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プロが選んだ愛用イヤホン&ヘッドホンは何だろう? eastern youth・吉野 寿の相棒とは

【ようこそ、オーディオの“沼”へ】

世の中にはさまざまなイヤホン&ヘッドホンが溢れ返っています。技術やデザインは日々更新され、その選択肢は最早無限に等しいと言っても過言ではありません。これから新しく購入しようと思った際、何を選ぶべきか悩む人も多いはずです。そこでひとつの指標として、音楽のプロ=アーティストたちに取材を敢行しました。果たして彼らは何を愛用し、そしてなぜそのアイテムを使っているのでしょうか。今回出演するのは、eastern youthの吉野 寿さん。イヤホン・ヘッドホンについて、さらに音楽についてさまざまな話を伺いました。

■低音がしっかりしていないと個人的にはつまらない

▲eastern youth・吉野 寿さん/7月18日生まれ、北海道出身。日本のロックシーンを牽引するスリーピースロックバンドeastern youthのGt.&Vo.担当。「outside yoshino」としてソロでも活動中。現在、全国ツアー「eastern youth 全国巡業 〜爆音列島2025〜」を敢行中。詳細はX:@ey_chan@outside_yoshino、公式HP:www.hadashino-ongakusha.jp/

日本を代表するロックバンドのひとつ、eastern youth。1988年に活動をスタートし、35年以上にわたり精力的に活動を続け現在も全国ツアー「eastern youth 全国巡業 〜爆音列島2025〜」の真っ只中。そんな中、eastern youthのGt.&Vo.を務める吉野 寿さんに愛用のイヤホンについて、そして自身の音楽について語ってもらいました。

――早速ですが、普段愛用されているイヤホンは何でしょうか?

吉野 寿(以下、吉野):BOSEの「QuietComfort Ultra Earbuds」です。以前「GoodsPress」の取材でいろんなイヤホンとヘッドホンの聴き比べをしたのですが、実はそれがきっかけなんです。聴き比べた中で1番BOSEがノイズキャンセリング力が高くて、しかも低音が出ていました。イヤホンって基本的に低音が弱くなりがちなんですけど、それだとちょっとカサカサするというか、個人的につまらなく感じてしまうんですよね。なるべく自然にローが出るものが良くて、その点BOSEはちょうど良いかなと。音も落ち着いているというか、暴れないというか。

▲BOSE「QuietComfort Ultra Earbuds」と専用ケース

――なるほど。イヤホンはどんなシーンで使用することが多いですか?

吉野:移動中がほとんどですね。あと、ぼくはよく歩くんです。何も予定がないときは雨さえ降らなければ必ず2時間10kmくらい歩きます。無心になって何も考えずに歩いているのですが、だからこそそのときに聴いている音楽がスーッと入ってきます。

――ご自身の音楽も聴かれますか?

吉野:いろいろなジャンルの音楽が入ったプレイリストをシャッフル再生して聴いています。自分の音楽はまったく聴きません。自分の曲はライブで常に演奏していますし、制作のときにも死ぬほど聴くんで、録音した曲は自分の中では過ぎていくというか、ライブで演奏することで新しく更新していくような感じなんです。基本的に自分の姿を見たり、(自身が映っている)動画を見たりするのは嫌いなんです。

――そうなんですね。それでも、ご自身の曲は自信を持って世に送り出しているものなのではないかとオーディエンス側は思っているものですが、実際はどのような感覚なのでしょうか?

吉野:そうですね…。ただただ、自分の“何か”を表現したいだけで。それがたまたま受け入れられているっていう感じなんですかね。何かを誰かに思って欲しくてこういう風にしました、とかそういう計算みたいなものはありませんし、そう思わないようにもしていますし。

――先程、ライブで更新していく、と仰っていましたが、それではどちらかというとCDとかで聴いてもらうよりもライブに来てもらいたい、みたいな気持ちはあるのでしょうか?

吉野:楽器も含めて「歌」だと思っていますけれども「歌」は生きているもの、という感覚はあります。でも、CDでもライブでも基本的には聞き手にお任せするっていう気持ちですよね。どう聴いてもらってもぼくは構いません。家で静かに小さな音で聴くのが好きな人も中にはいると思いますし、もちろんライブに来て聴くのが好きな人もいるでしょうし。ただ、自分にとって自分の音楽は常に演奏するものですし、自分の体を通して発信していくもの。そしてCDなどに録音は「ひとまずひとつの形にしたもの」だと思っています。

――良い意味でオーディエンスとフラットに付き合っているということですよね。自分も好きに表現するし、聞き手も好きに聴いてくださいという。

吉野:お互い五分五分じゃないと付き合えないと思っています。どっちが上とか下とか嫌ですから。ぼく自身、偉そうにされるのって大嫌いだし、自分も偉そうにしたくないですし、何でも五分五分ですよ。対等というか。

■音楽制作は自身を掘って掘って、掘る作業

――とても素晴らしい考え方だと思います。吉野さんは普段、音楽はどういうタイミングやきっかけで作るのでしょう?

