【ようこそ、オーディオの“沼”へ】
スマホで音楽を聴くのは当たり前になり、配信サービスの音質も年々良くなってきました。そんな中、街を歩いているとスマホに小さな箱を繋いで音楽を聴いている人を見かけることが度々あります。あれは一体何なのでしょうか。
その正体はポータブルアンプと呼ばれるモノ。オーディオに詳しくない側からすると、「本当に意味あるの?」「ポーズなのでは?」という疑問も湧いてきます。そこで今回、長年オーディオの世界を追ってきたAV評論家・折原一也さんに素朴な疑問を聞きつつ「良い音で聴くために今必要なモノ」として“ポータブルアンプとは何か”ということを読み解きます。
■ 「ポタアン」って何? DACとはどう違う?
ーー早速ですが、ポータブルアンプ(通称「ポタアン」)とは何ですか?
折原一也さん(以下、折原):ざっくり言うと「スマホで有線イヤホンや有線ヘッドホンをちゃんと鳴らすための外付けの音の出口」です。スマホに繋いでそこにイヤホンやヘッドホンを挿す。するとスマホ単体より良い音で聴けるようになる周辺機器ですね。
ーーちゃんと鳴らすというのは?
折原:スマホって音を出すための力が弱いんです。小さい音は出せても音の細かさや広がりは出し切れない。イヤホンやヘッドホンが本来持っている実力を十分引き出しきれないまま鳴らしている状態なんですね。
スマホの中にも音を作る仕組みは入っていますが、小型化のために音の部分はどうしても最低限になりがちです。そこを外付けの機械に置き換えると一気に余裕が出て、音の輪郭がはっきりしたり低い音が締まったり、空間の広がりが出たりする。これが“ちゃんと鳴らす”ということです。
ーーつまり、スマホの苦手な部分を外付けで補って本来の音をしっかり引き出してあげるってことなんですね。
折原:そういうことです。背景として大きいのはスマホからイヤホンジャックが消えたことです。iPhoneは7以降、今はAndroidもハイエンドほどイヤホンジャックがないモデルが増えました。昔は良い有線イヤホンを使えばスマホなどでもそれなりに良い音を楽しめていましたが、有線イヤホンが使えなくなってしまったんです。
PCやオーディオ機器に“DAC”という据え置き型の「音の出口」を足して高音質化するやり方があったんですが、それをスマホでも持ち歩きながらできるようにしたのがポータブルアンプ、所謂ポタアンです。
ーー“DAC”って何ですか? ポタアンとは何が違うんでしょうか?
折原:DACは“デジタル・アナログ・コンバーター”の略で、本来は部品の名前なんです。音楽のデジタルデータを、イヤホンやスピーカーを動かすためのアナログ信号に変える半導体ですね。スマホの中にも必ず入っていますし、据え置きのオーディオ機器にも入っている。だから本来“DAC”と言うと機械の中に入っている変換部品まで全部含むんです。
ただ、アンプだけだとスマホの中にある“音を作る部分”はそのまま使うことになります。ところがスマホ内部の音作りは小型化や省電力の都合でどうしても最小限。細かい音を作る力が弱いので、アンプでどれだけ音をブーストしても根本は変わりません。
そこで“音を作る役目(DAC)”と“音を増やす役目(アンプ)”の両方を外から補えば、最初の一歩から良い音にできる。つまり、音作りの入口と出口をまとめて強化できるようにしたわけです。スマホ側の音質の制約をすべて外し、最初の変換から最後の増幅まで外付け側で完結できるようにDACとアンプをひとつに、これが今のポタアンです。
ーーところで、ポタアンを使うとサブスクでも変わるものですか? 正直、何も知らない側からすると配信の音ではそこまで差が出ないと思ってしまうのですが。
折原:よく聞かれますが、今の配信の音って十分に情報量があるんです。スマホ側の変換や出力が弱いからそれっぽく聴こえないだけで、ちゃんと外付け側で音を作り直すと配信でも普通に差が出ますよ。むしろ、普段聴き慣れたサブスクの曲だからこそどう変わったかが分かりやすくなると思います。配信でも全然問題ないですし、最初の違いをそこで体感する人が多いのではないでしょうか。
■ポタアンを使うと何がどう変わるのか?
