恵み豊かな美しい里山で、元野良犬のてんを迎えた水戸さん一家。てんがもたらす笑顔あふれる暮らしが、離れて暮らしていた家族を再び結び付け、心をひとつに束ねてくれた。
【DOG LOVER】
水戸文恵さん
てん(メス・ 7歳/ミックス)

■全身で喜怒哀楽を伝えるてんの愛らしさに家族みんなが首ったけ
水戸文恵さんが愛犬・てんと暮らすのは広島県安芸高田市。もともとは広島市内に住んでいたが、2015年に両親がこの地に移住し、その3年後に文恵さんも移り住んだ。
「ここは祖母の生家で、父もこの家で生まれ育ちました。田畑が広がるのどかな里山で、とても景色のいいところです」
文恵さんも両親も犬は好きだったが、広島市内では賃貸住宅だったために犬と暮らすことはできず、「いつか田舎に住んだら犬と暮らそう」と思っていたという。その願いが叶ったのは、文恵さんが安芸高田市で暮らしはじめた翌年だった。
「母が近くの山で、大きな木の下にあった巣穴から子犬の3兄弟を保護したことがきっかけでした」
子犬たちの母犬は、地元で「ノラちゃん」と呼ばれている野良犬だった。「いつの間にか住み着いたコで、地域を巡回して、畑を荒らすタヌキやシカを追い払ってくれるんです。里守り犬のような存在で、地域のみんなが気にかけ、可愛がっていました」
水戸家は、保護した3頭のうち、鼻に点々模様のあるコに「てん」と名付け、家族として迎えることにした。犬とはじめて暮らすことになった文恵さんが一番驚いたのは、家族が帰宅したときのてんの喜びっぷりだった。
「ちょっと出かけて戻ったときでも、本当にうれしそうに出迎えてくれます。私の帰りをこんなにも喜んでくれる存在が待っていると思ったら、家に帰るのがすごく楽しみになりました」
てんをひと言で表すなら「気分屋さん」だと文恵さんは言う。
「臆病なんだけど頑固で、自分の意思がとてもはっきりしているコ。ちょっとわがままなんだけど、それが可愛い子どもと暮らしているような気持ちです。自分が嫌と思ったら触らせてもくれませんが、甘えたいときには自分からぎゅっと寄り添ってきます。そのギャップがたまらなく可愛い。表情が豊かで、顔を見るだけで、いまどんな気持ちでいるのか、喜怒哀楽がわかるのも愛しいです」
そんなてんの愛らしさに心を奪われたのは文恵さんだけではなかった。「てんにもっと会いたい!」の一心で、広島市内に住んでいた姉の友恵さんもまた、安芸高田市に引っ越してきた。
「姉は田舎暮らしにも犬にもさほど関心がなかったのに、てんにびっくりするくらいメロメロになって(笑)。毎週のように広島市内から帰省するようになり、ついに近くの親戚の家に移住しました。こうして改めて家族が集まって暮らすようになったのは、本当にてんのおかげです。祖母も『てんがおってよかったのぉ』とよく言っています」
■てんを中心に家族が集まり気づけばみんなが笑っている
祖母・民子さんは、てんと暮らすようになって“夕食後、てんにオヤツのボウロをあげる”という新しい日課ができた。
「祖母が投げたボウロをてんがキャッチしたり、転がしたボウロを追いかけたり。ボウロの袋を開ける音を聞くと、てんよりも先に祖母が手を差し出すくらい、毎晩、楽しみにしています」
大人ばかりの暮らしは、ある意味で落ち着いている。そこにてんがきて、家族の会話や笑顔が増えた。大笑いすることもよくあるという。
「乳歯のうちは噛みぐせがひどくて家族全員傷だらけ、椅子も畳もボロボロ。いつの間にか全員のパジャマが盛大に破れていたときには、みんなで大笑いしました。あとは、かじった畳の上に寝そべったり、両足で押さえたりして一生懸命、隠そうとするてんの姿をみたときは、あまりの可愛さに怒るのも忘れて、笑っちゃいました」
仲のいい家族だからこそ、意見がぶつかることもあるが、そんなときもてんがいれば自然と丸く収まる。
「けんかをしていても、てんのことであれば話もするし、笑っちゃうこともあります。そうやって、私たち家族を結び付けてくれています」
てんとの暮らしは、地域とのつながりも広げてくれた。兄弟犬の家族をはじめ、ご近所さんとは犬の話題で会話が弾む。奉納神楽や花田植など、地域の伝統行事にも積極的に参加している。
「一人とつながると、みんなとつながる。そんな田舎ならではの温かさ、豊かさを実感しています」
安芸高田の厳しい冬も、てんがいれば楽しみな季節に変わる。
「てんは雪が積もった中を散歩するのが大好き。走り回って、雪に顔を突っ込んで、鳥や獣の足跡をたどってと大忙しです。それに付き合うのは大変ですが、喜ぶてんを見ると幸せな気持ちになります」
移ろいゆく季節を感じながら畑仕事をしたり、お茶や保存食をつくったりと、豊かで充実した日々を送る水戸家。互いを思いやり、ともに笑う家族の中心には、いつもてんがいる。
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<文=成田美友>
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