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もっと散歩が楽しくなる。『散歩の達人』編集長に“散達”的まち歩きの楽しみ方を聞いてみた

<“ウォーキング”のススメ>

みなさん、“まち歩き”ってお好きですか?

「何となく歩いていたら新しい店を見つけた」「同じ街でも毎回発見がある」。そんなふうに街を楽しんでいる人が意外と多い一方で、目的地に向かうだけで“歩く楽しさ”がよく分からないという人も少なくないはず。

そこで今回、大人のための首都圏散策マガジン『散歩の達人』編集長・平岩 美香さんに“まち歩き”初心者でも楽しめる歩き方を教えてもらいました。

今回歩いたのは昭和の下町情緒と現代の便利さが混ざり合う街・蒲田。サンライズアーケード街やバーボン通り、蒲田名物の羽根付き餃子、そして温泉──。この街を例にしながら、初心者でも真似できる“まち歩き”のコツを探っていきます。

■ 昔ながらの専門店が残る街は歩いて楽しい

▲今回最初に訪れたのは蒲田駅西口にあるサンライズアーケード街

ヤマケン:私、マップアプリを元に移動してしまうことがほとんどで目的地にたどり着いたら終わってしまうんです。“まち歩き”ってどう始めればいいのでしょうか?

平岩さん:マップアプリは便利ですが、最短距離ばかり選んでしまうと“寄り道”という楽しさを自ら消してしまうんですよね。街の面白さは目的地と目的地の“あいだ”にこそあります。決めたルートから少し外れてみたり、路地に入ってみたり。目的地へ一直線に向かわないだけで見えてくる景色が違ってきます。

昔は紙の地図を持ち歩き、店の情報や気づいたことをどんどん書き込んでいました。小さな発見を重ねるほど自分だけの地図が育っていく感覚があって、それが今の“まち歩き”のベースになっています。

今だったらそれこそマップアプリでもコメントを残せる機能がありますから、歩きながら気になった場所や訪れた場所にピンを立てて、メモを残しておくのも楽しそうですね。

ヤマケン:Googleマップに美味しかったご飯やさんと温泉は保存してます。メモも入れるようにしよう。今だからこそあえて紙の地図を使うのも楽しそうですね。面白い街ってどうやって探すといいんでしょうか?

平岩さん:“まち歩き”の先輩から教えてもらったキーワードに、豆腐屋さん、おでんダネ屋さん、鶏肉屋さんがあります。こういう専門店が残っている街はだいたい面白いんです。古い商店が健在で、地元の方に愛されていることが分かる。酒屋さんが元気な街も超ポイントが高いです。

ヤマケン:超ですか(笑)。でも、なんか分かるかも。

▲サンライズアーケード街にある「酒の旭屋」。店内の奥に、様々な日本酒を試飲できるスペース「裏旭屋」がある

平岩さん:今回歩いた蒲田もその典型で、例えばサンライズアーケード街という商店街にある「酒の旭屋」さん。昔ながらの酒屋なのですが、実は店の奥に“角打ち(かくうち)”のようなスペースがあって36種類の日本酒を試飲できるんです。

外から見ただけではまったく分からず、これは入ってみないと分からないですよね。こうした“気づきにくい面白さ”が潜んでいるのが、歩いて楽しい街や商店街の特徴のひとつだったりします。表から見える情報だけで判断できない奥行きがあるからこそ歩くたびに新しい発見が生まれるんです。

ヤマケン:まさに教えてもらわなかったら素通りしちゃうお店かも。でも、そういう場所ってどうすれば見つかるんでしょう? 私の妻はよくSNSでお店探しをしてたりするんですが、どうにも性に合わずでして。

平岩さん:一番は気になったら入ってみることですね。誌面を企画する際も、ネットやSNSで情報を探すことも多くなりましたし、実際それらの情報は役に立ちます。ですが、足を使うに勝るものはありません。気になったところには必ず入ってみて、お店の人に話しかけてみたりする。

あとは、実際に住んでいる人に聞いてみるのもいいですね。そこに住む人がよく行くようなお店を知れたり、逆に住民だからこそ詳しく知らない場所にあえて私たちが足を運んでみるみたいな。

■ 路地をズラすと、街の表情がガラッと変わる

ヤマケン:なるほど! 好奇心のままにまずは入ってみるっていうのは分かりやすくていいですね。歩きながら街を見ているとどんなところが気になってくるものなんですか?