ーー理屈は分かったのですが、実際に何がどう変わるのかがやはり気になります。
折原:聴き比べるのが分かりやすいと思うので、スマホのソニー「エクスペリア」を使って“ヘッドホンの直挿し” “ワイヤレスポタアン(フィーオ「BTR17」)+ヘッドホン” “USB接続ポタアン(アイバッソ「DC-ELITE」)+ヘッドホン”で聴き比べてみましょう。
ーーではまずは“直挿しから”。折原さんが持ってきてくれた良いヘッドホン(ソニー「MDR-MV1」⦅実勢価格:5万4580円⦆)なので普段よりもかなり良く聴こえます。これで十分なのでは?
折原:それでは次に“ワイヤレスアンプ+ヘッドホン”で聴いてみてください。
ーー全然違いますね。もともと良い音でしたけど、すごくシャープに聴こえるようになった気がします。
折原:最後に“USB接続ポタアン+ヘッドホン”で聴いてみましょう。
ーーすごい! 音が広がるように聴こえるのと、低音が耳元で弾んでいます。同じ音、同じヘッドホンなのにまったく別の聴こえ方になりました。
折原:そうでしょう、そうでしょう。その反応が見られて良かったです。
ーーこれは今回使ったヘッドホンやポタアンが良かったからですか?
折原:もちろんそれもあります。そもそも、ポタアン自体が“良い有線イヤホン・ヘッドホンをスマホでも使いたい”という流れから使う人が多いので、音質の良いヘッドホンだとより良い音になりますし、ポタアンの性能もかなり関わってきます。
よく「安いイヤホンだと意味ないですか?」と聞かれがちですけど、そんなことはありません。ただ、明確に差が出やすいのはやっぱり1〜3万円台のポタアンですね。
ーーなるほど。高級機になると何が変わるんですか?
折原:先程試したUSB接続ポタアンはiBasso(アイバッソ)の「DC Elite」と言って約8万円の機種。この辺りになると音場の広がりや立体感、低音の弾み方が1段階どころか2段階くらい変わります。同じ曲なのにステージの奥行きが見えるようになり、楽器同士の距離感も分かりやすくなる。
アイバッソはもともと「iPod」や「ウォークマン」のようなポータブルオーディオプレイヤーを作っているメーカーです。このモデルはROHMのハイエンドDACチップ(コンサートホールの音響機器などに使われるような半導体)を贅沢に積んでいて、小さな筐体でもホームオーディオ級の表現力が出るんです。5万円クラスのヘッドホンと組み合わせると、スマホなどでもそのすごさが体験できますよ。
■ “ワイヤレス”と“USB接続”はどう違う?
ーーところで、先程ワイヤレスとUSB接続の話が出てきましたけど、この違いは何なのでしょう?
折原:もともとのポタアンは完全にUSB接続だけでした。スマホとUSBケーブルで繋いでポタアンにイヤホンを挿す。デジタル信号を受け取って外付けのDACで音を作り、アンプで出力に力を持たせる。これは構造として1番まっすぐで最も音が安定します。
ーーワイヤレスが出てきたのは最近なんですか?
折原:前からありましたが、人気が出てきたのがここ数年。スマホからポタアンをBluetoothで接続して、ポタアンから先は有線イヤホンやヘッドホンを繋げる仕組みです。このタイプが増えた理由は本当にシンプルで、便利だから。例えば、スマホはバッグやパンツの中に入れっぱなしでポケットにポタアン、のような使い方できます。操作は全部スマホ側でできるのでUSB接続より取り回しが圧倒的に楽なんです。
ーー音だけで言えばやっぱりUSB接続?
折原: そこは揺るぎませんね。Bluetoothという仕組み上どうしても音の情報量に制約が出てしまいます。USB接続は“スマホ→ポタアン→イヤホン”と一直線なので、音が崩れず細かいニュアンスも出しやすい。ただ、ポタアンは利便性の良さで選ばれがちで、ワイヤレスの需要がすごく大きい。
ーー市場としてはワイヤレスもUSB接続も両方発展しているのでしょうか?