吉野:“よし、作るぞ”って感じで作っています。締め切りを設定して、そこまでに何曲作るぞ、と。ただ、テーマを決めてしまうと作る曲が限定されてしまうので、基本的に音楽を制作するときはテーマを設けないようにしています。とりあえず何かしら作ってみようって感じです。毎回必死ですよ。手探りです。30数年やっていますが、未だに一切慣れとかはないですね。ギターの手癖みたいなのはありますけど、それが上手く合ったり、逆に抜け出したいけど抜け出せなかったり、なかなか難しい。日々、推敲って感じです。推敲、推敲、また推敲。限界まで切り落として、切り落としすぎてしまったりとか。

――すごくストイックに向き合っているんですね。

吉野:曲の長さやギター、ベース、ドラムなどいろいろと制約がありますしね。楽譜とかは全然書けませんし、ギターのコードも知らないんです。もう感覚だけでやっていて。とりあえずフレーズをドンとひとつ作って、あとは煮詰めていくっていう感じなんですよね。言葉を乗せると合わなかったりして、それでまた修正。ちょっとずつ細かく直していく、というか。

――なかなか100点満点だ、みたいに思うことも難しそうな気がします。

吉野:そうですね。1発でできた曲もないわけではありませんが、稀有ですね。苦しんで生まれている曲が大半を占めています。

――となると、今後こういうことをしたいとかは決めずに動いている感じでしょうか?

吉野:こうなりたいとかこうしたいとか、何もないですね。むしろあえて考えないようにしているところもありますし。今、「自分の中に何があるのか」というのが大問題なので、それは毎回掘ってみないとわからないんですよね。

――その“掘る”という作業ですが、掘った結果アウトプットしたものが音楽になると思うのですが、インプットはどのようにされていますか?

吉野:あらゆることからインプットってできていると思うんです。例えばいろんなものを見たり、酒場に潜り込んでみたり、人と話してみたり。今この瞬間もそうですよね。アウトプットに繋げようとは普段から思っていないですよ。アウトプットのことを考えて生きていないというか。ただ、やるぞってなったときに掘らなくてはいけなくて、掘っても掘っても何もなければ何もない。何もないのであれば「何もないということ」を表現できれば良いのですが、なかなかそうならない。だから掘り続ける。それだけなんです。聴きたいから聴くし、読みたいから読むし、歩きたいから歩くし、飲みたいから飲む。そして掘り続ける。それだけです。

でも、誰でもそうなんじゃないでしょうか。もう、それぞれの生き方ですから。生きているとやりたくないこともいっぱいあるでしょうし。でも、その中でいろんなものに出会ったりするわけですから、それもすべてインプットになるわけですよね。

――なるほど。話は変わるのですが、吉野さんの楽曲はパワフルな楽曲が多い印象です。年齢を重ねた今でもその熱量みたいなものが落ちているようには感じません。何も意識せずにキープできるものなのでしょうか?

吉野:単にそういう生き方をしてきた人間ということなんだと思います。子供の頃からいろんなことがあって、こういう形になっただけで。子供時代は鬱屈としていて、抑圧とかがたくさんあって、そういうものに対してどこにも逃げ場がない状況だったんです。

そんなときにパンク・ロックがイギリスからやってきて。あんまり楽器弾けなくても良いらしいぞ、歌が上手じゃなくても良いらしい、とかデタラメでも良いっぽい、とか、まさに自分と似たような境遇の人たちの歌というか、怒りとか憎しみとか悲しみとか、そういうものを楽器が弾けなくても楽譜が読めなくてもギターで「ジャーン」と1発でやったっていいんだっていうのを知って、すごく勇気付けられたわけですよ。やってもいいんだ、見つけた、みたいな感じで。

それで兄がギターを持っていたんですけど、家を出るときに置いていって「やった!」と思って。全然弾き方なんてわからなかったんですけど、とにかくジャカジャカやったりなんかして。そこからですね。ずっとそのまま、今日まで続いています。

――そういった音楽を聴いて、ご自身でもやろうと。やっぱり音楽をやっているときは楽しいという感じなのでしょうか?

吉野:恐怖や抑圧など、そういうものを押し返すための手段でもあるので、楽しんでプレイするという感じでもないですが、かと言って苦しさをぶちまけてやろうとも思っていなくて。例えば、赤ちゃんって生まれたら「オギャー!」って泣きますよね。何で泣いているのか、理由なんてないじゃないですか。ただ生きているから「オギャー!」って泣くだけで。それに近いと思います。生きているからただ爆発させているだけ。

かっこいいと思ってほしいとか、誰かを勇気付けようとか、自分の憎しみや呪いみたいなものをぶちまけてやろうとか、誰かを幸せにしたり笑顔にしたいとかもありません。ただ、生きて、エネルギーを爆発させているだけで、その手段がたまたま音楽だったんです。

――たまたま音楽に出会ったおかげで今も我々は吉野さんの音楽を享受できているんですね。最後に、どういうイヤホンを選ぶと良いか、もしアドバイスするとすれば何でしょう?

吉野:個人的に耳の穴の形に合っているものを選ぶのが良いと思います。フィット感ですね。特に今はワイヤレスのモノが多いので、ポロッと落ちてしまうこともある。長く装着することも多いアイテムですし、案外大事なことですよね。グイッと耳に入れられるモノでないと、ノイズキャンセリング性能も落ちるでしょうし。ぼくは選ぶ基準のひとつが今言った装着性になっています。

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<文/手柴太一(GoodsPress Web) 写真/高橋絵里奈>

 

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