平岩さん:歩いていて改めて感じたのは、通りを変えるだけで雰囲気が一気に変わることがある、ということですね。

ここは“バーボンロード”と呼ばれる通りで、見ての通り雰囲気のある居酒屋さんが軒を連ねています。蒲田と言えばここ、というくらい有名な場所ではありますが、昔からの店も多く残っていていわゆる“味”がある通りだと思います。

ヤマケン:むしろ味しかない。これが今歩いていたサンライズアーケード街のたった2本隣の路地にあるのがすごいですね。

▲昭和の雰囲気をそのままに、数多くの居酒屋が軒を連ねるバーボンロード。取材が日中じゃなかったら吸い込まれるところだった

平岩さん:そうなんですよ。こういう街並みが今も残っているのは魅力のひとつですよね。通りを少しズラしただけで、こんなふうに空気が変わる場所に出会える。それを実感できるのが“まち歩き”の面白さなんだと思います。

蒲田の人には「“安くておいしい酒が飲める街”ばっかり言わないで! もっと良いところもあるよ」なんて怒られることもありますけど(笑)、お酒が好きな人なら一度は歩いてみてほしい通りです。

■「目的地がないと不安」な人は名店をディスティネーションに

ヤマケン:とはいえ、ビギナーとしてはなんとなくフラフラ歩くのには少し抵抗があります。何かしら目的地があったほうが安心できる気もするのですが、そういう場合はどうすればいいでしょうか?

平岩さん:その感覚、すごく分かります。だからこそ、“行ってみたい名店や老舗のお店をとりあえずのディスティネーションにする”という歩き方もあります。名店や長く続いているお店にはそれなりの理由が必ずあります。それに、不思議とそういうお店って何度行っても飽きないんですよね。なので、そういったお店を目的地にしつつ、繰り返すようですが、そこまでの道で寄り道をしてみるのがおすすめです。

▲実は“羽根付き餃子”発祥の地である蒲田。数ある中でも人気の歓迎(ホアンヨン) 本店」

今回、先ほどの「酒の旭屋」と、この「歓迎(ホアンヨン) 本店」、最後に「蒲田温泉」を目的地にしていますが、フラフラした結果バーボンロードに出合いましたよね? こんな感じに事前に行ってみたい有名店だけを決めておけば、あとは歩いてみるだけなんですよ。

ヤマケン:勝手に“目的地を設定しちゃいけない”なんて思ってましたけど、全然そんなことはないんですね。なんだか“まち歩き”って目的地を決めずにフラフラ歩くものだと思いこんでました。

■街ごとに“必ず違うもの”を見ると、歩くのが楽しくなる

ヤマケン:さっきから歩いていて、確かに通りごとに空気感が違うのが分かってきたがします。他にどんなところを見ればもっと楽しくなりますか?

平岩さん:街ごとに“必ず違うもの”を見るのもおすすめです。例えば街灯ですね。商店街が変わると街灯の形やデザインが全然違うんです。「ここは丸いな」「ここは角ばっているな」「ここは妙に凝っているな」とか。いいか悪いかじゃなくて、違いがあること自体が面白くないですか。

ヤマケン:あ、ほんとだ。通りによって街灯が違うなんて初めて知ったかも。

平岩さん:それから長く続いているお店の看板。今みたいに既製のフォントではないオリジナルな文字は時代の記録ですよね。そういうものを見つけるとつい立ち止まってしまいますね。

▲蒲田本町にある美容院「ヘアーショップ oneすてっぷ」。まさに店名を表すような軽やかなフォントがかわいらしい

ヤマケン:昔からある看板ってフォントからデザイナーさんがゼロから作ってることもありますもんね。なんだかノスタルジー感じてきたぞ。

平岩さん:歩いていると「この通りだけ雰囲気が違うな」とか、「この看板だけ時代が違うな」とか、細かい違いが自然と目に入ってくる。そういう違いが積み重なって「この街はどういうふうにできてきたんだろう」と想像してみたり。車や自転車だと通り過ぎてしまうようなものが歩いているとちゃんと見えてきて、意外な発見に繋がったりするんです。そういうところも魅力なんだと思います。

■ 持ち物は「ボトル」と「手ぬぐい」、時々「バックナンバー」

ヤマケン:私の場合街の不動産屋さんに張り出されている家賃や間取り図をつい見ちゃってるかも。街によって全然違くて面白いんですよねぇ。ところで、必需品はありますか?

平岩さん:必需品というほどではないのですがよく歩くので、まずは飲料水用のボトルですね。そして重要なのが“手ぬぐい”です。

▲古くから地元民に親しまれる天然温泉「蒲田温泉」。手ぶらセット(800円)もあるのでふらっと立ち寄れるのが嬉しい

蒲田のように昔ながらの風情が残る街では、銭湯や温泉に出合うことが意外と多かったりします。今回であれば、ここ「蒲田温泉」。こんな街中にありますが、天然温泉で地元の人以外にもわざわざ入りに来る人が多い温泉施設です。

歩いていると自然と吸い寄せられるので(笑)、困らないように手ぬぐいは常にバッグに入れています。荷物になりませんし、すぐに乾いて便利なんですよ。

ヤマケン:住宅街のど真ん中で温泉! これは確かに入らずにいられないかも。取材でなければ入って帰るのに…! ぐぬぬ。

平岩さん:本当にそうですよね(笑)。ちなみに、手ぬぐいはプリントより“染めもの”がこだわりです。プリントは使うほどボロくなりがちですが、染めはやわらかくなり、ほつれが落ち着き、少しずつ“自分の手ぬぐい”に育っていくのがいいんですよ。ご当地手ぬぐいがあるとつい買っちゃいます(笑)

ヤマケン:私地方の温泉巡りが趣味なんですが、ご当地手ぬぐいってなんで買っちゃうんでしょうね。ほかに持ち歩くものはありますか?

