今日ではパソコンやスマート家電などが普及し、家庭・プロの現場双方で、机の上でいわゆるアナログ的な作業をする機会はめっきり減りました。しかし、その昔はあらゆる作業をする際、必ず机の上に向かい、なんらかの作業をする機会は実に多く、そういった際にかなり重宝されるアイテムがありました。それが山田照明による手元用ライト「Zライト」シリーズでした。
私ごとですが、筆者は30年ほど前、グラフィックデザイン・出版物の編集などを仕事をしていました。当時はパソコンによる作業が真新しかった時代で、まだまだ机に向かっての手作業が一般的な時代でした。そんな中で、どの現場に行っても必ずあったのがこの「Zライト」で、もはやクリエイターの必需品とも思えるほど浸透しており、今も筆者は複数の「Zライト」を使い続けるほど思い入れを持っています。
もちろん、「Zライト」そのものも日進月歩で進化を遂げており、今日でも厚い支持を得続けており、1954年の登場以来、「Zライト」シリーズのラインナップ数はなんと累計450オーバーとも言われています。
今回は、多くの人々の「手元」を照らし続ける「Zライト」の知られざるストーリーを探るべく、東京・杉並にある山田照明ショールームを訪ねました。
■「Zライト」以前、「手元を照らす照明器具」は日本に存在しなかった
井の頭線・高井戸駅または富士見台駅から徒歩15分ほどの場所にある山田照明のショールーム。中に入ると、「Zライト」シリーズの実にさまざまなデスクライト、テーブルライトが並んでいます。ここでは山田照明の企画開発部・亀井章生さんが取材に応じてくれることになりました。
冒頭で触れた通り、「Zライト」は1954年に登場。初代モデルは「工場の手元作業用ライト」としてのものでした。この経緯について亀井さんはこう話します。
「弊社の初代社長が、アメリカに視察に行った際、工場の現場で手元照明を使っているのを見たそうです。当時の日本の工場には、天井についている照明はあったものの、手元を照らす照明はなかったそうです。手元が暗いがゆえに、作業効率は悪く、怪我をする場面も多かったことから『手元作業用ライトを作ろう』とアメリカの作業灯を取り寄せ研究するなどして、作ったのが『山田式Z型作業照明』というものでした」(山田照明・亀井さん)
■名の由来は、「これ以上のモノは存在しない」=「Z」だった
つまり、今日では当たり前のデスクライトなどはそれまでの日本には存在せず、この「山田式Z型作業照明」が机などの局所を照らすライトの第1号だったというわけです。
「ちょっとレトロなカフェにあるようなドーム型のライトみたいなものは、それまでにも存在したそうですが、完全に作業上の局所を照らすためのライトは、この『山田式Z型作業照明』が最初でした。
ただし、この時点ではまだ『Zライト』とは名乗っていなくて、そう名乗り始めたのは3年後の1957年からでした」(山田照明・亀井さん)
ところで、筆者は長らく「Zライト」の名前の由来を、ライトのアームがギザギザのZ型になるからだと思っていたのですが、これだけではないそうです。
「『山田式Z型作業照明』を開発した時点で、『究極のスタンドに育てたい』という思いから『Z』を採用しました。実際、初期の頃の『5本アーム』はこの初期の頃から完成していて、軽く動かすことができ、どこでもビタッと止めることができました。当時、これはかなり革命的だったと思います。
後に『4本アーム』モデルも登場しますが、基本設計の考え方は同じで、ライトを動かしてもどこでも止まるというものです」(山田照明・亀井さん)
■学習スタンドで一般浸透へ。70年代以降は世界でも評価を獲得
実際、筆者がデザイン会社に勤めていた際、「Zライト」のビタッと止まる動作がカッコ良く思えて、いい気分で「Zライト」を手元に持ってきてはビタッと止め、ライトを照らしながら下手クソな版下を組んで悦に浸る……みたいなこともありました。若気の至りで恥ずかしい限りです。でも、そんな時代を象徴するプロダクトもまた「Zライト」でもあったというわけです。
「『Zライト』を名乗るようになった後、1958年には学習スタンドとして発売をスタートさせました。『30分以上勉強する方のスタンド』としてテレビCMを放映し、これがきっかけで『Zライト』が、一般にも多く知られるようになりました」(山田照明・亀井さん)
1970年代に入ってからは、「Zライト」は海外でも評価を受けるようになりました。1970年にヨーロッパ向けの大量輸出モデルを発売したり、1973年にはピエール・カルダンブランドと照明器具のデザイン提携を行うなどします。世界的なデザイン賞、iF賞なども受賞し、1980年代以降は日本のグッドデザインも続々と受賞しました。
「機能面での『Zライト』の特長は、前述の通りですが、プロダクトとしてはどの時代のどのモデルもミニマルなデザインを心がけてきたと自負しています。『Zライト』は寿命が長く、一度開発すれば10年、20年生産し続けることも珍しくありません。そのため、時代が変わっても古臭く感じず、どんな場面にも溶け込めるものでありたいと願い、開発してきました。
そんな中でも特に私の印象に残っているモデルをここでいくつかご紹介します」(山田照明・亀井さん)
■「Zライト」のヒストリックモデル11選
【Z-00N(初代モデルの復刻版)(※オリジナルは1954年、復刻版のZ-00Nは2018年発売)】
「『Zライト』の原点となるモデルの復刻版ですね。復刻版では従来のアームの長さを360mmから300mmにタイトにし、コンパクトな空間でも使いやすくしました」(山田照明・亀井さん)
