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プロが選んだ愛用イヤホン&ヘッドホンは何だろう? キーボーディスト・猪野秀史の相棒とは

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世の中にはさまざまなイヤホン&ヘッドホンが溢れ返っています。技術やデザインは日々更新され、その選択肢は最早無限に等しいと言っても過言ではありません。これから新しく購入しようと思った際、何を選ぶべきか悩む人も多いはずです。そこでひとつの指標として、音楽のプロ=アーティストたちに取材を敢行しました。果たして彼らは何を愛用し、そしてなぜそのアイテムを使っているのでしょうか。今回出演するのは、猪野秀史さん。イヤホン・ヘッドホンについて、さらに音楽やご自身についてさまざまな話を伺いました。

■いつも使っているイヤホン・ヘッドホンはソニーのイヤモニ

猪野秀史さん/7月26日生まれ、宮崎県出身。フェンダー・ローズ・ピアノを愛し、それを使用した楽曲も多い日本を代表するキーボーディストのひとり。2020年の東京オリンピック閉会式でも「THE WORLD IS SO BEAUTIFUL IF YOU SEE(思えば世界はあまりにも美しい)」が使用されたことが記憶に新しい。現在も楽曲発表やライブなど精力的に活動中。来年はデビュー20周年を迎える。X:@innocentrecord、Instagram:@ino_hidefumi、YouTube:@innocentrecord、公式HP:https://www.innocentrecord.net/

キーボーディストの猪野秀史さんが作る音楽は、フェンダー・ローズ・ピアノを使用したどこか切なくもあたたかいメロディが心地良く、いつまでもその音に身を委ねたくなります。繊細かつ力強さも感じられる楽曲を制作する猪野さんが使用するイヤホンやヘッドホンは一体何なのか、とても気になるところ。愛用されているイヤホン・ヘッドホンとともに、楽曲制作に関してなど多くのことを語ってもらいました。

――猪野秀史さんと言えばフェンダー・ローズ・ピアノを愛用されていることで知られていますが、イヤホン・ヘッドホンは何を使用されていますか?

猪野秀史(以下、猪野):イヤホンはソニーの「MDR-EX800ST」、ヘッドホンは同じくソニーの「MDR-7506」です。これしか使っていません。スタジオやライブでのイヤモニとして、あとは音楽を聴くときにも使用しています。

――普段、音楽はどのようなジャンルを聴かれますか?

猪野:日によって違いますが、結構バラバラですよ。とりあえず気になったら聴く感じで。新しい音楽も聴きますが、基本的には古い音楽ばかり聴いています。60年代のロックとかが多いかな。いっぱい好きなアーティストはいて。80年代のアーティストも好きですし。

――ロックを聴くというのは少し意外でした。猪野さんの楽曲はどちらかというとしっとりとした、というか切ないメロディのものが多いですよね?

猪野:そうですね。あとは映画音楽とかが昔から好きで。今でもサントラとか良く聴いていますよ。その中でもやっぱり60年代や70年代の映画のサントラですかね。ミシェル・ルグラン(フランスの映画監督、作曲家、ピアニスト)とかエンニオ・モリコーネ(イタリアの作曲家)が作った映画音楽がすごく好きなんです。ストリングスが入っているものだったり、ピアノだったりとかが使われている楽曲が多くて、今でも聴いています。

――それはやはりご自身もエレクトリック・ピアノがお好きというのもあるのでしょうか?

猪野:それももちろんありますが、あまりそこは意識していませんね。音楽を聴くときはエレピ(エレクトリック・ピアノ)の音が入っているから、とかではなくギターなどの弦楽器が入っているものだったり本当にさまざまな音楽を聴くように心掛けています。それを自分の中で消化して、演奏するときはエレピを使いますけど。

――そうなんですね。ご自身のメロディが生まれるきっかけや音楽を制作する意欲・気持ちみたいなものはいつ生まれるんでしょうか?

猪野:意欲は常にあるというか、今こうやって撮影されているときもシャッターの音や話している声が聞こえてくる、そういうすべてが楽曲制作のヒントになっていますね。よし、作ろうというよりも日々生活している中で生まれている感覚です。ただ、自分のスタジオがあるんですけどそこに毎日入って制作自体はしています。

――毎日ってすごいですね。

猪野:ライブがないときや人に会うときとか、それ以外の時間は制作しています。ぼく、ほかに趣味がないんですよ。音楽以外。ミュージシャンって写真を撮ったり絵を描いたり、そういった趣味を持っている人もいると思うんですけど、ぼくはもう音楽しかない。趣味を仕事にしているって言えば聞こえは良いかもしれませんし、ほかに趣味があれば良かったこともあったかもしれませんが、本当に音楽しかないんです。

■DIY精神ってパンクなんだと思う

――四六時中、音楽なんですね。でもそれが仕事になっていることはとても素敵なことだと思います。ファッションなどはどうですか? 以前、A.P.C.で働いていらっしゃったっとお聞きしまして。

猪野:よくご存じで。洋服は嫌いではないですよ。でも、A.P.C.に入ったときって実はA.P.C.というブランド自体知らずに入ったんです。20代前半の頃、放浪の旅をしていまして。イタリアとフランスだったんですけど、ずっとひとりで歩いていたんです。そこから戻ってきて、そろそろ仕事しないとなと思っているときに友達がやっている飲み屋に行ったら、「お前、仕事していないんだったらA.P.C.っていうブランドができるからそこで働いたら? そこ、レコードも作っているらしいよ」って教えてくれて。それで面接を受けに行ったんです。

音楽も作っている会社ということで受けに行ったんですけど、面接してくれた人が何を間違ったか「猪野くんに店長を任せます」って言ってきたんです。そこから洋服屋で働きながら音楽活動をしていたんですけど、正直ファッション自体には疎いというか。そもそも音楽を作っているブランドじゃなかったら入っていなかったと思いますね。