▲バックナンバーの地図を開いて今との違いを見るのも楽しい

平岩さん:宣伝というわけでは決してないんですが(笑)。たまに『散歩の達人』の“バックナンバー”を持ち歩くことがあります。昔の記事を片手に今の街を歩くと、「当時と変わらないもの」「変わったもの」が見えてくるんです。『散歩の達人』に限らず、古い旅行雑誌があるとこういう楽しみ方もできるんです。

ヤマケン:あ、それ面白いかも。

■ 散歩は“脳のキャッシュ”を消してくれる

ヤマケン:“まち歩き”が楽しいのは分かってきた気がしますけど、他にも何か良いことってあるんですか? 平岩さんはどういうときに歩きたくなりますか?

平岩さん:私は疲れている時ほど歩きます。なんというか、歩く一定のリズムの中で余計な思考が削れていき、“脳のキャッシュがクリアになる”ような感覚とでも言うんでしょうか。

歩いているとふと忘れていたタスクを思い出したり、新しいアイデアが浮かんだりもします。もしかしたら“散歩=高齢者の趣味”というイメージがあるかもしれませんが、老いも若きも良いところがたくさんあるんです。

ヤマケン:なるほどなぁ。クリエイターは煮詰まったら歩く、みたいな話を聞くことがありますけど、そういうものなのかも。ちなみに、“まち歩き”って痩せるものですか? 歩くから健康にも良さそうですけど。

平岩さん:うーん…むしろ逆かも。歩いてて雰囲気の良い喫茶店やお菓子やさんを見つけてしまうと、寄らないわけには行かないので(笑)。お風呂といい、なんでこんなに引力があるんでしょうね。

ヤマケン:(笑)。私もお肉屋さんにコロッケあったら必ず食べちゃうもんなぁ。一旦“痩せ”は忘れましょう(笑)

■ “まち歩き”ビギナーにおすすめエリア:谷根千と中央線沿線

ヤマケン:ほかにビギナー向けの街はありますか?

平岩さん:ベタですが、谷根千(谷中・根津・千駄木)はやっぱり歩いていて楽しいですね。古い店と新しい店がすごく近い距離で混ざり合っているので、「“まち歩き”ってこういうことか」と感覚的に分かりやすいんです。

昔ながらの商店や路地が残っている一方で、リノベーションしたカフェや新しいお店も自然に溶け込んでいて、少し歩くだけで景色が切り替わるようなイメージですね。その変化が歩く楽しさにつながっています。

ヤマケン:あ、大昔に谷中銀座は行ったことあります。当時上京したててで、あんまり良さが分からなかったけど、今行けばもっと楽しめそう。

平岩さん:今日みたいに肩肘はらずに、ふら~っとゆったり歩いてみたら良いと思いますよ。同じ理由で、中央線沿線もおすすめですね。西荻や吉祥寺のあたりは昔からの店と今の店が同じ通りに並んでいて、レトロと今が無理なく共存している印象があります。目的地を決めて歩いてもいいし、特に決めずに路地に入っても発見があるので、慣れていない人でも楽しみやすいと思います。

*  *  *

目的地へまっすぐ向かう移動を“まち歩き”に変えるのは、実はとても簡単と平岩さんは言います。気になった店に入ってみる、知らない路地に通ってみる、街のちょっとした部分を観察してみる。そんな小さな寄り道や視点の変化が、街の楽しさを一気に広げてくれます。ボトルと手ぬぐい、時々バックナンバーをバッグに入れて、今日は少しだけ遠回りして帰ってみませんか。

1月21日発売の大人のための首都圏散策マガジン『散歩の達人』2月号では、今回歩いた蒲田を含む「蒲田・大森・池上」エリアを特集。誌面では今回訪れたスポットをはじめ、実際に歩いてこそ分かる街の魅力がより詳しく紹介されています。まち歩きをきっかけにもう少し深掘りしてみたくなった人はあわせてチェックしてみると、次に歩くときの楽しみがさらに広がるはずです。

 

<取材・文/山口健壱(GoodsPress Web) 写真/高橋絵里奈 協力/散歩の達人

山口健壱(ヤマケン)|キャンプ・アウトドアと動画担当。2年半ほどキャンプ場をぐるぐる回って、回り回ってGoodsPress Web編集部所属。“キャンプの何でも屋”としてキャンプを中心にライティング、動画製作、イベントMCなどを行う。田舎住まいで我まち歩きを知らぬ。これを機に近く学生時代を過ごした街を歩いてみようかな。

 

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