折原:そうですね。ですが、ここ数年はワイヤレス対応機が市場を一気に押し上げた印象です。「スマホは無線で繋ぎたい、でもイヤホンは有線のまま使いたい」という人が増えたんです。その結果、“USB接続だけの従来型ポタアン”と“ワイヤレス+USB接続対応の新しいタイプ”の両方がしっかり共存するようになったんです。
ーーシーンや目的に合わせて選べる幅も広がったわけですね。
折原:はい。音質を突き詰めるなら“USB接続”、便利さも欲しいなら“ワイヤレス”。そのどちらにも応えられるように製品も進化していった感じです。
■難しい、と諦めることなかれ。ポタアンの選び方
ーー今回、ポタアンを調べていく中で専門用語が多くかなり混乱しました。改めてお伺いしたいのですが、端子や規格回りで最低限ここだけ押さえておくと良いポイントはありますか?
折原:ひとつはヘッドホン端子です。一般的なヘッドホンの端子は3.5mmですが、これは世界共通の標準サイズ。こだわった有線イヤホンやヘッドホンは4.4mmという少し太い端子が多いです。ちなみに4.4mmは信号ラインを増やしてノイズを減らす構造なので、しっかりした機器同士を組み合わせると音質面のメリットが出ます。
ただ、最近は1万円前後のポタアンでも3.5mm+4.4mm両対応のモノが増えているので、将来4.4mmのケーブルやイヤホンに手を伸ばしたくなる可能性まで考えるなら、このタイプを選んでおくと良いでしょう。
もうひとつはスマホ側との相性です。USB接続なら、今はiPhoneもUSB-CになったのでiPhoneでもAndroidでも基本的には同じようにUSB直挿しで使えます。以前はiOS側で音量が固定されてしまう問題がありましたが、最近は「外部オーディオ機器」として認識できる設定が入り、スマホ側からも音量調整できるようになりました。
ーー一方、ワイヤレスはどうでしょうか?
折原:ワイヤレス接続のポタアンを使う場合は、AndroidならLDACやaptX Adaptive、LC3などスマホが対応しているコーデックの方式とポタアン側の対応状況を合わせておくと良いです。iPhoneはAAC固定なので方式の違いを気にする必要はあまりありません。
ーーなるほど。最後に、これからポタアンを試してみたいという人に向けてどんな選び方をすると良いか教えていただけますか?
折原:まずは自分の音楽プレーヤーの使い方を振り返ることです。家で腰を据えて聴く時間が多くて、音質を最優先したいならUSB接続に特化したモデルから入るのが分かりやすいと思います。スマホとUSBケーブルで直結し、3.5mm端子で手持ちの有線イヤホンを繋ぐ。そこから余力があれば4.4mm対応や上位機種に進む、という順番です。
ーーそれではワイヤレスを使うほうが良い場合は?
折原:音は良くしたいけど普段の使い方はなるべく変えたくない、という人ですね。ワイヤレスの1番の理由は繰り返しになりますが便利だからなんですよ。「本当はUSB接続の音が好きなんだけど、ケーブルが邪魔で結局ワイヤレスイヤホンを使っちゃう」という人とは特に相性が良いと思いますね。
ーー金額の目安はどれくらいが良いのでしょうか?