――その後、A.P.C.からも出されていますもんね。

猪野:そうですね。それも若いうちにいっぱいいろんな国に行って経験しとかないとと思ってフランスに遊びに行ったときに、A.P.C.のデザイナーが働いているところに寄ってみたんです。そしたらせっかくだしレコーディングしようよって話になって。それで作ったレコードがそれなんです。遊びの延長みたいな感じで、そういうことをするなんてまったく計画も何もしていなかったし、デザイナーもそういうノリの方でしたし。あれは1発録りでしたね。

――それではそのA.P.C.の風土というか環境がとても寛容だったんですね。

猪野:当時、A.P.C.ってファミリービジネス的だったんです。親族や親戚など、そういう血縁の繋がりで会社をやっていて。言ってみればDIYですよね。それがぼくらのレーベルにも影響していますね。流通以外、ジャケットのデザインも何もかも全部自分たちでやるようにしています。今でも付き合いはありますけど、そういうDIY精神って多分パンクなんですよね。パンクの手作り感がぼくも若い頃から好きで。誰かに任せるのではなく、下手でも良いから自分たちで作り上げる、その工程にすごく興味があったんです。

▲ソニー「MDR-EX800ST」(左)、「MDR-7506」(右)

――今もA.P.C.時代の体験が生きていると。その当時、福岡にいらっしゃったんですよね?

猪野:はい、そうです。福岡にいました。30歳のときに辞めて上京したので。

――宮崎から直接東京ではなく、最初は福岡だったのはやはりご両親の反対などがあったからでしょうか?

猪野:そうですね、予備校に通うなら福岡に行けと言われて。どうしても東京に行きたいなら大学で行けば良い、と。割と固い親だったんです。とは言え、予備校には行ったものの結局大学には行かず、ずっとバンド活動に専念してしまった。かなり親不孝者なんですよ。

――そうだったんですね。少し話を戻しまして、イヤホン・ヘッドホンについて改めてお伺いしますが、使い始めたきっかけはレコーディングですか?

猪野:ヘッドホンの取材で言うのもどうかとは思うんですけど、ヘッドホンはあまり好きじゃないんですよ。やっぱり音楽ってスピーカーから空気を通して聴こえてくるじゃないですか。だから、制作するときも基本的にスピーカーから音は聴くようにしています。でも、夜とかどうしても音が出せないというときにイヤホン・ヘッドホンに頼るとう感じです。あとはライブとかも全部モニターはスピーカーからですし。ただ、たまにクリック、リズムを聴きながら演奏しないといけないときがあって、そのときはイヤホンを使いますね。

――使い分けとしてはライブ中はイヤホンという感じでしょうか?

猪野:ライブ中にイヤモニをしないといけないので、そのときはイヤホンという感じです。これがすごく便利で。片耳で聴いたりしやすいですし。リスニング感覚と言いますか、ほかのプレイヤーの音も自分の音もできるだけ良い音で聴きたいっていうのがあるんですけど、これ(イヤホン)はリアルな音がする。なのでこれは2代目ですが、ずっと使っています。

――気に入っているポイントは他の楽器など、音がリアルに聴こえるところだと。

猪野:はい。ヘッドホン・イヤホンって最近だと高性能なので立体的だったり、臨場感が強調されていたり、すごく良い音を出せるモノってたくさんあると思うんですけど、そうではなくて。ぼくはできるだけリアルな音で聴きたいので。それが叶うモノを探して、やっぱりこれが1番リアルなんですよね。過剰なサービスがないところが良い。

――なるほど。ところで、猪野さんの代表曲のひとつ「Spartacus」はどのようにして生まれたのでしょうか?

猪野:あれはね、もちろん映画音楽が最初で。そのあとにユセフ・ラティーフっていうジャズ・ミュージシャンがオーボエという楽器を使ったカバー曲を聴いて、すごい衝撃を受けたんです。なんて美しい曲なんだろうと。音楽的な話になりますが、あれって8分の6拍子でわかりやすく言うと3拍子でワルツみたいな感じの曲なんです。さまざまなミュージシャンがカバーしていますが、みんな3拍子で作っている。それを4拍子で作ろうと思ったんですよね。そう閃いたときにはもう作り始めていて。

そのあとNujabes(日本のトラックメーカー。2010年没)と会う機会があったんですけど、同じ曲をサンプリングしているって知り合いから聞いて、ぼくがパクったみたいに誤解されたくもないし、出すのやめようかなと思ったこともありました。でも、実際にNujabesに会ったら一緒のことやっているね、みたいな話になっていつか一緒に面白いことができれば良いですね、みたいなことを話していた矢先に彼は亡くなってしまったんですけど。

――おふたりの共演、本当に見てみたかったです。あと、東京オリンピック閉会式でも使用された「思えば世界はあまりにも美しい」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

猪野:経緯はちょっと覚えていませんが、普段ぼくはドラムもベースも打ち込みは全部自分でやるんですけど、その曲が入っているアルバムは6割くらい当時のバンドメンバーと作ったものなんですよ。「思えば~」もそのバンドのメンバーと録音した曲なんですよね。

――すごくセンチメンタルなんだけど力強い、そう感じる曲ですよね。

猪野:そうですね、そういうのが音楽に限らず映画とかもそうですけど、すごい憧れるし自分自身も表現したいのかもしれないですね。「Spartacus」もそうかもしれない。ただ単にセンチメンタルでお涙頂戴、みたいなのには興味がなくて、そこに荒々しさや力強さみたいなものがあるものがすごく好きですね。

>> 猪野秀史

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<文/手柴太一(GoodsPress Web) 写真/高橋絵里奈>

 

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