【Single arm(1960年)】
「学習机用に開発したモデルです。小型で手軽なので、日本の住宅事情で求められる省スペースという面でとても重宝されました」(山田照明・亀井さん)
【Z-101(1970年)】
「家庭用ライトとして確固たる地位を築いた『Zライト』でしたが、プロ仕様のモデルも進化を遂げました。これはスプリングが露出していないスタイリッシュなデザインで、当時としては画期的でした。iFデザイン賞を受賞したモデルでもあります」(山田照明・亀井さん)
【FERIS(1973年)】
「ピエール・カルダンとのコラボ商品として発売されたモデルです。化粧用ライトとして女性をターゲットに開発し、折りたたむことができ、持ち運びもできました。キャッチフレーズは『光になったピエール・カルダン』。海外でも人気を博したモデルです」(山田照明・亀井さん)
【Z-100(1976年)】
「1976年から1997年まで20年以上のロングセラー。今でも復刻を切望される声の多いモデルです」(山田照明・亀井さん)
【MANON ZM-002(1984年)】
「意外に思われるかもしれませんが、『Zライト』は実はアーム式だけでなく、こういった小ぶりなモデルもあり、ヒットしました。ベッドの脇の枕元で使われたり、教壇の上で暗い手元を灯す場面などで使われていました。ギフトなどでも人気があったようですよ。」(山田照明・亀井さん)
【Z-999(1993年)】
「スリム型蛍光灯を搭載したデスクライトです。当時ヒットしていたiMacなどのカラーリングに合わせた商品です。光が広く広がることと、シャープなデザインによって大ヒットに至りました」(山田照明・亀井さん)
【Z-107(1996年)】
「Z-100の後継的なモデルです。デザインをより洗練させましたが、『Zライト』シリーズのLED化を進める中で、残念なことに廃盤になってしまいました。お付き合いいただいている建築家の先生の現場でもZ-107を今でも現役で使ってくださっています」(山田照明・亀井さん)
【Z-208(1993年)】
「それまでの『Zライト』の特長の一つだった『自由に動くアーム』ではないモデルですが、とにかくシェードが大きく、明るさも十分で人気を博したものです。LED化したバージョンアップモデルにも継承されました」(山田照明・亀井さん)
【Z-10(2011年)】
「LEDを搭載しているZライトを代表するモデルです。LEDのデスクライトがまだ少なかった頃に明るさとLEDらしいスタイルを両立しました。当時としては最も明るい直下2000lxの照度を実現しています。Z-10はバージョンアップしながら今も現役で、『Zライト』の中でも最も人気のあるモデルです」(山田照明・亀井さん)
【Z-80PRO(2014年)】
「LEDを搭載したライトですが、LEDが浸透し始めた当初は、色の再現性に問題がありました。そんな中で、当社で初めて高演色LEDを採用したのがこのライトです。写真や印刷に関わる方、宝石の職人さんなどの間で強いご支持をいただきました」(山田照明・亀井さん)
■日本人口の「12、3人に1人」は「Zライト」を持っている!?
「Zライト」の歴史の中でも特に印象深いモデルばかりを挙げてくれましたが、一説には「Zライト」の歴代総販売数は1000万本はゆうに超え、日本人口に換算すれば「12、3人に1人は『Zライト』を持っている」計算にもなると言います。
もちろん、現行機も実に多彩かつ繊細なモデルばかり。ほぼ全てLED仕様ですが、「スタンダード」「色にこだわる」「机上を広く照らす」「ランプ交換型」「ロングアーム」「ショートアーム」「卓上型コンパクト」などをはじめ、ユーザーごとに異なる細やかなニーズに対応しています。
「たとえばZ-90というモデルは、お年を召した方の視野が黄色くなってきた際に、『白が白のままで見える』用に特別なLEDを採用し開発した商品です。このように、お客さまが抱えておられる課題やニーズに寄り添うライトは、今も常に開発を続けています」(山田照明・亀井さん)
最後に「Zライト」のさらなる未来について聞きました。
「『Zライト』に限らず『照明』は、人が生きていく上で必要不可欠なものです。ただし、ヨーロッパに比べて日本は照明文化の歴史が浅いため、『照明が大事だ』という意識はまだまだ乏しいと思うんです。
そんな中で、当社では70年以上デスクライトを開発し続けました。この歴史の中で、お客さまからお叱りを受ける機会もありましたが、そういった厳しいご意見も開発に活かし続け今日に至っています。
もし、今『手元が暗いんだよな』と思われことがありましたら、一度ぜひ『Zライト』を見ていただきたいと思います。長年培ってきた『使う人の目線でのものづくり』を今後も継続していきたいと思っています」(山田照明・亀井さん)
日本における机上ライト、照明といったカテゴリーを70年以上牽引し続けた「Zライト」。その開発は今も日進月歩で進化を遂げ続け、さらなる未来を灯す存在であり続けるのだろうと思いました。机上照明で困ったことがあれば、ぜひ改めて「Zライト」の各モデルに触れてみてはいかがでしょうか。きっと、他社製品にはない1台が見つかると思います。
<取材・文/松田義人(deco)>
松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/694859/
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