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プロが選んだ愛用イヤホン&ヘッドホンは何だろう? 日本を代表するDJ/プロデューサーのひとり、田中知之(FPM)の相棒とは

【ようこそ、オーディオの“沼”へ】

世の中にはさまざまなイヤホン&ヘッドホンが溢れ返っています。技術やデザインは日々更新され、その選択肢は最早無限に等しいと言っても過言ではありません。これから新しく購入しようと思った際、何を選ぶべきか悩む人も多いはずです。そこでひとつの指標として、音楽のプロ=アーティストたちに取材を敢行しました。果たして彼らは何を愛用し、そしてなぜそのアイテムを使っているのでしょうか。今回ご登場いただいたのはFPMこと田中知之さん。イヤホン・ヘッドホンについて、さらに音楽や仕事などあらゆることについてインタビュー。

■完全オーダーメイドで作った“FPM仕様”のイヤホンとは

田中知之(FPM)さん/7月6日生まれ、京都府出身。1995年に「Fantastic Plastic Machine(現在はFPM)」名義でデビュー。2020年の東京オリンピック開閉会式・パラリンピック開会式で音楽監督を務めたことも記憶に新しい。DJ、プロデューサー、選曲家、編曲家などその活躍は多岐にわたる。X:@tomoyukitanaka、Instagram:@tomoyukitanaka、YouTube:@fpmxxxxx、公式HP:http://www.fpmnet.com/

世界的なDJとして知られるFPM・田中知之さんに今回はインタビューを敢行。DJ以外にもプロデューサー、選曲家、編曲家、執筆業などなど実にさまざまなシーンで活躍中の田中知之さんはどのようなイヤホンを使用しているのでしょうか。さらには音楽に対して、など多くのことを語ってもらいました。

――今回、日本を代表するDJのひとりである田中知之さんが、一体どのようなイヤホンを使っているかが知りたくて。早速ですが愛用されているイヤホンは何でしょうか?

田中知之(以下、田中):これはソニーの「Justear(XJE-MH1R)」というイヤホンです。オーダーメイドで作る特別なイヤホンなんです。耳の穴の形も計測して作る、何から何まで自分仕様に作ってくれるアイテムで。ソニーが本当にもう、すべての叡智を結集して作っているモニターイヤホンで、左右の耳の穴の形もそうですけど音のバランスも自分好みに調整してもらえて、もちろん解像度もすごい高い。

▲言わば田中さん仕様のソニー「Justear(XJE-MH1R)」

――購入したきっかけは何だったのでしょう?

田中:友達に勧められてですね、本当にすごくて。自分の持つスタジオはすごく音楽制作に特化した良い音響になっているんですが、その環境にすごく近い設定にしてもらって。耳の形を取ってから3週間後くらいに届いて、そこから高音や中音、低音どうしようか、みたいな自分のリファレンスを持っていって調整してもらえるんですよ。

スーツのオーダーメイドのように、完全に自分好みにできるんです。だから忙しいとき、例えば楽曲を制作途中、出張などでスタジオでミックスダウンなどの仕上がりの確認ができない、となったとしてもこれがあればある程度スタジオのモニターと同じように聴けますし、そもそもぼくは週末はあちこちに行ってDJをすることが多いので。単に良い音で音楽を聴くという点でももちろん優れてはいるのですが、世界中どこにいても自分のスタジオと同じような環境でチェックができるので本当にストレスがなくなるというか。すごく重宝しています。

――メイン使いが音楽制作、ということは有線かどうかも大事ですよね。

田中:そうですね、ワイヤレスだと音質がどうしても下がるので。あと、「Justear」もサードパーティのキットなどを使えば無理やりワイヤレスにもできるみたいなんですけど、そもそもワイヤー(有線)が好きで。前時代的に見えるかもしれませんが、未だにこの「Justear」を超えるものって出ていないんじゃないかなと思うし、それくらい信頼はしている。もちろんいろんな優れたヘッドホンがあるというのはわかってはいるんですけど。でも、誰かにおすすめするのであれば、ぼくがずっとお世話になっている「Justear」ですね。高価ではありますが。

――制作現場以外でも使用されていますか?

