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毎秒が絵になるコンパクトフルサイズ。ソニー最新コンデジ「RX1R III」の実力

【趣味カメラの世界 #31】

前回は、Sony(ソニー)の「RX1R III」(実勢価格:65万8900円)が持つデザイン性やサイズ感、プロダクトとしての完成度に注目しました。今回はその続編として、実際の作例を通じて、このカメラがどんな景色をどんな表情で描き出すのかを見ていきます。フォトグラファーの田中さんが撮影した写真をもとに、その魅力をさらに掘り下げていきましょう。

監修・執筆:田中利幸(たなかとしゆき)|ファッション誌などでブツ撮りやポートレートを中心に活動するフォトグラファー。カメラ・ガジェット好きで自身で運営するブログ「Tanaka Blog」において、カメラやガジェットに関するちょっとマニアックなことを書いている。

 

*  *  *

■透明感のある“ルック”が映し出す、どこか懐かしい空模様

RX1R IIIには、αシリーズでもおなじみの「クリエイティブルック」が入っています。なかでも気に入っているのが、フィルムライクな「FL」系。新しく増えた「FL2」、「FL3」は、街を歩きながらそのまま切り取りたくなる、ちょうどいいトーンなんです。撮って出しでも十分雰囲気があって、カメラ任せでスナップしていても気分がいい。

もちろん、クリエイティブルックはそのまま使っても良し。少しコントラストを落としたり、色の濃度をいじったり、自分の“気分”に合わせて微調整するのも面白いところ。

RAW現像をしなくても思った通りの画に仕上げやすいので、つい気軽にシャッターを切りたくなります。

▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F4、ISO125、クリエイティブルック:FL3

FL3で撮ると、まずコントラストがふっと軽くなります。発色も澄んでいて、前ボケが大きめのシーンでも全体が重たく見えないのがGOOD。

雲の合間から覗く青空も、どこか昔の写真を思い出すような、少し懐かしいトーンにまとまってくれます。

▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F4、ISO100、クリエイティブルック:FL3

スカッと晴れた空も気持ちいいですが、雲が多い日の空は、表情が次々と変わっていく面白さがあります。このカメラの35mmという画角は、歩きながら空を撮るときにも広すぎず狭すぎず、構図を整えやすいと感じました。

さらに、クリエイティブルックを使うと、ファインダー越しの景色にどこか懐かしさがにじみます。いつもの道が少し違う表情を見せてくれるようで、自然とシャッターに手が伸びる瞬間が増えていきます。

■光を探すように、カメラを向ける

▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F4、ISO100、クリエイティブルック:IN

このカメラを持って歩いていると、いつの間にか“光”を探すようになっている自分に気づきます。

コントラストと彩度を抑えた、マットな質感のクリエイティブルック「IN」。無機質なガラスやビルを、どこかさみしげに映し出してくれます。雲間からわずかに差し込む光と、ガラスに返る反射。その静かな対比が印象的で、自然とカメラを向けていました。

▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F4、ISO100、クリエイティブルック:FL3

本当になんでもない路地でも、このカメラなら不思議と撮りたくなる景色に変わります。有効約6100万画素という高解像度センサーは、細部の質感までしっかりと描き出してくれます。

「IN」で抑えたコントラストが、光と影のグラデーションをやわらかく整え、空気の層まで映し込んだような穏やかな仕上がりになります。

撮影しているときの感覚も心地よく、ファインダーを覗き、光の差す方向を意識しながら構えると、自然と姿勢が整うような気がします。おそらく、モニターが固定式という制約が、むしろ撮影に集中しやすい環境をつくってくれるのでしょう。

メカニカルシャッターの音や指先に返ってくる感触も、一枚ごとに「撮る楽しさ」を思い出させてくれます。

■見慣れた景色が、まるで映画のワンシーンのような色合いに

▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/1250秒、F5.6、ISO400、クリエイティブルック:FL2

RX1R IIIと「FL」で切り取る日常の風景は、何気ない瞬間がふっと映画のワンシーンのように感じられることがあります。

少し高めのコントラストと落ち着いた発色が特徴の「FL2」。このクリエイティブルックを通すと、見慣れた景色にも“絵になる”感覚が生まれます。日常の風景が新鮮に見えることこそ、写真の面白さのひとつだとあらためて思わせてくれます。

▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/1250秒、F5.6、ISO400、クリエイティブルック:FL2

少し懐かしい雰囲気のマンションのエントランス。いつもなら気にも留めずに通り過ぎてしまう風景が、このカメラと一緒だと、入口から青春映画の主人公が現れてくるんじゃないかと期待してしまいます。

▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F2、ISO200、クリエイティブルック:ST

バイクの配置が印象的だったスナップショット。なんでもない風景ですが、「IN」が落ち着いた質感とノスタルジックな空気を添えてくれます。レスポンスやAFも十分な性能を備えた本機は、「あっ」と思った瞬間を逃さず切り取れるので、散歩中のスナップ撮影にもよく馴染みます。

このカメラとクリエイティブルックを組み合わせて歩くと、見慣れた街が少し違って見えてくる。それは単にセンサーやレンズの性能が高いからではなく、描写に“気持ちよさ”が宿っているからだと感じました。

▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F4、ISO100、クリエイティブルック:IN

複雑に入り組んだ電線の一本一本までしっかりと解像していて、本機とレンズの描写力の高さがよくわかる一枚。

空の青みも筆者の好みに近く、RAW現像なしでここまで仕上がるのは、日常使いのカメラとして理想的だと感じました。

■撮るほど魅力が増すコンパクトフルサイズの到達点

高解像のフルサイズセンサー、ZEISSのレンズ、コンパクトなボディ。どれも魅力的な要素ですが、本機の真価は“日常のささやかな輝きに気づかせてくれること”にあるのではないかと思います。

普段なら見過ごしてしまうような瞬間に、ふと目が向く。
写真を撮る理由が、ほんの少し変わる。

RX1R IIIには、そんな“気づき”をもたらす力があります。さて、次回はポートレート撮影に挑戦してみたいと思います。

>> Sony「RX1R III」

>> 趣味カメラの世界

<取材・文・写真/田中利幸 モデル/野上桜禅(@iam._.on)>

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