折原:1万円前後の機種から始めれば違いは十分に体感できます。そこで「あ、これは面白い」と感じたら予算や用途に合わせて上のクラスやUSB接続特化機にステップアップしていけば良いと思います。ワイヤレスイヤホンやワイヤレスヘッドホンも良いですが、ポタアンは組み合わせ次第でどこまでも音を追求できるので本当に楽しいですよ。
■ワイヤレスポータブルアンプ5選
▼FiiO「BTR17」(実勢価格:3万7920円前後)
USB接続でもBluetoothでも接続できるため、自宅でも外出中でも快適に音楽を楽しめるFiioのフラッグシップモデル。最新技術によりワイヤレス接続でもCDと同じレベルのクリアな音質を実現しており、コーデックはaptX LosslessとLDACに対応しているため、より高音質での視聴が可能に。
>> Fiio「BTR17」
▼FiiO「BTR13」(実勢価格:1万2420円前後)
小型軽量約28.6gで、どこでも高音質を楽しめるエントリーモデルのBluetooth ポタアン。LDACなどに対応し、ハイレゾ伝送が可能。最大220mWの高出力によりヘッドホンの持つ本来の性能を引き出し、音質全体を向上させます。PC/Bluetooth/スマホモードのワンタッチ切替も可能で、あらゆる場面で活躍。
>> Fiio「BTR13」
▼iFi audio(アイファイ オーディオ)「GO blu」(実勢価格:3万2800円前後)
単3電池よりも軽い約27gの超小型ポタアン。スマートフォンとワイヤレスで繋ぐだけでUSB接続に近いハイレゾ級の高音質をどこでも楽しめます。LDACを含む全ハイレゾBluetoothコーデックに対応。さらに、強力なアンプ回路により大きなヘッドホンでも余裕で駆動します。連続約8時間再生可能で持ち運びにも最適です。
▼iFi audio「GO blu Air」(実勢価格:2万4440円前後)
ワイヤレス接続のみのポタアンながらもバランス出力で262mW以上と高出力によりヘッドホンを選ばない点が魅力。バッテリー持ちを10時間に延長し、着脱式マグネットクリップを標準装備することで日常の使いやすさを高めています。高音質回路は維持しつつ、価格を大幅に抑えたよりカジュアルで持ち運びやすいモデル。
▼ASTELL&KERN(アステルアンドケルン)「AK HB1」(実勢価格:1万9800円前後)
スマホ、PC、ゲーム機の音をAstell&Kernの高音質に変えるポータブルアンプ。ワイヤレスとUSB接続の両対応でLDACなどのハイレゾ伝送も可能。4.4mmバランス出力を含むデュアル出力と4Vrmsの高出力でお気に入りのイヤホンの実力を最大限に引き出します。
■USB接続ポータブルアンプ4選
▼iBasso Audio「DC-ELITE」(実勢価格:8万1400円前後)
AVライターやAV評論家などオーディオ業界からも支持されているのがこちら。コンパクトな筐体ながらデスクトップクラスの電流出力DACチップを採用しているため、その情報量の多さは一度使えばわかるはず。独自開発の24段4セクションステップアッテネーターを搭載し、最高峰のサウンドを実現しています。他にも低ノイズ設計や低消費電力設計などユーザーが欲しい機能が詰まった名品です。
▼iBasso Audio 「DC07PRO」(実勢価格:3万7400円前後)
アルミ合金の1枚板から作られたボディがソリッドかつ高級感溢れる一品。マルチファンクションダイヤル以外を削ぎ落としたミニマルなデザインは、オーディオファンならずとも思わず持ちたくなる美しいギア感を打ち出します。もちろん機能面も申し分ナシ。THD+N(全高調波歪み+雑音)はなんと0.000098%まで抑えられています。また、SPDIF出力に対応し、最大32bit/768kHzのデジタル出力を可能に。スマホなどを高品位デジタルソースとして使用できます。
▼FiiO「QX13」(実勢価格:4万2000円前後)
フィーオの10年以上にわたる技術を結集して作られた「QX」シリーズ。デスクトップモードは据え置き型のヘッドホンアンプ級の出力を誇りながらも消費電力は大幅にカット。ハイエンドオペアンプを合計6基も搭載しているため、さまざまな環境においてパワフルで安定した出力を実現しています。また、Androidアプリ「FiiO Control」経由で音質を損なわず好みのサウンドに調整できるのもポイントです。
>> FiiO「QX13」
▼SHANLING(シャンリン)「UA6」(実勢価格:2万7520円前後)
軽量かつ堅牢なデザインが目を引くシャンリン「UA6」。サイドに配されたメカニカルキースイッチで音量調整や各種設定が楽々行えます。フロントの1.3インチLCDカラーディスプレイはサンプリングレートやボリューム、DACモードなどの設定がひと目で確認可能。Quad DAC回路によりクリーンでハイクオリティなサウンドが楽しめます。操作性・音質ともに高いレベルを叶えた、エントリーモデルとしても非常に優秀な1台です。
<文/山口健壱(GoodsPress Web) 写真/高橋絵里奈>
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