田中:もちろん。いつも持ち歩いていますしね。例えばiPhoneに挿して聴くだけでものすごく良い音でリスニングを楽しめるので。ありがたいですよ。iPhoneのクセみたいなものをちゃんと補正してくれるし、制作がないときでも旅先には必ず持っていくようにしていますね。

――どれくらい愛用されているのでしょうか?

田中:2020年頃からだったと思います。新しい製品はどんどん出ていますが、ぼくはずっと信頼を置いて使い続けていますね。いつもスタジオを持ち運んでいるような感覚です。あと、耳の穴の形に合わせて作っているので密閉度がすごく高い。耳栓にもなりますよ(笑)。

■自由にできる仕事と制約がある仕事、それがお互いに作用する

――物理的なノイズキャンセリング力にも優れていると(笑)。話は変わるのですが、今度は音楽についてもお聞かせください。ものすごくたくさんの曲を生み出し続けていますが、どういうきっかけで作られているのでしょうか?

田中:自分で新しいアルバムを作ろうって思って何年もかけてやる、みたいなのもあるんですけど、例えばCMとかオリンピックとかお仕事をいただいて、という感じが多いですね。お題をいただいて、それに対して自分が何をできるか、それを考えながら制作を始めるというか、各プロジェクトによってさまざまなお題をいただくことで制作がスタートする。それがすごく面白いなといつも思いながらやっています。

今、ちょっと落ち着きましたけど、1990年代終盤から2000年代頭くらいにかけてはリミックスの仕事がすごく多かった。いろんなアーティストの音源を自分なりに好きに触らせていただいて。それも楽しかったですし、何かきっかけを外部からもらって制作する、というのがぼくは結構好きなんです。もちろん、自分勝手に自分の作品を作るのも非常に嬉しい作業ではあるんですけどね。でも、お題をいただくことで自分が考えもしなかったような作業ができたり、思いがけない扉や引き出しが開いたりすることも多くて、それが楽しくて。最早きっかけをいただいて何かを作る、というのはぼくの中ではスタンダードなことになっていますね。

――一方で自然に生まれた音楽もあると?

田中:もちろん自然に生まれたり、自由に作っている曲もあります。今作っている新しいアルバムなんかはまさにそう。自由に作れる作品とお題をもらって作る作品が、良いバランスで作業できている気がします。しかも、それぞれがお互いに良い風に作用しているのかなとも思っています。

――それでは、自然に作ろうと思う曲はどのようなタイミングで生まれるものなのでしょうか?

田中:音楽に限らず、世の中で起こっていることすべてがタイミングというかきっかけになっていますね。例えば、ニュースを見ていてもいろいろな情報が入ってくるわけじゃないですか。それに対して自分がいろいろと思うこともある。そういうインプレッションみたいなものを音楽に置き換えるということを日常的にやっている感じで。制作するという作業があろうがなかろうが、常にそういった意識はしていますね。

――なるほど。それでできたら発表する、という。

田中:うーん…ただ、その発表の仕方が今ってとても難しいと思うんですよね。以前みたいにただCDやアナログレコードを出せば良いわけではなくて、音楽をどう届けるか、みたいなことがすごく難しくて。その届け方をどうするか、タイミング含め計っている感じですね。2025年で「Fantastic Plastic Machine(FPM)」と名乗りだして30周年なんですが、それをきっかけにここ数年で作り溜めた新曲をいろいろとリリースしたいとは思いつつ、準備を綿密にしている段階なんですけど。

――確かに、サブスクリプションで聴くのが当たり前になりましたし、より以前よりも難しいですよね。

田中:よく、サブスクで音楽が聴かれるようになったから、世界中に作った音楽が届くチャンスが増えて良かったんじゃないですか、みたいに言われることもあります。もちろんマネタイズがすべてではありませんが、音楽でお金を稼ぐということがサブスク時代はとても難しいのも事実。例えば、15年前とかにCDを月に10枚買っている人がいたとしたら、大体1枚3000円×10枚で3万円ですよね。一方でサブスクは月に1000円くらい。つまり、その人にとってもマーケットが30分の1になっていると言えるわけです。一般の企業やお店で売上が30分の1になったら存続していけませんよね? なのでサブスクは良い面も悪い面も音楽家にとってはあるのでとても複雑な問題ですよね。

