りたい”という気持ちに、いつでも応えてくれる一台
改めてGRを持って街を歩いてみると、普段なら通り過ぎていたはずの景色に目が止まるような、日常の中に潜む「撮りたい瞬間」を、さっとすくい上げられるのがGRの強みかもしれません。
「GR DIGITAL II」を使っていた頃も、たしかにそんな感覚がありました。でも、「GR III」や「GR IIIx」では画質も機動力もまるで別物。「これでいいや」じゃなくて、むしろ「これがいい!」と思える仕上がりになっているんです。
■“次の一手”はどうなる?「GR IV」に寄せる期待
「GR III」は、スナップシューターとしてはすでに完成の域にあると感じます。では、2025年秋に発売予定とされている「GR IV」には何を望むのか。
まず期待したいのがAF性能の強化。現行モデルでも顔や瞳の認識には対応していますが、動きのある被写体ではやや迷いや遅れを感じる場面もありました。特にポートレート用途で使うとき、人物認証の精度はもう少し高まってほしいと感じます。
もうひとつは、新しいセンサーとレンズによる画質面での進化。「GR III」、「GR IIIx」ともに描写力は申し分ありませんが、レンズ一体型だからこその最適化をさらに突き詰めて、“GRっぽさ”のブラッシュアップを期待したいところです。
いずれにせよ、次の「GR」がどんな景色を見せてくれるのか、今から楽しみでなりません。
>> 趣味カメラの世界
<取材・文・写真/田中利幸 モデル/マナ(@_97ma09) 取材協力/RICOH>
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/688721/
- Source:&GP
- Author:&GP