とは言え、2002年に私が作詞作曲したHALCALI(※2002~2013年に活動していた女性2人組みユニット)の「おつかれSUMMER」という曲が、今年突如として世界的にリバイバル・大バズりしたのですが、サブスク時代だからこその出来事ですよね。だた、音楽を作るというのを生業にしていくのは厳しい時代には変わりありません。だからこそ、音楽は純粋なものになっていくのではないかとも思っていて。少なくとも自分はそういうつもりで新しい作品作りに挑んでいます。

――先程「Fantastic Plastic Machine」として30周年という話が出てきましたが、30年今まで走り続けてきたわけじゃないですか。普通のサラリーマンとかはそろそろ定年が見えてくるわけで。

田中:そうですよね、そろそろ定年って一般企業にお勤めの方は思いますよね。でも、新しいものを生み出すのってやっぱりパワーが必要で。でもぼくはおかげさまでというか元気ですし、作りたいことややりたいことが次々思い浮かぶし。例えば、テクノロジーが進化すると最近までできなかったことができるようになる、とかそういうことがずっと起きていますよね。昔だったら思いもしなかったことがどんどんと実現可能になっているので、そういう意味ではすごく面白いし。

――最近はAIで楽曲を作る、みたいなことも普通に行われていますよね。

田中:そうですね、ビルボードのチャートに入ったりする時代です。でも、やっぱりAIには負ける気はまったくしません。というよりもAIに任せられないことが多くて。選曲家でもあるのですが、AIの選曲には絶対負けないぞっていう勝手な自信はずっと持っていますし、プロとして持っていなきゃいけないと思っています。今のところAIは過去のデータ分析からしか音楽を生み出せませんが、さらに進化して未来のことを考え出すと言われています。でもぼくが思っていることはAIでは想像できないだろうし、逆に良い具合に共存できる自信もあるというか。

そう考えると、これから面白くなる未来しかぼくは見えなくて。そういう意味で今、すごく楽しいです。30年経とうが全然やりたいことが枯渇しないし、むしろ増えていっています。

――やりたいことをご自身でどんどん見つけていっているところもありますよね。

田中:新しい音楽を聴いたときはもちろん、素晴らしいアートに出合っても美味しい料理を食べても、あぁ、ぼくもこんな風に、いやこれ以上の感動を人に与えられるような音楽を作りたい、とか思うわけなんですよ。もちろん、その欲求のすべてを形にすることなんてできっこないのですが、満足していないからこそ、未だに音楽制作に貪欲な自分でいられるというか。

――とても精力的に活動されていますが、アウトプットする時間がとても長いように思います。インプットはどうされているのでしょうか?

田中:そうですね、でも仕事をずっとしていますけど、そのひとつひとつがインプットにもなっているんです。選曲をしていて今まで知らなかった音楽を知ることもあるし、それで刺激を受けて制作することもありますし。だから仕事自体がインプットの場になっています。イベントで一緒になったDJが知らない音楽をプレイすることで刺激を受けることも当然ありますし。インプットとアウトプットは表裏一体なんじゃないかと思いますね。

あとはクリエイティブな仕事をしていて思うのが、買い物熱の大事さ。ぼくは買い物が大好きなんですが、買い物熱が冷めているときはクリエイティブ熱も不思議と下がっているような気がするんですよ。何かを欲したり、何かを探したり、結果何かを手に入れたり、という行為自体がクリエイティブだと思います。だから、今回紹介した「Justear」を手に入れたことでできることが増えたり、気付いたりすることが増えたわけですよ。それこそ、まさにクリエイティブだと思います。

>> 田中知之(FPM)

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<文/手柴太一(GoodsPress Web) 写真/高橋絵里奈>

 

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